星祭りと赤いほうき星
来ていただいてありがとうございます!
いくつもの星が流れていく。
星祭りの夜は銀の星の飾りがランタンの光を反射してキラキラ輝いてる。まるで地上にも星が瞬いているみたい。一年中でいちばん街が美しい季節だって、ほろ酔いのおじさま方が酒場のテラス席で話し合っていた。
「綺麗ですね、リリー様」
「本当だね」
夜の街は危険だからというエイスリオの言葉で、お祭り歩きはおしまいになった。街に家があるという設定のリリー様に別れ際にそっと話しかけた。他のみんなはお祭りの事をはしゃぎながら話していて聞こえていない。
「明日はどうしましょうか?少し離れてますけど神殿の方へ行きますか?」
確か神殿の方には街のような賑わいはないけれど、厳かな雰囲気でまた違った趣の美しさがあるって聞いてる。
「ううん、もういい。もう、十分楽しんだから」
「え?でも……お祭りはまだあと二日もありますよ?」
変身魔法も解けることがなくて、問題なさそうだったのに、もういいの?
「あ、そうか!私がいると余計な人がついてきちゃうから、落ち着かないですよね?」
私は前を進むエイスリオを軽く睨んだ。
「じゃあ、こっそり二人だけで行きますか?」
「それはかなり魅力的な提案だけど、流石に婚約者がいるのに他の男と二人きりはまずいと思うよ」
「あ……そうでしたね」
女の子同士に見えても中身はリヒトクレール様なんだから、良くないことだよね。それに魔法が大丈夫だって分かったからもう私がいなくてもいいんだよね。寂しい気持ちでいっぱいになったけど、何とか自分を納得させた。
「本当に僕はもう十分楽しめたから、大丈夫。ありがとう、レイフィーネ姫」
リヒトクレール様はそう言って流星の中で笑った。
「本当に行かないの?レイ」
星祭りは今日も続いているけど、なんだか行く気になれなかった。それにどうせエイスリオがついてくるって思ったら、つまらなくなってしまった。エイスリオがついてきてても気にならないみたいで、ロゼ達は今日も街へ行ってしまった。
「さっさとエイスリオとの婚約を解消して来年は自由の身になりたいわ」
コンコンっ!
寮の部屋で古代魔法の本を読んでいたら、ドアがノックされた。ちなみに星祭りの間は、学園は開店休業中で、自習期間になってて学園の施設は解放されているけど先生達はいない。
「お届け物ですよ、レイフィーネ姫」
寮の管理人の一人、お母様くらいのお年のクレアさんが大きめの箱を届けてくれた。
「ありがとうございます」
受け取って差出人を見るとエイスリオだった。
「なに、これ?」
中に入っていたのは綺麗な水色のドレスだった。
「綺麗なドレス……だけど、私にこの色ってあんまり似合わないのよね……。これってつまりダンスパーティーに一緒に行けってことかしら……。無い無い!」
私はドレスを元通りにしまい込み、即、男子寮へ返しに行った。
最終夜のダンスパーティーには参加しないって決めてる。エイスリオと一緒に参加したら、みんなに認知されて婚約解消が難しくなっちゃうもの。私はついでに学園の図書棟へ行って他に古代魔法の本がないか探すことにした。魔法クラブの研究テーマは私の中でほぼこれに決まっていたし、古代魔法の研究者になりたいなって考えるようになっていたから。
「うーん……。思ってたよりも資料が少ないわ」
何冊かの本に少しずつ古代魔法の事が載ってたけど、本当にわずかな記述しかない。歴史書についでに書かれてるって感じ。ノート数ページ分にまとめられるくらい。
日暮れに女子寮への道を歩いていると呼び止められた。
「レイフィーネ姫!」
エイスリオが学園に戻って来てた。ロゼ達の護衛はいいの?って思ったけど、そろそろ暗くなるから、ロゼ達も戻って来てるのかもしれない。
「どういうつもりだ?」
「なんでしょうか?」
「ドレスの事だ。どうして俺の元へ戻って来てる?」
「だってダンスパーティーになんて行かないもの」
「どうしてだ!君は俺の婚約者だろう?!」
「今は一応そうですけど、婚約は解消してもらう予定なので」
「勝手なことを言うな!一度決められた約束事を本気で反故にするつもりなのか?」
「私は王国を出るつもりです。そうなれば私に価値なんてなくなるわ」
自分で言ってて空しいけど、事実だから仕方ない。
「…………」
ほらね、エイスリオも反論できない。なんだかそれはそれで悔しいなぁ。
「とにかく今現在君は俺の婚約者なんだから、ダンスパーティーには一緒に行ってもらう」
「お断りします」
「レイフィーネ!」
エイスリオに手首を掴まれそうになった。呼び捨てにされたわ!腹立つ!
「いくら婚約者でも無理強いは良くないよ」
「え?リヒトクレール様?」
エイスリオの腕を掴んで止めてくれたのは、リヒトクレール様だった。
「貴方には関係無いでしょう」
不愉快そうなエイスリオ。リヒトクレール様、どうして学園に……?星祭りへは行かなかったの?
「俺達王族の婚姻には王国間の派閥の均衡を保つ意味もある。それはレイフィーネ姫だって理解しているはずだ」
「だからって、嫌がる女性を無理矢理屈服させることが正しい事なのかい?」
「そ、それは……。俺だって我慢してるんだ」
「我慢……?か弱い女性を押さえつけることが我慢なの?」
リヒトクレール様の厳しい口調にエイスリオは言い返すことができず、しばらくの間沈黙した。
「…………まさかこんなに普通の姫君と違うとは思ってなかったから」
悔しそうなエイスリオはぽそりと呟いた。
「貴方の言う普通って何?ロゼみたいな姫君のこと?」
「……っ!」
「いくら私でもわかります。エイスリオ様はロゼが好きなんですよね?」
「……断られたんだ。ピシース王国には最初に申し込んだ」
ああ、私は二番煎じだったんだ。
「だから、次に王国同士で利益がある縁談を考えた。誰でも良かったけど学園に入ってから女子生徒のアプローチを受けるのは面倒だったから早く決めてしまいたかった」
面倒って!女の子避けに使おうとしてたんだ!二番煎じでもなかったわ……。私って物凄く下に見られてたのね。
「少しならエイスリオ王子の気持ちは分かるよ。僕も政略結婚をしたくなくてまだ婚約者を決めてない。学園にいる間だけはって猶予をもらってるから」
だからリヒトクレール様はまだ恋人も婚約者もいないんだ。
「でもね。もしも婚約することになったなら、君のようにその相手をぞんざいに扱ったりはしない。唯一の人として大切に愛していくつもりだ」
一瞬ズキンって胸が痛んだ。リヒトクレール様みたいな人に愛してもらえる人は幸せだろうな……。
「もし、もしも貴方に他に好きな人がいてもですか?」
エイスリオがリヒトクレール様を睨みつけた。
「ああ。そのつもりだ」
リヒトクレール様のエメラルドグリーンの瞳に暗い影が宿った気がする。
私達は好き嫌いだけで相手を自由に選べない。それは小さな時から教えられているし仕方がないとは思ってる。でも私にも譲れない部分はあるわけで、せめて一番の存在として尊重して欲しかった。縁談が来た時こんな私でも選んでくれる人がいるんだから、学園に入ったら恥をかかせないように頑張ろうって思ってたのに。自分なりに精一杯好きになろうって思ってた。でもそんな気持ちは全部無駄だった。
「とにかく、私はこのまま婚約を継続するのなら、ディデュモイの王室から離れることも考えています。これなら政略結婚の意味もないですよね」
「…………そこまで俺が嫌なのか」
「最初に私を否定なさったのはそちらでしょう?私ももうエイスリオ様には何も期待してないです。では失礼します」
「おいっ」
「やめたまえ!レイフィーネ姫、もう行って」
「リヒトクレール様、ありがとうございます」
私は走って寮へ戻った。
「今頃ダンスパーティー真っ最中ね」
星祭りの最終夜、一人で天文の塔の屋上で流星群を見てた。婚約者のいないロゼはやっぱり婚約者のいない男子生徒に申し込まれて、ダンスパーティーに参加してる。
「エイスリオもバカだよね。私と婚約なんてしなければロゼに申し込めたのにね」
「あ、星がたくさん流れてきたわ!今夜が極大ね……すごい!……んん?あれって何かしら……赤くて大きい流れ星……?」
その夜たくさんの青白い星達の光を打ち消すように赤いほうき星が現れた。
「なんだか、血の色みたいで不気味だわ……」
沢山の幸運を不安に塗り替えてしまったように思えた。
後から聞いたところによると街の中は大騒ぎになったみたい。みんな物凄く驚いていて、年配の方々の中には「妖し星だ」って杖を振り回す人もいたんだって。
そしてこの日を境に人々に小さな異変が起こり始める。
押さえつけているものが大きい程、異変は大きくなる。
ここまでお読みいただいてありがとうござうます!




