夏の思い出
来ていただいてありがとうございます!
日が高くなるほどに参道を歩く人が増えて行った。メインの通りに元々あるお店の他にも、ちょっとした脇道から続く広場には屋台なんかも設置されてて、美味しそうな匂いがしてくる。
「明後日の夜に神事があるんだって。それでいつもより人が多いんだそうだよ」
護衛のクシフォスさん達は気を遣ってくれているのか、少し離れた所を歩いてる。そのせいか隣を歩くリヒトクレール様はリリー様の姿でいつものように話してる。
確かレーヴェ王国ではお茶会や舞踏会があるって、ロゼが嬉しそうに話してたけど、リヒトクレール様はここにいてもいいのかしら。「やるべきことは済ませてきた」って言ってたから、もう全部終わったのかな。お茶会や舞踏会って婚約者選びの為よね……。もう決まったんだろうか。軽い感じで尋ねてしまえば良かったんだけど、何となく聞けなかった。
「あっ……すみません!」
ぼんやりと店の品物を見てるうちに、人にぶつかってしまった。
「危なっかしいね」
肩を引き寄せられて手を繋がれてしまった。手があったかい。大きな手……。手?!
「あ、あの、手?手が……!」
「顔が真っ赤だね。レイフィーネ姫」
クスクスと笑うリヒトクレール様はまだ私と手を繋いだまま。
「人が増えてきたし、はぐれるといけないから」
うわぁ……緊張して手に力が入っちゃう。お店見物してる余裕なんてない。手に汗かいてない?リヒトクレール様が優しいのは知ってるけど、これじゃあ私が小さな子どもみたい。
「……エイスリオ王子とは手を繋がないの?」
「リヒトクレール様は意地悪ですね。そんなことするわけないでしょう?」
あいつなんてはっきり言って知り合い以下よね!
「エイスリオの事好きだった?」
「好きになろうと思ってました……」
これからよく知っていこうと思ってサンサントル学園に来たんですけどね。せっかく婚約したんだから……はあ……。
いやいや、気分を変えよう!せっかくここまで来たんだから、色々見ておかなくちゃ!
「行きましょう、リリー様!」
私はリヒトクレール様の手をを引っ張って、キラキラ光る星水晶のお店へ入って行った。
一通り参道のお店を見て回った私達は、北の神殿の名物の青紫色の果物、イオススのジュースを飲むことにした。護衛の皆も一緒にね。クシフォスさん達は遠慮してたけど、人数分を買って渡しちゃった。
「美味しいね」
「はい!甘酸っぱくて不思議な味ですね」
ジュースは初めての味で冷たくてとても美味しかった。
リヒトクレール様の手が離れた時、私はホッとしたような寂しいような不思議な気持ちになった。なんだろう、この気持ち……。
北の神殿の街での滞在二日目はお守りのブレスレット作りをした。
ありがたいことに神殿の一室を借りることができて、神官様からのお話も聞けることになった。神殿の中にいるってことで、クシフォスさん達には交代でお休みを取ってもらうことにした。
「この通りに作るのね。私もやってみたいわ」
「じゃ、じゃあ一緒に作りましょう、リリー様」
何故か今日もリヒトクレール様が一緒だった。
木の机の上に絵本を置いて、購入した星水晶と白い香木を準備した。星水晶は小さな丸い粒に成形されていて、すでに小さな穴も空いてるから加工の必要はない。
「問題は香木の方よね」
小さく切り出して、更に細かい文様を彫らなくてはならない。
「おやこれは珍しい。このような絵本があったのですね。こちらの地方では同じようなお守りが作られていますよ」
お父様より少し年上に見える神官様が持ってきた絵本を手に取った。
「そういえば似たような文様のアクセサリーが売ってましたけど、あれって全部お守りなんですか?」
「ええ。文様にはそれぞれ意味があります。家内安全、恋愛成就……。この絵本の文様は……魔除けのようですね」
絵本の内容も悪い悪魔を追い払うお話だから文様の意味と合ってる。
「ナイフや彫刻刀はお貸しします。頑張ってくださいね。くれぐれも怪我には気を付けてください」
神官様は木箱に入った道具を机の上に置いて、部屋を出て行った。
「神官様達もこういうお守りを作るんだね」
使い込まれた道具を手に取ってリヒトクレール様が呟いた。
「うー、上手く削れない……」
白い香木を小さく切り分けてみたけど、上手く綺麗な形にならなくて困った。
「レイフィーネ姫、魔法でやってみようよ」
「え?魔法で?」
私が慣れないナイフで悪戦苦闘していたら、リヒトクレール様が提案してくれた。ちなみにもちろん今日もリリー様の姿だ。
「ウォーターカッター」
リヒトクレール様の指先から細い水が恐らく物凄い速さで噴出した。そして香木を簡単に切断していった。
「すごい!水にそんな使い方があったなんて!」
私も早速やってみたけど、水魔法の練習をやってなかったから全然上手くいかなかった。
「うーん……」
「風魔法は?」
「あ、そうか!ありがとうございます!」
私は水魔法よりも風魔法の方が使い慣れてるんだった!やってみたらナイフや彫刻刀より思い通りに彫れる!私は夢中になって、ツヤツヤに磨いた丸い香木に絵本と同じ文様が彫っていった。最後に慎重に通し穴を開けて、星水晶と一緒に絵本の通りに紐を通していく。
「ブレスレット完成!」
「やったね。とても綺麗にできてる。絵本の通りだ」
褒めてもらっちゃった。嬉しい!
「リヒトクレール様、ありがとうございました!こんなに早く綺麗に出来たのはリヒトクレール様のおかげです!これ、受け取ってください!」
私はいくつか作ったブレスレットのうち、一番出来の良いものを渡した。なんでもお守りは誰かに貰った方が効果があるんだそう。
「いいの?じゃあ、交換しようか。その方が効果があるんでしょう?」
ロゼの顔がちらついたけど、断るのも変だし、欲しいなって思ったからリヒトクレール様が作ったものを受け取った。そして受け取ってから気が付いた。
「あ、一粒だけオレンジ色の星水晶が入ってる……」
「綺麗でしょう?昨日店で見つけて買っておいたんだ」
星水晶は無色透明の石の中に小さな光が入っているように見える綺麗な石だ。でも、中には色のついたものがあって、これは珍しくてかなり高価になる。
「これってとても高いものでは……?」
「そんなでもないよ。気にしないで。もうあげちゃったから返さないでね」
リヒトクレール様はさっと私が作ったブレスレットをつけてしまい、私の手首にリヒトクレール様が作ったものをつけた。
「お守りがレイフィーネ姫を守ってくれますように」
そう言って微笑んだリヒトクレール様は女神様のように綺麗だった。
ここまでお読みいただいてありがとうございます!




