星祭りと古代の魔法
来ていただいてありがとうございます!
「へぇ、古代魔法か。面白そうだね」
天文の塔で本を読んでいたらリヒトクレール様が手元を覗き込んできた。リヒトクレール様のはちみつ色の髪がサラサラと揺れている。ここ二、三日は晴れた日が続いていて、窓から入って来る風が爽やかになってきた。
私は今、古代語を必死で勉強しながら見つけた本の解読を進めてる。辞書で調べたり、考古学が専門のアルガス様に分からないところを聞いたりしながら。
「どんな魔法があるの?」
「水瓶を一瞬で魚でいっぱいにする魔法とか、月の光を集める魔法とか……アルガス様、私の翻訳、合ってるでしょうか??」
「大丈夫だよー。この本が独特みたいだしー」
「良かった。アルガス様が仰るなら間違いはないですね」
「よく見つけたね。こんな不思議な本」
リヒトクレール様は驚き半分呆れ半分といった顔で本の表紙を見ている。
「私の掃除の担当箇所が図書棟の『古書の部屋』だったんです。掃除を終えて一息ついていたら偶然目について、気になったので借りてきたんです」
「『古書の部屋』?一人で掃除をしたの?」
「はい。小さな部屋だったので、案外早く終わりましたよ」
「そう。大変だったね」
本当は魔法を使わなければもっと時間がかかっていたかもしれない。リヒトクレール様が分かってくれて労ってくれたのが嬉しかった。
「ちょっと試してみようかな。えっとこれにしよう。砂糖を雲に変える魔法」
クラブ室の備え付けの茶器からシュガーポットを持ってきて、小皿に砂糖を取り出した。
「えっと、砂糖に手をかざし、呪文を言いながら魔力をこめる」
『アレーギ スィネフォン!』
ポンっ!って軽快な音がして、本当にお砂糖が雲みたいにふわふわになった!
「で、できた!!」
「おおっ!本当に雲みたいだけど……これって綿菓子じゃない?」
「うん。甘いねー。呪文が不完全みたいだ。完璧に成功してれば空に浮いたはずだよー」
アルガス様が砂糖の雲をちぎって食べながら、魔法が書かれたページを読み直してる。
「綿菓子……これが!私、初めて見ました。でも残念、失敗なんですね……。あ、美味しい」
私も少し食べてみた。甘いお砂糖の味だけど、溶けてなくなっていく食感が楽しいお菓子だった。
「古代の言語は発音が今とは少し違うから難しいのかもしれないね」
「発音の練習をすればいけるよー!」
「そうですね。頑張ります」
二人は落ち込む私を慰めるように笑った。優しくていい人達だ。
何度か練習して、浮かぶようにはなったけど、結局お砂糖は綿菓子になっただけだった。つまりふわふわと浮かぶ綿菓子の雲。これはもしかしてこういう魔法なのかもしれない。綿菓子をいくつも作ってしまったので、お砂糖抜きのお茶を淹れて休憩をすることにした。
「そういえばもうすぐ星祭りだねー」
星祭りは毎年夏の流星群の時にアステールスケーネ地方で広く行われているお祭りだ。
「楽しみですね」
楽しそうなアルガス様と正反対に浮かない顔のリヒトクレール様。
「どうかしたんですか?リヒトクレール様」
「うーん。イベントごとって少し苦手でね」
リヒトクレール様って人が多い所がダメなのかな?そういえば殆どお茶会にいらっしゃらないってロゼが嘆いていたっけ。
「レイフィーネ姫はエイスリオ王子と参加するの?……婚約者……なんだよね?」
リヒトクレール様のいきなりの質問にお茶をふきそうになった。
「しません!嫌ですね!!絶対に嫌!!」
私はカップを静かに置いてから、断固として言った。
「!」
「!」
「あ、すみません。驚かせてしまって。でも彼と一緒に行くくらいならここで魔法の研究をしてた方がましです」
星祭りの時、街で昼夜を問わずに文字通りのお祭り騒ぎだし、最終夜にはサンサントル学園でダンスパーティーが開かれる。私は街へは遊びに行くつもりだけど、パートナーと同伴必須のダンスパーティーには参加しないつもりだ。
「どうかしたの?彼と喧嘩でもした?」
「いえ。それ以前の問題なんです。私、騙されました……」
何故かリヒトクレール様から謎の「圧」を感じて、私は事情を説明してしまった。
「うーん。王国同士の派閥関連の政略結婚はよくあるけど、最初からその態度は酷いね」
アルガス様もうんうんと頷いてくれてる。私の気持ちを分かってもらえてとても嬉しい。
「もし穏便に婚約解消できなかったら、王家を出る覚悟です!」
「あ、じゃあさ!学者になるのはどうー?僕の家みたいに」
「え?学者ですか?」
「うんうん。あとは学園の先生になるとかねー」
「学者に先生……いいかもしれないですね!」
アルガス様の提案にパァッと未来が明るく見えてきた!自分の成績の事を考えると厳しいような気もしたけど、それはこれからの努力でなんとかしてみせる!
「レイフィーネ姫は街へは行くの?」
「もちろん行きますよ!ロゼ達と一緒に行こうかなって思ってます」
「いいね。羨ましいな」
いつも笑顔のリヒトクレール様の顔に影が差した。
「そうかー。リヒトクレール王子は人気者だから、お祭りをゆっくり見られないんだね」
リヒトクレール様にはまだ恋人や婚約者がいない。だから彼狙いの女の子達がいつも周りを囲んでいる。それじゃあお祭りを楽しむなんてできないだろうな……。可哀想。
「あ、じゃあ!これを試すのはどうですか?」
私は本のとあるページを開いた。
「変身魔法?」
「成程ー!」
「やった!成功!」
何度か練習して、リヒトクレール様を黒髪ストレートの女の子の姿に変えることができた。ただ魔法が不完全なのか顔立ちはよく見られたらバレてしまいそうなので、アルガス様の眼鏡(たくさん持ってるうちのレンズがただのガラスのもの)を借りて付けてみてもらった。
「これなら周りを気にせずにお祭りに行けそうだねー」
「そうですね。こんな方法があるなんて自分では思いつかなかったよ。ありがとうレイフィーネ姫」
リヒトクレール様はかなり嬉しそうにしてた。せっかく学園に来たのに、自由に行動できずに鬱屈した思いがあったんだろうね。
「当日は僕も一緒に行ってもいいかな?」
「え?私達と一緒に?」
「あーそれがいいかも。リヒトクレール王子も魔法を使えるだろうけど、万が一のために事情を知ってるレイフィーネ姫が一緒の方がいいと思う。僕は一緒に行けないからねー」
もしも街でトラブルがあった時、女装したリヒトクレール様が大勢の前に出現するなんて事態は絶対に避けなきゃいけないわ。発案者の責任もあるし!私は謎の使命感を感じていた。
「そうですね……よろしければご一緒しましょう、リヒトクレール様」
「いいの?……ありがとう!」
「一緒にお祭りを思いっきり楽しみましょう!」
「……うん」
恐らく行けなかっただろう昨年の分も一緒に楽しめるといいな。お祭り楽しみ!
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