自分の奔放さで、双子の半身を失ってしまった。
姉のエリアーノールには目元にほくろが。
妹のアリスーノールには口元にほくろが。
エリとアリの見分ける方法は、それしか無いほどそっくりだった。
男爵家に産まれた双子の女の子は、両親にとても大事に育てられた。
姉のエリは控えめで、いつも一歩引いたような性格だった。
自室で本を読んだり、お友達に手紙を書いたりすることが好きな子だった。
妹のアリは奔放で、何事も自分の思うようにする性格だった。
子供の頃からちやほやされるのが好きで、いつも異性に囲まれていた。
全く違う性格なのに、二人は二人にしか解らない世界があって、とても仲が良かった。
双子が十七歳になった頃にはエリには婚約者がすぐ決められたけれど、アリは「一人の人に縛られたくない」と言って婚約者を決めずにきた。
「アリ、もうすぐ十八歳になるのよ。婚約者をそろそろ決めないと」
「若い間は遊ばなくっちゃ。お父様達みたいなことを言わないで。少々行き遅れでもいいわ。私は私が満足するまで遊び尽くしたいの」
両親はアリのことを気にして、何人もの婚約者候補に会わせた。
アリはその相手と直ぐ仲良くなって、弄んでしまう。アリは誰にも本気にならないまま、相手を次から次へと替えて楽しんでした。
「いつか刺されても知らないからね!!」
エリはアリが心配でならなかった。
今のままでは何時か不幸なことが起こってしまうのではないかと、不安な気持ちでアリを見ていた。
エリが婚約者のクルーノベルとデートをしていると、知らない男が目の前に立ち塞がり、エリのことを罵りながら、ナイフでエリの腹を刺した。
「ざまぁみろ!!アリスーノール!!お前が俺を捨てて新しい男の下に行くからだ!!」
そう言って、倒れたエリに馬乗りになり、刺したナイフを引き抜いて、またエリアーノールに振り下ろそうとした。
クルーノベルは何が起こっているのか理解できないままでも、エリを守るために体が自然と動いた。
襲ってきた男を突き飛ばし大声で「警邏を呼んでくれ!!誰か医者を!!」と叫びながら「エリ!しっかりするんだエリ!」とエリが刺されたところを必死になって押さえていた。
鼓動と共に溢れてくる血が、エリから失われて行く命のように感じて、クルーノベルは恐ろしくて仕方なかった。
近くに居合わせた男達が、エリを刺した男を取り押さえ、警邏が呼ばれ、エリは病院へと連れて行かれた。
エリが病院に連れて行かれると、クルーノベルはエリの血で汚れた手で顔を覆って、叫び続けた。
エリをずっと押さえていたクルーノベルにはエリの命の灯火は消えていたように思えた。
事情を聴取するために、赤黒く汚れているクルーノベルを警邏は警邏所へと連れて行った。
エリを刺した男が取調室に座らせられているのを見て、クルーノベルは「人違いだ・・・この子はアリスーノールの姉のエリアーノールだ・・・」とぽつりと言った。
「人違いなわけがないだろう!付き合った女の顔を見間違えるわけないだろう!!」
「双子、なんだよ・・・アリのほくろは口元だろう?エリのほくろは目元なんだよ・・・エリは私の婚約者なんだよっ!!」
クルーノベルは座り込んで、泣きじゃくった。
エリを刺した犯人は病院に連れて行かれ、刺した相手の確認を取らされた。
エリを刺した男はエリの顔をまじまじと見て、自分の間違いを悟った。
エリは病院に運ばれたけれど、出血が酷くてそのまま息を引き取っていた。
クルーノベルはエリの手を握りしめて、泣き崩れていた。
エリの両親とアリが病院についた時には、エリはもう、冷たくなっていた。
「なんで?!なんでエリが刺されて死んだの?!」
アリが悲鳴のように言った。
「アリに間違えられたんだ」
「えっ?!」
「アリに捨てられたことを恨みに思った男に刺されたんだ」
「うそでしょう?」
「警邏所に行って刺した相手を見てくるといいよ」
両親はエリに縋りついて「目を覚まして」「起きる時間だよ。起きなさい」と声を掛けている。
エリの冷たさに驚いて、死んだことを受け入れるしかないのだけれど、受け入れられなくて泣き叫んだ。
アリはエリを刺した相手が誰なのか知るために牢屋へと向かった。
「誰が刺したのか知りたいのです。刺した相手に会わせてください」
そう、何度もお願いして「近寄らないのなら」と会わせてもらえることになった。
エリを刺した男は三度、関係を持ったことがある男だった。
とてもつまらない男だった。
会話も下手だし、気が短い。SEXも独り善がりで女を満足させることができない男だった。
最後に関係を持った日。
「あなたは女を喜ばせようとする気持ちもないのね。入れて出すことしかできない男なんかいらないわ。これ以上付き合ってられないわ。さよなら」
そんな別れだったと思う。
よく覚えていない。
男はアリに気がついて「お前のせいで!お前のせいで!俺は人殺しになっちまったんだぞっ!!」
アリは男の言い分に腹が立ち「私はあんたのせいで私の半身を失ったのよ!!返してよ!何の罪もないエリを返してよーーー!!」そう泣き叫んだ。
自分のせいでエリが死んだことを、いくら責めても自分を許せることはなかった。
エリが亡くなってからアリに対する両親の態度が変わってしまった。
同じようにエリを亡くしたのに、私は両親と手を取って一緒に悲しむことを拒否されてしまった。
エリとアリ、二人を心から愛していてくれた両親なのに、アリへの愛情はエリを失ったと同時に失くしてしまったようだった。
両親はエリを求めて、寒い日でもエリの墓所の前で泣き崩れていて、風邪が原因で肺炎を起こし、二人ほぼ同時に逝ってしまった。
二人を見送ってエリを挟んで二人を土に返した。
アリは自分が奔放だったばかりに、エリと両親を殺すことになってしまい、クルーノベルは未だに立ち直れなくて、人生が終わってしまった老人のようになっていた。
クルーノベルに「私を恨んでいいの」と伝えたが、私の中にエリを探してしまうらしく、私を見ると正気を失ってしまうことがあるために、クルーノベルの両親に「もう来ないでくれ」と言われてしまった。
エリを殺した男は死刑を言い渡され、復讐することもできなくなってしまった。
爵位は私が継いだものの、私は誰とも結婚せず一人でエリと両親を思って生きた。
アリは十八歳から八十七歳まで一人で領地経営をして、自分が死ぬ直前に、王家へと領地と爵位を返還して、孤独で長い一生を終えた。
定番中の定番な話といっても過言では無いかと・・・




