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32 墓参とその後の騒動

【注意】

 小説家になろう様では注釈タグが無いため、ハーメルン様で注釈タグを使っている部分が本文中に入れ込まれています。

 極力違和感が無い様にしますが、今後はハーメルン様の投稿に比べて地の文が冗長になるかと思います。ご了承下さい。

―ユリウス暦千百二十一年、十月。越前国。どこかの山奥。


「ほら、キリキリ歩きなさい」


 猟師の男に先頭を歩かせて、タケル達は獣道の様な山道を進んでいた。歩みが遅くなると金砕棒で軽く小突かれる男は、その度に小さく悲鳴をあげる。


「お母さん、位置的にはどう?」


 シズクがタケルに確認すると「地形は合ってるね」と返事が返って来た。


「じゃあ、もうすぐなんだ」


 ホッとした様にフウカが漏らす。そんな会話をしているうちに、道の先に開けた場所が見えて来た。


「こ、ここがさっき言った(むら)だ。それじゃ()はこれで」


 そう言って立ち去ろうとする猟師の男をタケルは止める。


「待ちなさい。ほら、約束の冥加(報酬)だよ」


 そう言ってタケルはアットゥㇱの反物を男に渡す。戸惑いながらも男は反物を受け取りタケルに聞く。


「良いのか?」


「そりゃ、道案内の冥加(報酬)に渡す約束をしたからね。そうそう、考え無しで狩りをするのは止めた方が良いよ。それが元で誰にも相手にされなくなって一人で狩りをしてるんじゃないのかな?」


 タケルの容赦無い言葉を聞いて男は言葉に詰まり俯いてしまった。


「それじゃあね。もう二度と会うことは無いだろうけど、命は大事にしなさいよ」


 そう言ってタケルは娘二人とクマサブロウを連れて、目の前の集落へと歩を進めた。


 そして案の定、その集落はパニックに陥った。


 それはそうだろう。山の中から突然、見た事も無い体長三メートルに近い超巨大熊が現れたのだから無理もない。因みに本州在住のツキノワさんは大人のオスで体長二メートル未満である。体格が違い過ぎる。

 混乱する住人達に、タケル達は必死に説明し、更にはクマサブロウに芸をさせて見せる事で、ようやく集落の人々が落ち着きを取り戻したのは日が暮れてからだった。


 この当時は我々が知る様な惣村としての形態はまだ生れていない。耕作地域の各所に住居が散在し、取り纏めは公領であるなら役人が、私有地である荘園ならば、持ち主の名代が治めていた。

 平安時代後期頃から、これらの役人や名代が武士化していって、鎌倉時代に地頭として地位を認められた場合も多々あったとの事。

 故に、乙名とか名主とか庄屋と言う所謂『村長』は存在していなかったらしい。


 この(むら)は、そんな公領や荘園とは少しだけ成り立ちが違っていた。

 その昔、ある一人の男とその息子が二人で開墾を始め、その後に流民や山の民が集まって来て糾合して出来上がった邑であり、どこの公領、荘園にも属していなかった。

 米が育たない山間にあるので主に麦、蕎麦、稗、粟等の雑穀で食い繋いでいる。


 集落の皆が落ち着いた翌日、タケルは邑の古老から話を聞いていた。


「ここには古い言い伝えがあってな。此処を最初に開墾した男は、此処に流れて来る前に、住んでいた土地の長者に妻を奪われたうえに嫌がらせを受けて其の場に居られなくなった。そして息子と共にこの地に流れて来たと伝わっておる。男は毎日毎日、朝な夕なに息子と共に妻の無事を天に祈っておったと言われておる。邑に人が集まり増えて来ると男に言い寄る女性(にょしょう)()ったらしいが、死ぬまで独り身を通したと伝わっておる」


 シズクとフウカも黙って神妙に話を聞いている。


「それで男が亡くなった後、弔いが終わると息子も姿を消してしまい行方知れずとなった。と、そんな話じゃ。残念ながら二人とも名は伝わっておらん」


「そうなんですね。それでその男が葬られている場所とかは?」


 推定二百年も語り継がれて来た話を聞きながら、どうやらこの近くに『ひこじゅう』が眠っているらしいとタケルは確信を持った。


「この邑を作った男じゃからのう。邑の北の外れにある祠に祀られておるよ。行けばすぐ分かる」


「ありがとう。此れは騒がせた詫びと、話への報謝(感謝)の品です」


 話を聞き終えたタケルは古老に礼として砂金粒の入った袋を渡した。この当時でも砂金は貨幣代わりにも使える相応の価値のあるものだ。

 古老は袋を開けて中を検めると目を丸くした。


「邑の為にお使い下さい。では私達は祠にお詣りしたら立ち去ります」


 そう言ってタケルは一礼すると娘二人を伴って古老の小屋を出ると、小屋の外ではクマサブロウが伏せの姿勢で待っていた。


「お待たせ、クマサブロウ。場所が分かったから行くよ」


「ぐぉっ(了解)」


 クマサブロウはのそりと立ち上がるとタケル達の後に従い歩き出す。その際には大きなあくびをしたりと芸が細かい。

 小さな邑である。目的の祠には歩いてすぐに着いた。


「ここか……」


 目の前の人一人が入れる位の小さな祠の中には一抱え程の石が祀られていた。

 タケルと娘二人は手を合わせて祈りを、クマサブロウは頭を垂れて黙祷をそれぞれ捧げた。

 祈り終えて顔を上げるとフウカが何かに気付いた。


「お母さん、石の表面。模様がある」


 見れば石の表面を穿つ窪みが間が空いたり狭まったりしながら規則正しく並んでいる。


「これって二進数?」


 シズクの言葉にタケルは、はっとして『たまひこ』の〝記憶〟と〝記録〟を検索する。


「そうか、文字を〝学習〟できなかったから……」


 それは二進数のコードで書かれた父『ひこじゅう』に対する『たまひこ』の感謝と別れの言葉だった。

 現代語に訳すなら『父さん、私を育ててくれてありがとうございました。これ以上に姿の変わらない私は此処には長く居られないので、母さんを探しに旅に出る事にします。安らかにお眠り下さい』と書かれていた。


 それを読み理解した時、タケルは込み上げるものに抗えずその場に崩折れて嗚咽を漏らし始めた。


「ああ、『たまひこ』。あなたはまさか〝自我〟が、〝感情〟が……。なんて事……」


 〝自我〟も〝感情〟も無いなら、たとえ疑似人格によりヒトに擬態をしていたとして、わざわざ墓碑にこの様な死者に対する言葉を残すだろうか? これにより、どういう偶然か奇跡か『たまひこ』には〝自我〟が芽生えていた可能性が出てきた。そうタケルは思った。

 それなのに彼は、烏珠(ぬばたま)愛子(いとしご)は、何も知らぬままに母との再会の場で消し去られたのだ。その時に『たまひこ』に〝意識〟が在ったのかは彼の〝記憶〟と〝記録〟からは読み取れない。

 こうなると他の〝子供達〟にも〝自我〟が芽生えていた可能性が高い。そうなるとタケルが異星人から聞いていた『子アンドロイド達に〝自我〟は芽生えていなかった』との言は嘘だと言う事になる。

 込み上げて来る悲しみは母としての烏珠(ぬばたま)のものか、彼を憐れむタケル自身のものなのか。


「お母さん、大丈夫?」


「いきなり泣いて、どうしたの?」


 心配したシズクとフウカがタケルの側に寄り添いながら聞いてきた。しゃくり上げながらタケルは石に刻まれた『たまひこ』の言葉と彼と彼の〝兄弟姉妹〟の身に起きた可能性の話を二人に伝えた。


「「酷い……」」


 穿った見方をすれば烏珠(ぬばたま)の〝子供達〟は〝自我〟が生れていたから処分されたのかも知れない。では何故、烏珠(ぬばたま)を内包したタケルはそのままにされ、尚且つ解放されたのか。

 ひょっとしたら〝人工ではない知性体〟と言うのが鍵の一つかも知れないが、これらは全てタケルの推測であり、真相を知る異星人達は既に星々の海の彼方に去った。真実は永遠に謎のままになるのであろう。


「お母さん、そろそろ行こう……」


「いつか、ここと、あの場所にお墓を建ててあげようよ……」


 タケルを気遣いながら娘二人は移動を促した。


「そうだね。いつか、きっと……」


 タケルは後ろ髪を引かれる思いで、その場を後にした。


※ ※ ※ ※ ※


 北陸道(越路や北国街道等と呼ばれる事もある)へ出たタケル達は逆を辿る様に紀伊国へ向けて移動を開始した。

 アイヌ風装束を着てこの時代には存在しない意匠のバックパックを背負った彼女達は目立つ。

 しかし、それ以上にクマサブロウが目立つ。


「ねえ、お母さん。街道から外れて移動しない?」


「そうだよ。クマサブロウが悪目立ちすぎるよ」


「そうは言っても、藪の中とか進んだら着物がボロボロになるよ? まあ、良いじゃない。誰も手出しして来ないし、人の噂も七十五日と言うからね」


「がぉぐあぉくぉぅん(大道芸やらされるよりずっとマシだよ)」


「あはは。最後の方はクマサブロウもノリノリでやってたじゃない。大人から子供まで、大人気だったし」


 呑気に話しながら、彼女達は琵琶湖(この当時の言い方だと『近つ淡海(あふみ)』だろうか)の東岸を南進していた。

 この当時は愛発関(あらちのせき)は廃止されていたので、越前国から近江国へ簡単に入れたのだ。鎌倉時代以降とは違い、至る所に地方領主が関を設けて関銭を取る様な事も無い。たとえ在ったとしてもタケルなら強行突破一択になるのであろう。


 このまま街道沿いに琵琶湖南端の大津の近くを抜けて大和国へ入り、その後に紀伊国へと向かう。

 往路もそうだったが復路も京の都に寄ることは無いし、往路と同じくトラブルも発生しないだろう、タケル達はそう思っていた。


「どうしてこうなった」


 大津と大和国へ別れる街道の分岐点、そこに何故か兵が多数待ち構えて道を塞いでいた。早馬等に追い越された記憶など無いのだが、ひょっとしたら反対側の琵琶湖西岸を行かれたのかも知れない。


「「どうするの、これ」」


 大鎧を着込み乗馬した指揮官と、胴丸を着込んだ(かち)の兵(歩兵)、合わせて百人程度で、彼我の距離は凡そ三百メートル程である。何が目的で待ち構えていたのか知らないが、どうせロクでもない事だろう。


「一旦後退して皆でプロテクターを着ける。行くよ。回れ右して、よーい、どん!」


 タケルの掛け声と共に一行は来た道を猛スピードで戻って行く。後方からは「追え! 追え!」と声が聞こえるが、唯の人間である彼らがタケル達に追い付ける訳がない。忽ちの内に距離が開いて行き兵達からはタケル達の姿が見えなくなった。

 タケル達は時間にして二十分ほど走り兵達を十分に引き離した。その距離およそ十五キロメートル。時速四十キロメートル以上で走った計算になる。

 そうして時間を稼いでクマサブロウのバックパックから彼のプロテクターを出して三人掛かりで装着して行く。それが終わると自分達もそれぞれのバックパックからプロテクターを取り出して着物を脱いで装着する。

 プロテクターを装着して後足で立ち上がったクマサブロウの姿は「ブラック平成メカ○ジラ?」とか言われそうな外観をしていた。勿論クマサブロウ専用金砕棒(かなさいぼう)も持たせてある。

 因みにクマサブロウ達クマさんチームは全員、二足歩行でもそれなりに俊敏に動ける。元々が作業用ロボなので前足をフリーに出来るようにする必要があり二足歩行での移動は本物の熊とは比べられないほど柔軟に出来るようになっているのだ。どれくらいかと言うと荷物を持たなければ二足歩行でも時速三十キロメートルで走れるのだ。


「ぐぉがぁごぅ?(ここまでやる必要あるの?)」


「良いんだよ。キミが立ち上がって歩いて行くだけで相手はビビる。更にその装備で金砕棒を振り回せばもっとビビる。そのまま走って迫れば尚更にビビる。そして敵がビビって腰が引けてるところで強行突破!」


「「うわぁ……」」


 ドヤるタケルに、シンクロして娘二人はドン引きである。


「ごあがう、がうがふがぁう?(お嬢達、これ位で引いてたらご主人と旅は無理かもよ?)」


 クマサブロウは、シズクとフウカに諦めきった感情を声に乗せて言った。


「さあ、行け、クマサブロウ!」


 タケルが「びしぃっ!」と擬音を発する勢いで指を街道の先へと向ける。


「がうがぁがぅ(いや敵影まだ見えないって)」


「「うわぁ……」」


 再びドン引きする娘二人。彼らの間を虚しく秋風が吹き抜けて行った。


 一方その頃、待ち受けから追手と化した兵達、彼らは息を切らしながら街道を只管にタケル達を追っていた。


「まだ見えぬのか?」


「はっ。思いの外、速い様でして……。んん?」


 彼らの向かう前方から地響きが聞こえて来た。見ると土煙が上がっている。


()れは何ぞ!?」


 馬上の高い位置の指揮官からは逸早くそれが確認出来た。見る見るうちに近付いて来るそれの姿がはっきりと見えたと思ったら、不意に腹の底に響くような低い獣の雄叫びが大音声で空気を震わせる。


「ぐおおおおおおん!(やったらぁあああ!)」


 ヤケクソになったクマサブロウである。

 その声に馬が怯えて棹立ちになる。あまりにも突然だった為に指揮官は馬から振り落とされた。そして落馬寸前に彼は見た。黒い巨大な化け物が恐ろしい勢いで棒を振り回しながら迫って来る姿を。そして地面に叩き付けられた彼はその衝撃で気を失った。


 クマサブロウは立ち上がると背丈は優に三メートルを超える。その巨体が漆黒のプロテクターを纏い、特製金砕棒を振り回しながらマラソンランナーの走りを上回る速度で迫って来るのだから、如何な兵達(つわものども)でも恐怖に打ち震えた。


「がぁあああおぉおおん!(どぉけぇやぁああああ!)」


 クマサブロウの雄叫びと金砕棒を振り回しながら迫り来る迫力に腰が引けた彼らは堪らずに左右に別れた。


「ぐおぅ!(ご主人!)」


 その瞬間、クマサブロウの後ろを付かず離れずで付いてきたタケルにクマサブロウは金砕棒を投げ渡すと四つ足になって前方に駆け出した。


「ほい! 全員全力で前方に向けて(・・・・・・)撤収ぅ!」


 タケルはクマサブロウの金砕棒を受け取ると、自分のそれも含めて両手に持ち、全力疾走に移る。


「「ちょっと! お母さん速いって!」」


 タケルの後を、十キログラムはある金砕棒を片手で持って頭上で振り回しながら、彼女に負けず劣らずの速度でシズクとフウカが駆け抜けて行く。


 指揮官が気絶している上に混乱した兵達は、猛スピードで遠ざかる彼女達の背中を見ていーるしかなかったのである。

 尚、これだけ大騒ぎをしておいて死傷者は無しであった。


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