41.英雄
「はぁ……はぁ……ようやく片付いたな……」
「ふぅ……はい、アルゼ様」
俺とメルは、あれから見える範囲の魔物をずっと倒していた。
ほとんどが獣姿の魔物が多かったが、ワイバーンも数体いたので、怪我こそなかったが体力的にはかなり消耗した。
「う、うぅ……」
「大丈夫か?」
「あぁ……くそっ、足をケガしちまった……!」
冒険者の男は、片足が血だらけになるほどの大怪我をしていた。
俺はすぐさま近寄り、
「《聖なる癒し》」
男の足に《特殊スキル:聖なる癒し》を使った。
光り輝いた粒子は足を優しく包み込み、
「お、おぉう――!?」
肉を大きく抉った傷は、綺麗に元通りになったのだった。
「こいつはすげぇなんてもんじゃないぞ! あんたらワイバーンも2人だけで倒してただろ? いったい何者なんだ?」
「あんたと同じ冒険者だよ。まぁ彼女は鬼人族だから、俺と違って元の身体能力が高いからな」
「いやいや、あんたも十分すげぇんだけどな……。俺はランプっていう名前でCランクなんだが、あんたらはもしかしてAランクか?」
「いや、2人ともBランクだよ」
俺がそう答えると、ランプは大きく目を見開いて驚いた。
「Bランクだって!? あんなにワイバーンを倒して、こんな大怪我まで一瞬で治せる奴がBランクだなんて、冒険者ギルドはどんな基準をしてるんだよまったく……」
「まぁそうは言っても、俺たちはついこの間までEランクとFランクだったからな……これでも結構早くランクを駆け上がったほうだと思うぞ?」
「ん? ついこの間までって……あんた、もしかして『不死の宵闇』をクリアしたとかっていう『アルゼ』って奴じゃ……」
「ああ、そうだぞ。なんだ、俺のこと知ってたのか?」
「お――」
「お?」
「おおおぉぉッ!?!」
ランプが急に大声を出したため、俺とメルはビクンっと肩を震わせて驚いてしまった。
「えぇ……な、なんだよ急に――」
「――あんたがアルゼだったのか! 噂通り強いわけだな! そんでそっちが『鬼人族のメル』か!?」
「え? あ、はい、そうですけど……」
ランプの勢いに、メルは一歩引いて頷いた。
「……本当に強かったんだなぁ。いやー、ギルドで2人の噂は聞いててな、そん時はどうせ嘘だろって思ったんだけどよ……マクシムを瞬殺したってのを聞いて『こいつは本物だ!』って驚いたもんだぜ」
「ああ、そういえば一騎討ちなんてものをしたな。少し前のことなのに、すっかり忘れてたけどな」
「やけに突っかかってきて、最終的に泣いていたあの男のことですか? そういえばそんな不届きな輩もいましたね」
「あのマクシムをそこら辺の小石と同じ扱いかよ……やっぱ2人とも只者じゃねぇなぁ」
俺とメルのやり取りに、ランプは感心したようにため息をついた。
「さて、そんじゃ俺もぼちぼち行くぜ。王都を守ってくれる英雄たちを引き留めたとあっちゃあ、助かるやつらも助からなくなっちまうからな。アルゼ、メル、本当にありがとう。助かったぜ!」
ランプはそう言い残し、治った足で走り去っていった。
「英雄、か……」
「アルゼ様は間違いなく英雄ですよ?」
「メル……。いや、俺にはなんだかそんな実感なくてな。『無能だ』とか『無駄飯食らいだ』はよく言われたけど、まさか『英雄』だなんてそんな言葉を投げかけられる日がくるなんてな」
「事実、アルゼ様は英雄だと思います。メルもそうですが、こうやって人を救ってるのですから……」
「ダンジョンを踏破したときもそうだったけど、こうやって人に喜ばれるのってこんなに嬉しいもんなんだなぁ」
俺はしみじみとそう思った。
小さいこ頃、家にいた者には天才だなんだと褒められてきたけど、ここまで本当に感謝されて、自分のしたことを認められたことなんてなかったと思う。
2度も追放されて一時は死ぬことも覚悟してたけど、本当に人生どうなるかわからないものだ。
「そうやって今思えてるのも、メルが一緒に傍にいてくれたおかげだよ。改めて、ありがとうな」
「アルゼ様……! アルゼ様が人々に感謝されて喜ばれることを嬉しく感じるように、メルはアルゼ様にそう思っていただけることがなによりも嬉しいですし、幸せに感じてます。これからも、ずっとずっと誰よりもお傍で支え続けますね」
「ああ、ありがとう。頼んだぞ」
「はい!」
メルの心強い宣言に、俺はこれ以上ない頼もしさを感じていた。
「おっと、ランプの期待を裏切らないように、俺たちも助けを待っている人たちの力になりに行こう。絶対に無理はしない程度にな」
「はい、アルゼ様!」
空にはワイバーンが飛んでおり、その多くは貴族街の上空に見られた。エンシェントドラゴンもその巨体で悠々と空に浮かんでおり、人々を逃がすなら今しかないだろう。
「あっちのほうに多くいそうだな。まだ取り残されてる人もいるだろうし、道中助けが必要そうな人がいるなら手を貸していこう」
「わかりました、アルゼ様」
俺とメルは再び走り出した。少しでも、可能な限りの人々を救うために――。
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