夏休みと古代のお守り
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ロゼメーア視点があります
最近、小さな喧嘩を見かけることが増えてきた気がする。学園内でも出かけた先の街でも。
気のせいかしら?気温が高くなってきて汗をかく日が増えてきたから?この時の私はそんな風に考えて次第に気にしなくなっていった。
「リヒトクレール様、今日も来ませんでしたね。前はちょくちょく来てくれてたのに」
今日は夏休み前の最後のミーティングだった。魔法クラブのメンバーは全員集まれば二十人くらいいるらしいけど、いつも来るのは十人くらい。簡単な活動報告をしあって、みんなでお茶を飲んでおしまいになった。リヒトクレール様は結局、最後まで姿を現さなかった。学園内で出会えば笑顔で挨拶をしてくれるけど、ここへは星祭り以降は顔を出していない。
「クラブ活動は強制じゃないからねー。興味が無くなって幽霊部員になる人も多いよー」
アルガス様や他のメンバー達も特に気にした様子もなく、三々五々帰って行った。
「個人の活動がメインですものね」
ちょっと寂しい気持ちがしたけど、そういうものなら仕方ないのかもしれない。
「僕は夏休みはもう一度各地の遺跡を回るんだー。レイフィーネ姫は何を読んでるの?」
「あまりにも古代魔法の資料が少なくて、古代の絵本を。悪いものを退けるおまじないをする女の子のお話です。綺麗なお守りなんかも描いてあって、面白いんですよ」
「へぇー!!本当だ!なになに?星水晶と香木のブレスレット?」
「結構かわいいので、夏休みはこれを作ってみようと思ってます」
開いたページには割と詳細なお守りブレスレットの絵が描かれてる。
「星水晶はここよりもっと北の方で採れるんだよねー」
「はい。調べてみたら結構手に入れやすいみたいで。北の神殿の参道で売ってるそうなんです。それに北の神殿には古い文献があるそうで、先生に相談したら神官様に連絡をしてくれて研究のために古い文献を見せてもらえることになったんです!」
「良かったねー」
「はい!今から夏休みが楽しみなんです!」
「楽しそうな話をしてるね」
石造りの床が光って人影が現れた。
「リヒトクレール様!」
「リヒトクレール王子ー!久しぶりだね」
「ミーティングに出られなくて申し訳ないです。少し先生と話をしていたので」
リヒトクレール様はいつものように晴れやかな笑顔で近づいて来た。
「レイフィーネ姫は北の神殿へ行くの?いつ?」
「夏休みの後半に。一応、一度は国に帰ってくるように言われてるので」
「そうなんだ。楽しんで来てね」
それだけ言うと、リヒトクレール様は来た時と同じように魔法の扉を使って部室を出て行ってしまった。
「やっと来たと思ったら、あっさり帰っちゃったねー。何をしに来たのかな?」
アルガス様は頬杖をついて微笑みながら私の方を見てる。
「ミーティング不参加を謝りに来たんですね、きっと。律儀な方ですよね。試験勉強とかで忙しいのかもしれませんね」
そう……。楽しい夏休みの前には定期試験がある。
「それだけかなー?……まあいいや。試験勉強が大変なのは僕達もでしょー?」
「私は現実逃避してます……」
「落第点とったら夏休み中補習だよ。そんな生徒は滅多にいないらしいけどね」
「……頑張ります」
流石に落第点は取らないと思うけど、大丈夫よね?うう、今日はもう寮の部屋へ戻って勉強しよう……。私は読んでいた本を閉じた。
ロゼメーアは焦れていた。
(星祭りのダンスパーティー、リヒトクレール様に申し込まれると思ってたのに……)
ロゼメーアの期待を裏切って、リヒトクレールはダンスパーティーに参加することすらしなかった。
(ピシース王国からの婚約の打診に検討中ですって、お返事が来てたのに……)
検討中というのは縁談を受ける可能性が高いという意味だと受け取っていたロゼメーアはとても喜んだが、リヒトクレールとの距離は殆ど縮まっていなかった。
ロゼメーアのピシース王国はリヒトクレールのレーヴェ王国とは対立する力関係の立場にいる。王国間の力の均衡を保つために、また敵対しないように縁を結ぶのにはちょうどいいはずだ。それになによりロゼメーアはリヒトクレールに憧れていたから、彼の婚約者になりたかったのだ。
サンサントル学園に入学すればリヒトクレールとすぐに仲良くなれると思っていたが、思うようにはいかなかった。リヒトクレールの周りにはライバルの王女達や貴族令嬢達がたくさんいて、なかなか二人だけで話す機会がなく、リヒトクレールはみんなに平等に優しかった。
リヒトクレールのことが大好きなロゼメーアはいつも彼を見ていた。だから最近の微かな違和感に気が付いていた。
(なんとなくレイに対する態度は少し違うように思えるわ。でもレイには婚約者がいるし大丈夫よね?)
ロゼメーアは安心していたが事態は急変した。レイフィーネはエイスリオを毛嫌いしており、婚約解消するために王籍を抜けるとまで言い始めたのだ。
実はロゼメーアは星祭りの夜、女子寮の部屋からリヒトクレールがレイフィーネを助けるところを見てしまったっていた。
(どうして二人の事にリヒトクレール様が口を挟むの?まさかとは思うけどリヒトクレール様って……ううん、そんなはずないわ。でも……)
ロゼメーアはリヒトクレールをいつも見ていた。だから気が付いてしまった。リヒトクレールがレイフィーネに挨拶をする時、とても優しい目で見つめていることに。
ロゼメーアはとても焦れていた。
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