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第5話 優勝候補①

 渋谷に似てるけど、微妙に違う場所でオレ達は目を覚ました。みんな各々アスファルトの地面から起き上がる。そして、お互いの顔を見合わせた。


『ピンポンパンポーン! ゲーム・オブ・ザ・ダイニングデッドの世界へようこそ!』


 突然、交差点の大型街頭モニターに映像が流れる。映し出された映像は逃げ惑う人々を悪者っぽいキャラがピストルで撃ち殺すアニメーションだった。


『みんなの中には自分の意思で来た人もいれば、ご家族とかに売り飛ばされて来た人もいるよ! でも安心して、みんなここでは平等だよ! ルールは簡単! これから十四日間、追ってる来る悪い殺人鬼達から逃げ延びて! 最終日まで無事に逃げ切った参加者には豪華賞品があるから頑張ってね!』


 アニメーションは札束を持って喜んでいる少年少女に変わる。


『なんと豪華賞品だけど、最終日までに残ってる人数か少なければ少ないほど、賞金額が上がるんだ! 最終日に残った人が一人の場合は、なななななーんと、十億円!』


 アニメの中の少年は少女に撃ち殺された。少女は十億円を手に入れる。


『その他の詳しいルールは、みんなの首から下がってるスマホで確認してね!』


 それから映像はカウントダウンに変わる。


 10、9、8、7、6、5、4、3、2、1……


『さあ! みんな、ヨーイ……ドンッ!』



 街頭モニターが設置されたビルの一番下のテナントから動物のマスクを被って、両手に武器を携えた異様な集団が出てくる。そして、オレ達は狩られ始めた。



◇◇◇



 内通者って何するんだろう。俺わりとバカだし、嘘とか苦手なんだけど大丈夫かな。そんな俺の心配をよそに本部の責任者である超巨乳なタチバナさんは、大きなテレビモニターに映したスライドで、今回潜入するグループについて説明を続ける。


「今日でゲームも三日目だけど、彼が今回一番人気の大村翔太おおむらしょうたくん、十七歳。文武両道で性格も明朗快活な彼だけど、ご両親が借金のためにこのゲームに参加させた可哀想なタイプのプレイヤー。今、彼は同じくらいの年齢の男女三人ずつの計六人のグループのリーダーよ」


 おお。翔太くん、イケメンじゃーん。なんとなく隣の席のマナミさんを見た。彼女は真剣に翔太くんの画像を見入っている。


 ……。


 なんか、モヤッとしたな、今。なんだろう。ま、いいか。


 俺はマナミさんからモニターにまた目を移して、タチバナさんの説明の続きを聞いた。要するに大村翔太くんは一番人気なので、最終日付近まで生き残らせたいということだった。


 とりあえず、これから三日間は俺とマナミさんが担当。いくらマナミさんと一緒とはいえ、イチャイチャできるわけもなく、七十二時間の連続勤務つらすぎるんだが。



 文句を言っても仕方がないので準備を始める。九ミリのハンドガンを腰の後ろのホルスターに納めると、上から大きめのパーカーを着た。さらに上からフライトジャケットを羽織り、内ポケットに予備のマガジンを入れる。


「えー! ヨタ君、ズルイ!」


 銃器を持ち込もうとしている俺にマナミさんが非難の声をあげた。


「マナミさんの格好じゃ、隠し持てないでしょ」


 それにあんまり射撃センスもなさそうだし。サブマシンガンをぶっ放してる様子から察するに。


「もし銃、見つかってしまったら、アイテムボックスから手に入れたことにしなさい」


 ちょっと怒られるかもと思っていたタチバナさんは、意外にも助け舟を出してくれた。街の中にはプレイヤー向けに、アイテムボックスが設置されている。中身はサバイバルグッズや医療品、それに武器の場合もある。とはいえ、本当はアイテムボックスの中に実弾入りの銃が入っていることはないのだが。


 俺の偽名はひがし与太郎で、マナミさんの偽名は西真波にし まなみ。東と西の苗字で意気投合したことにする。タチバナさんから特に怒られなかったので、実際同様に恋人同士の設定にした。


 地獄の七十二時間勤務、隙あらばイチャイチャしてやる!


 俺はそう心に固く誓い、プレイヤー達のいる地上に、マナミさんとエレベーターで上がった。



◇◇◇



 オレは、食料品を探しに行っていた仲間の吉岡由梨よしおか ゆり仁宮正樹にのみや まさきが連れてきた二人に少し違和感を覚えた。女性の方はすごくキレイな人といった感じだったが、とにかく男の雰囲気が異様だった。


 目の下に酷いクマがあり、ヘラヘラと笑って愛想よくしているつもりなのかもしれないが、瞳の奥は笑っていない。何とも言えない危険信号が自分の中で鳴り響く。しかしながら、ここで美人な女性だけ仲間に入れて、この男だけ「気持ち悪いから」と追い出すわけにはいかなかった。


 二人は、西真波にし まなみ東与太郎ひがし よたろうと名乗った。「与太郎」なんて変な名前だ。ますます怪しかったが、ヘラヘラしながら「気軽くヨタローって呼んでね。()()()()」と言われ何も言えなくなってしまった。



 今、オレは最初の惨劇を生き残った仲間達と、どうにか最終日まで生き残るべく奮闘していた。


 仲間の名前は、仁宮正樹にのみや まさき郭雄平かく ゆうへい吉岡由梨よしおか ゆり秋山未季あきやま みき山菅孝子やますが たかこ。みんな大体、十五歳から十八歳。高校生だと言っていた。


 それを考えると、真波さんも与太郎さんもオレ達よりも少し年齢が上のようだ。


 こんな異常な状況で、「気持ち悪い」なんていうオレの感情はやはり優先すべきではない。与太郎さんにも失礼だし、何よりくだらないイジメを学校でする奴らと同類になってしまう。


 オレはなんとか彼への生理的嫌悪を抑え込んだ。



◇◇◇



 青少年たちが見てる前で、イチャつくわけにもいかず、仕方なく誰も来ないであろうビルの女子トイレで、みんなが寝静まった後にマナミさんと乳くり合う。


 最初の一週間は、夜間の襲撃はない仕様だ。プレイヤー達も夜は安心して寝ている。そして、俺達社員も寮に帰って寝れるわけだ。


 あれ? ってことは、来週から夜勤あるのか? めっちゃダリぃな。昼夜問わずで仕事するのに嫌気がさして、傭兵辞めてこんな辺境の島まで来たのに。


「もう、ヨタ君。なんか考え事してるぅ」


 俺の首に腕を回したマナミさんに怒られる。「ごめん。ごめん」と謝って、彼女と唇を合わせた。ふと昼間の翔太くんの俺を見る目を思い出す。ゴミでも見るような目してたな、彼。反対にマナミさんには、好感持ってたように思う。


 ……。


 なんか俺はまたモヤっとして、マナミさんの肩にガブリと噛みついた。

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