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18.追放

 アビがダンジョンボスに挑む前に「英気を養いますよー」と言い、俺たちは休憩エリアで食事をとることにした。


「なぁ、メル」


「はい、アルゼ様。どうしましたか?」


 アビが料理してるのを横目に、俺はメルに相談することにした。


「さっきのアビの話なんだけどさ……」


「……はい」


「ここを攻略したら――その、いいかな?」


「――! はい、もちろんです!」


『アビは――ここから連れ出して欲しかったかもしれないのですよー』


 冒険者と一期一会の付き合いでダンジョンに潜る生活。

 打ち明けることのできないスキルを抱え、頼れる兄もおらず、彼女はこの街で生きてきた。


 ――でも、アビは俺たちに何かを感じたんだろうな。


 ここから連れ出してくれるかもしれないと、俺たちならと期待したんだろう。


「ありがとな、メル」


「え、いえ、私はなにも……」


「それでも、提案を受け入れてくれてさ」


「……きっと、アビがいたら少し賑やかになって、アルゼ様の毎日が楽しくなります!」


「そうだな」


「でも……たまにはメルのことを可愛がってくださいね?」


「――! も、もちろんだよ!」


 頬を少し染めて上目遣いでそんなお願いをされ、俺は思わず抱きしめそうになってしまった。


「まーたイチャイチャしてるのですか? そろそろできるのですよー」


「ア、アビ! からかわないでください――!」


「ハハッ、まぁ実際その通りだしいいじゃないか。さ、食べよう食べよう」


「ア、アルゼ様……」


 俺たちは大一番の前に、リラックスした気持ちでアビの料理を食べて、英気を養うのだった。



 ◆◇◆



「よし、準備はいいか?」


「はい! バッチリです!」


「いいですよー」


「それじゃ、開けるぞ」


 俺は黒い扉を両手で押し開ける。


「真っ暗で見えないな……」


「ですね……でも、気配は感じます」


「ふむ……」


 ――あ、こういうときにいいスキルがあったな。


「《夜目》」


 スキルを使うと、先ほどまで暗闇でまったく見えなかった部屋の中が見えてくる。

 だが――、


「あれ?」


 部屋の中には何もいなかった。


「どうしましたか?」


「いやさ、《夜目》で見てるんだけど、魔物が全然いないんだよ」


「え? そんなことってあるんですか?」


 俺は後ろにいるアビに「どうなんだ?」と尋ねたが、「こればっかはアビにもわからないのですよー?」とフルフルと頭を振った。


「とりあえず、入ってみるしかなさそうだな。慎重に行こう」


「はい、わかりました」


「わかったのですよー」


 俺たちは最後のボス部屋に足を踏み入れた。

 すると室内の松明に火がつき、ぼんやりと明るくなる。


「……最悪なのですよ」


 アビが珍しく顔を強張らせる。


「アビ……アレは何だ?」


 部屋の中央には、透けた物体がふよふよと漂っていた。

 どうやら、あの透けた体のせいで《夜目》を使っても見えなかったみたいだ。


「アレはレイスなのですよ。物理攻撃、魔法攻撃、状態異常なんかも()()()()()()し、聖属性しかダメージを与えられないのですよ」


「おいおい、それって――」


「はい、詰んだのですよ」


 アビは諦め顔でそう言った。

 聖属性を使える冒険者ならば、全員教会に行ってるだろうし、アビの言う『詰んだ』の意味もよくわかる。


「アルゼ様……メルがなんとか時間を稼ぎますから逃げてください――!」


 メルは決死の覚悟の表情でレイスを睨む。


「いや、それよりこの扉から出ればいいんじゃないか?」


「いえ、もう開かないのですよ。誰かが死なない限りはですけど」


「死なない限り? どういうことだ?」


「仕組みがそうなってるのですよー。パーティーの1人が死ぬと外に出られるようになるのですよ?」


「マジか……」


 つまり、誰かが犠牲になれば逃げることも可能ということになる。


「てか、あいつさっきから浮いてるだけで攻撃してこないけど、このままたおせないか?」


「ダンジョンボスは、ある一定の距離に近付くか攻撃しない限りは何もしていませんよ?」


「そんな決まりもあるのか……」


 最深部まで到達したが、まだまだダンジョンの仕組みは知らないことが多そうだ。


「――アビを追放するのですか?」


「――は?」


 アビが俺を真っ直ぐ見つめる。


「……たまにポーターがダンジョンから戻って来ないことがあるのですよ。こういった時、一時的な()()()のポーターは切り捨てられることがあるのですよー……」


 俺はその話を聞いて愕然とする。

 それは話の内容がショッキングなわけではなく――。


「アビ、アルゼ様はそんなことしません」


 メルが即座に否定する。


「……人間いざとなればどうなるかわからないので――」


「絶対にありません。アルゼ様はアビと一緒に、この街を出たいと思ってるのです」


「え……」


 アビの目が見開かれる。


「そうだぞ、アビ。俺は……俺たちはお前に仲間になって欲しいんだ。だから――仲間をこんなところで追放するわけないだろ?」


「なぜ……アビを?」


「お前がそう望んだから」


「――っ」


「まぁ、なんとなく俺たちと重なるんだよ。お前のスキルの境遇ってのがさ。まだ言ってなかったけど、ここを踏破したら説明するからさ」


 俺はレイスを見る。

 さっきからずっと変わらず、ふよふよと浮いてこちらを見ているだけだ。


「でも倒すのは……」


「ちょっと試してみたいことがあるんだ」

お読みいただきありがとうございます。


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