19.新しい仲間
俺の前にメル、そして後ろにはアビという並びでレイスを見る。
「アルゼ様」
「ああ、頼んだ」
メルの呼びかけに応じると、
「――《一鬼当千》!」
スキルを解き放ったメルの周囲にブワッと衝撃が走る。まだレイスは反応していない。
メルは「いきます」と小さく宣言し、
「フッ――!」
地面が抉れるほどの強さで蹴り出したメルは、一瞬でレイスとの距離を詰める。
「オオォォォォオオオ――」
レイスもメルを認識し、攻撃対象としてロックオンした。
だがそれ以上に早いメルは、
「ハァッ!」
レイスを斬りつけるも、一瞬だけその斬撃で身体が切れたように見えたが、すぐに元の形に戻っていた。やはり、アビの言う通り物理は無効のようだ。
「【エアカッター】!」
俺はメルがレイスから離れたのを見て、すぐさま《風魔法》の【エアカッター】を放った。
「これもダメ……か」
結果は【エアカッター】も斬撃と同じだった。
物理もダメ、魔法もダメ……俺は先ほどメルとアビに言った『試したいこと』をやるため、
「メル! 少し時間を稼いでくれ!」
確実に当てるため、メルにレイスの敵対心を稼いでもらう。
「はい! わかりました!」
メルは時折レイスに近付いて剣を振るうが、基本は《一鬼当千》で身体能力を上げたまま逃げてレイスを引き付けた。
俺はその様子を見ながら、少しずつレイスに近付く。
この《特殊スキル:聖なる癒し》を確実に当てるために。
「よし……」
あまり近付き過ぎても、こっちにヘイトが向いてしまうので、外すことはないと思う距離で立ち止まる。
俺はアビから『レイスには聖属性しか効かない』と聞いたときに、真っ先に浮かんだのが《聖なる癒し》だ。
本来は回復するスキルなのだが、これならもしやレイスにダメージを与えられるのではないかと。
――ま、もしダメだったら……その時はその時だな。
そうなったら、いよいよ覚悟を決めなければならない。
だからそうならないためにも、俺は天にも祈る気持ちで、
「――《聖なる癒し》!!」
《特殊スキル:聖なる癒し》をレイスに向けて放った。
レイスは、白く強く光り輝き――、
「オオォォォオォオォォォォォ……」
シュウウゥゥッという音とともに消えた。
「よっし!!」
「一撃だなんてすごすぎです! アルゼ様!!」
メルの黄色い歓声が聞こえる。
「メルこそ危ない役目を押し付けて悪かったな。助かったよ。メルの陽動がなかったら失敗してたかもしれないからな」
俺はメルに近づき、優しく頭を撫でた。
「えへへ」
目を細めて喜ぶメルを見ながら「あれ? 大人しいな」と思いながら後ろを振り返ると、
「意味がわからないのですよ……??」
混乱した表情のアビが、ただ1人この状況を理解出来ずに立ち尽くしていた。
◆◇◆
「つまり、アルゼは《特殊スキル:大喰らい》というスキルが原因で2度追放されて、ホーリーベアから《聖なる癒し》を奪って、奴隷商で購入したメルの身体の回復と解呪を行った……ということです?」
「ま、そういうことだな」
俺はアビにこれまでのことを一から説明した。
今後、彼女とともにするのなら、しっかり知っていてもらったほうがいろいろ都合がいいからだ。
「なんでそんな『さも当然』みたいな顔してるかわからないのですよ……」
「いや、そう言われてもな……俺も最初は驚きの連続だったけど悪いことじゃないし、今ではもう喜んで受け入れたよ」
「しかも《追い剥ぎ》というスキルも、聞く限りじゃとんでもないスキルなのですよー。あ、もしかして、アルゼがダンジョンで倒した魔物に触れてたのもそのせいなのです?」
「ご明察。今まで黙っててすまなかったな」
「いえ、それは別にいいのですよー。むしろそれが普通だと思うのですよ? アビは気にしてないのですよー」
「そう言ってもらって助かる」
アビ自身、人になかなか言うことのできないスキルを持っていたのもあって、俺がすぐには打ち明けられなかったことも理解してくれた。
「アビ」
「はいですよー」
「俺たちの仲間になってくれるか?」
俺はアビを正式に仲間に誘った。
「……アビは戦うことはできないのですよ?」
「ああ、知ってる」
「アビは……」
「大丈夫ですよ、アビ」
不安の言葉を紡ぐアビに、メルが優しく語り掛ける。
「アルゼ様はとてもお優しい方です。アビのことをしっかり考えてくれてますよ? だから安心してください。一緒に行きましょう!」
「――っ、わかったのですよ。アビも……2人と一緒に行きたいのですよ!」
「歓迎するよ、アビ。これからもよろしくな!」
「改めてよろしくお願いしますね、アビ」
「よろしくですよー!」
俺たちの言葉に、アビは弾けたような笑顔をした。
「さて、それじゃあ……」
俺はレイスがいた場所よりも奥を見やる。
そこにはダンジョンボスを攻略した――、
「宝箱なのですよー!」
アビは一目散に宝箱へと向かうのだった。
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