第一蹴 キックオフ
サッカーをしてたので書きたくて書きたくてしょうがなかったんです。なので書きました。ぜひ読んでください。
『ママがたおれた』
そう告げる父の顔は俺をできるだけ動揺させまいと強がりを数滴、悲しみの大海に垂らし入れたようなそんな顔だった。
その日俺はいつも通り仲間達とサッカーをしていた。人数が少なくて11対11はできないけれど、俺にとってはそれが当たり前で適当に楽しかった。いかにも途上国風の様子を呈するこのグラウンドにはサンサンと照りつける太陽に肌を焼かれ汗を滲ませる子供達以外に人はいない。
ハーフタイム
『ていうかお前うますぎだろーお前にばっかりやられすぎて俺泣きそうだよ。』
こいつはDFのジャクソン。遅刻魔だ。
『がちそれな』
こいつはGKのピーター。真面目でチームのまとめ役。
『まぁそれほどでもあるな。』
鼻を高くして言う俺、フォワードのロマーニョ
『こいつプロになりたいんだってさ』
こいつはMFのロナウホ。お調子者だ。
『えーそうなん!?』
『いやーなれると思うね俺は、応援してる。』
『流石に厳しいって』
各々の意見が交差する中
俺はパンッと手を叩き一旦その場をおさめて一言
『プロになったらサイン書いてやるよ』そう言って俺は仲間を沸かせた
さて後半戦といこうと腰を上げたその時一つの人影がこちらに近づいてくるのが見えた。
『あれお前のパパじゃね』
とジャクソン
確かにあれは、俺の父だ。それは間違いない。しかしなんだか様子がおかしい、生気がないというか、いつものトラクター顔負けのガタイが少し萎んでいるように見えるのだ。その様子をみてこれは只事じゃないと俺は察した。
『どうしたの』と俺が聞くと彼は信じられないことを口にした。
―――『ママがたおれた』
その瞬間俺の世界から色と音が消えたように思えた。
白と黒にではなく全てが灰色に、静と動、有と無
その境目が俺の目からすっかり姿を消してしまった。
心の中でずっとノイズが鳴っているような、これ以上の情報を俺の体が遮断しているような感覚だった。
話を聞くとどうやら持病の腰痛が悪化し
『痛みに耐えられずよろめき倒れたところ頭を強くうち意識が朦朧としている状態』とのことらしい。
それを聞いた俺はいてもたってもいられず走り出した。
目的地は、もちろん母の待つ家だ。
俺はこんな試練を課してくる神を恨んだ。
傷心という言葉で表現するのは気が引ける
それだけ有り余る悲しみを抱えながら必死に走った。
涙を流しながら走った。
そして家が見えた。
より足に力が入る、はやくしなければ手遅れになってしまいそうな気がして。
家にかけずり込むとそこには母の姿があった。
よかった、意識はまだあるみたいだ。
俺は静かに近づき母の手を握る
『何やってんだよ母さん』
『ごめんねロマーニョ』
『謝らなくていいよ。むしろ謝るべきなのはこっちのほうだ。こんな時に呑気にサッカーだなんて。』
『いいのよ、ロマーニョこんなのすぐに治るから。それにあなたには夢があるんでしょう?プロになるっていう夢が』
――『あぁ、でも本当になれるわけじゃないし。』
本当にできの悪い息子だ。愛情をくれる母に、信じてくれる母にこんな卑屈な態度をとってしまうなんて…
『なれるわよ。絶対。あなたなら』
『そ、そうかな』
直接言われるとちょっと照れる
『おいで、おまじないをかけてあげる』
『なんの?』
『あんたの夢が叶うおまじないさ』
そう言って母は俺を胸元に引き寄せて、頭を撫でてくれた。
もう少しこうしていたい、この時間がずっと続いてほしい。
その時、母の手の力がすっと抜けるのを感じた。
ある夏の日
思い出の詰まった我が家で
母は眠るように息を引き取った。
『おい、ロマーニョ!』
大声を出しながら父が部屋に入ってきた。
このどこか涼しげな空気の漂う、外気とは一線を画したこの部屋に入った瞬間半袖の父は何かを察したのか俺を強く抱きしめた。
俺の髪に水滴が落ちた感触がしたと同時に父の啜り泣く声が聞こえた。
俺と同様彼も泣いているのだ。
仕事熱心で優しい母という存在はもうこの世にはない。器のない魂の行き先を俺達は知らないけれど母の残した軌跡を胸の中で震わせ生ていくことを心に決めた。
母は俺の心の中で生きている。
そう何度も念じ
くじけそうになる自分を何度も奮い立たせながら俺はサッカーに打ち込んだ。
逆足の練習をしてみたり、自分のエゴを封じターゲットマンの役割に徹してみたり、前より一層プロになるための努力をした。
『お前最近めっちゃ頑張ってるな』
そうロナウホが言う。
『よぉ、ロナウホ今日ははやいんだな。』
ロナウホが続けて
『まぁな、今日は待ちに待った試合だぜ?あいつらに目にもの見せてやろうぜ!というかよーお母さんが死んで、一時はどうなることかと思ったけど大丈夫そうだな』
『お、おい』
キーパーのピーターが不機嫌そうに言う
『あ!わりぃ別にそういうわけじゃ』
『いや、いいんだ別に、それに一つ新しい夢ができたから』
『一体どんな夢なんだよ』
『秘密だにょーん』
『きも』
そう俺には一つ夢ができた。それはサッカー選手なら誰しもが憧れる夢でサッカーにとどまらず全スポーツの中で最も名誉ある称号…
ワールドカップで優勝することである。
『おーいみんな、何話してんだよー』
遅刻していたジャクソンがやってきた
『遅いぞジャクソン、みんなお前を待ってたんだ。』
『ごめんって、それで一体何の話してたの?』
『ジャクソンも来たことだしいくか!』
『『おーー!』』
『だから何の話してたんだよー!!』
叫ぶジャクソンを尻目に俺達は一斉にグラウンドに
走り出した。
俺のキックオフで試合がスタート相手はラフプレイで有名な隣町のサッカーグループだ。
ロナウホからのロングボールの着地点に俺が入りヘディングで上がってきていたジャクソンに落とそうとしたところ。相手の1人が俺の頬を肘で打ってきた。
こんなの一発でイエローだが、今日は生憎、というかいつもレフェリーがいないのでファウルという概念は存在しないに等しい。だかそれでもみんな節度を守りフェアプレイの精神で楽しんできたのに、こんなの到底許されるべき行為ではないと思いながら 一心不乱にボールに追いかけた。
点が動かないまま前半が終わり
ハーフタイムに突入した。
『あいつら、プレー荒いべ』
『あんなんうんこやん、うんこ』
『ちょっとねぇ、世間は許してくれやせんよ』
2バカ1真面目が相手を好き勝手罵倒する中
俺はただ1人相手に復讐する方法を考えていた。
(スライディングで削るか…でもそれは俺のポリシーに反する行為だな。)
長時間悩み悩んだ結果たどり着いた答えは、
完璧な一点をとること。
抗議の余地も与えない
完璧なシュートでゴールを奪い
完膚なきまでにボコボコにする
それこそが俺が考えつく最善の方法だった。
頭の中でシュミレーションを繰り返し、完璧なシュートへの方程式が完成したところで後半に突入。
相手は平気な顔してラフプレイをやってくる。
ムカムカが最大限にたまったところで俺の思い描いていた理想の形がやってきた。
ロナウホからのロングボール
背中にぴったりついてくる相手DF
頭を越えるほどの高さのボール
左隅がら空きのゴールネット
俺が先ほど思い描いた方程式の答えは
―オーバーヘッドシュート
地面を蹴った反動で大きく飛び上がり体を縦ににねりながらボールを頭よりも上の位置で蹴る
サッカーにおいて決まると一番盛り上がるシュートである。
それをここで決めれば
サッカープレイヤーの風上にも置けない奴らを打ちのめし、プロに確実に近づくことができる。
俺は地面を蹴り上げ高く飛んだ。
まるで時間が止まったかのようにボールがスローになって俺のほうにむかってきた。
頭上に見えるボールに迷うことなく足を振り抜く。強烈にインパクトされたボールはゴールネット左端につきささる
―――はずだった…
人生というのはなかなかどうして思い通りにいかないものだと思う。どうやら俺の足は空を蹴り上げただけでボールにはかすりもしなかったらしい。神に祈る暇もなく俺は地面に落ち後頭部を強く打って
羞恥と無念の中、呆気なく死んだ…
目を覚ますと俺は知らないところにいた。
一寸先も見えないほど真っ暗だ。
『ここが、あの世ていうやつか。』
???『違うよ』
『だ、誰だ!』
声の主がつま先から自分の姿を現した時俺は驚嘆した。
『あ、あなたは!!』
『あ、あなたは!!マラドーナさん!?』
ナレーション『説明しよう!マラドーナとはアルゼンチンのサッカー選手で15歳でプロとして、16歳でナショナルチームの代表としてデビュー。あのワールドカップには4度出場。神業とも思える高い技術から、神の子と呼ばれ多くのサッカー選手・ファンから尊敬されていた超偉大な選手である!』
『そんなあなたがなぜここに?
あ、それよりもここはいったい?』
『ここは、この世でもあの世でもない言ってしまえばあの世への入り口といったところかな』
『あの世の入り口…ということは俺はやっぱり…』
『そう落ち込む必要はない。君におねがいがあって、君をここに呼んだんだ。』
『お願い?』
『あぁそうさ、そのお願いっていうのはねサッカーが発展しきってない世界にいってサッカーを世界一のスポーツにしてほしいのだよ。』
『??』
『さっぱり理解ができないといった様子だね。世界というのは君の知る世界だけではないんだよ。世界というのは言わば電車のようなものでね、違うレールにはまた違う電車が走っているものなのさ。』
『はぁ』
『まぁ行ったらわかるよ。ということでいってらっしゃーい。』
そう言ってマラドーナさんは俺を蹴り飛ばした。
『どっひゃー!!』
俺は状況が飲み込めないまま白い光に包まれた。
『う、うーん』(誰だこのおっさん…)
『あなた、目を覚ましましたよ。』
『おう、そうだな』
(ちょび髭の厳格そうなおじさんと
かわいいちゃんねーが俺を見て泣いてる…
これはいったいどういう状況だ…)
困惑する俺を無視してちゃんねーが俺の脇に手を差し込みスーと持ち上げた。
(ちょっとこちょばゆいだろうが、どこ触ってんねん!!)
抵抗の意を示すため俺は足を必死にぶんぶん振った。
そんなことお構いなしに謎のちゃんねーは涙を
まるで滝のように流している。
(あぁあぁ、もったいねぇ)
もう床はびちょびちょである
(こいつどさくさにまぎれておしっこもらしてんじゃねぇか?)
そうおもいながら涙の落下地点に精一杯足を伸ばした
(もう少し…)
そんなことをしていると
運命の悪戯か、ちゃんねーが流した涙が頬をつたい俺の足におちてきたのだ。
その涙を俺はここぞとばかりに蹴り上げた
(しゃーーーー!!!!)
この時の俺は知るよしもなかった。
この行動が俺の波瀾万丈たる異世界生活の始まり
―すなわち
"キックオフ"だということを…
みなさん楽しんでいただけましたでしょうか。
これからも第二、第三、第n…と書いて行きますので応援よろしくお願いします。