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28 ミサゴ飛ぶ

 総合千五百ポイントを超えました。評価ありがとうございます。

―ユリウス暦千百十六年、八月。蝦夷地ト・マクオマ・ナイ。


 四年の歳月をかけてオーストラリア大陸の西側(現代のオーストラリア、ピルバラ付近)に双曲線航法用無線局が完成した。電波塔の高さは約四百五十メートル、便宜的にではあるが以降は豪大陸航法電波局と呼称される事になる。

 また、ほぼ同時に蝦夷地でも双曲線航法用無線局が完成した。これで太平洋上に於いては悪天候で天測が出来なくても船舶は自位置を知ることが出来るようになる。


 この無線局が建設された場所はオーストラリア大陸最大の鉄鉱石の鉱床がある地域でもある。

 その事もあり、当初は無人運用の予定であったが、電波塔建設に携わる人員用に住環境を整備した為に、何人か常駐させて資源調査と試掘を行う事が考えられている。

 また、この場所は、あまり農業生産には適していないと判断されるが、気候的には綿花の栽培に向いていると判断出来る事から将来的には灌漑設備を充実させての入植を行い綿花栽培をする事を視野に入れている。

 そして懸念されていた現地住民であるアボリジニであるが、彼らとは平和的に接触が出来た。だが彼らへの防疫の為に積極的な交流は控えている。彼らに対して外部からの病気の持ち込みを防ぐ為の措置だ。今後も海外への進出が増えるので、医学医療の発展が望まれる。


 この四年間に資材や交代人員を乗せて何回も蝦夷地と豪大陸間を往復したアトゥイカムイ(かいしん)だが、今は乾ドックで整備点検中である。同時に、次は北アメリカ大陸の西海岸に無線局を設置するべく資材等の準備が進められている。


 この四年間でタケル達に変わった事と言えば特に何も無かった、はずも無く。


「結局はこうするのが手っ取り早かったね」


 そう話すアマネの目の前にあるのは小さなサイズの貨物コンテナ位の大きさをした箱の四方に四枚の巨大なプロペラを配置したモノが鎮座している。一見してプロペラの付いたフレームがコンテナを抱え込んでいる、つまり『でっかい運搬用ドローン』である。


「ううっ、ティルトローター機の夢が……」


「有人飛行させるにも開発に時間がかかるからね」


(そりゃ普通の飛行機の、況してや回転翼機の開発の経験もしておらず、データーの蓄積も無いのにいきなりティルトローター機は無茶無理無謀である。現実では、実験機のXV−3の開発から量産機のV−22の配備まで、途中での計画遅延も含むが、実に五十年程かかっているのだ。逆に異星人技術の底上げがあるとは言え、この短期間にターボプロップエンジンを作れた事が驚きである)


 アトゥイカムイ(かいしん)の運用の中心が北米大陸になる為に、豪大陸に人員を常駐させる都合上、物資補給や交代要員の輸送の為の輸送手段が必要になる。これに使用できる排水量五千トンクラスの多目的船は進水も終えて、現在ドックで艤装工事が行われている。

 この船には今後、港が整備されていない場所や内陸へ入った場所への生活物資や少量の資材の輸送にも使えるようにと甲板後方に輸送用航空機の発着用ポートと格納庫が設けられている。ただ甲板の広さから運用可能な航空機は垂直離着陸が出来る回転翼機や先述のティルトローター機等に限られてくる。


 そこで作られたのがコンテナに合体して物資を運ぶドローンである。コンテナの大きさは長さ三メートル、幅と嵩さが二メートル五十センチメートルで、ISO規格の十フィートコンテナとほぼ同一サイズだ。ドローンはコンテナを含めて最大十トンまで運ぶ事が出来る。

 その代わりにローター(プロペラ)直径は一つが十メートルもあり、ドローン本体はローターを展開すると二十二メートル四方を覆う大きさになる。これは運搬対象のコンテナを大幅に上回る大きさである。

 そして、そのローターを駆動するのが固体内凝集核融合発熱体を使ったターボプロップエンジンである。十四段の軸流圧縮機で圧縮された空気が燃焼室ならぬ加熱室で加熱(最高温度が摂氏千二百度)され、膨張した高圧空気が二段の高圧タービンと出力タービンに送られて、タービンの軸出力がギヤボックスを介してローターを駆動する。

 ローター一つにつきエンジン一基で駆動する四発機である。エンジン一基当りの出力は約四千馬力、どれか一つ停止してもバランスを崩しての墜落を免れるように各エンジンから出た動力シャフトがドローン中央のギヤボックスで連結されている。推力の調整は基本的にはローターのピッチを変える事で行われるのだが、電動機を使った物よりは応答性は低下するので俊敏な機動は期待出来ない。貨物運搬用途なら機動性が多少悪くても問題無いと判断されている。

 このエンジンに使われた発熱体の温度制御は銅とニッケルによるナノ構造ゼーベック素子から、ニッケルによるナノ構造電極に外部から電圧を印加する様に変更して可能になった。因みにこの発熱体とエンジン開発に三年程かかっている。再三言うけど本郷剛の黒歴史ノートって技術メモだった可能性がある。中二病時代の彼は異世界で何をしようとしていたのだろうか。


「でも人員が足りないよねぇ」


「人は一朝一夕には増えないし。少なくても労働人口が十万人は居ないと今後、進出範囲が拡がると回せないと思うよ?」


 タケルの嘆きにアマネが応える。そしてリクがそれに続けた。彼は人口データーをマメに調査しているのだ。


「今の増加率だと蝦夷地だけで賄うとなると百年は必要だな。医学と医療が発達したらもう少し短くなるだろうけど」


「陸奥と出羽への浸透、具体的に考えないとダメかなぁ」


「母さん、神輿やる気になった?」


「んー、シズクとフウカに、また一緒に旅をするって約束してるからね。当分は(・・・)やる気は無いよ?」


「当分はって事は少しはやる気になったんだ」


「やるとしてもまだ先だね。ヨーロッパ人の東西進出まで、まだ二百年以上の猶予があるから暫く大丈夫だと思う。でもアイヌと保護した和人への責任もあるから祀り上げられても仕方ないかなっては思ってるよ。彼らは家族(・・)みたいなもんだし」


 そう言って遠くを見詰めるタケルの胸に去来したのは烏珠(ぬばたま)の記憶だろうか。それともコタンラム達との思い出であろうか。

 暫くタケルはそうして佇んでいたが、ふと笑みを浮かべるとリクとアマネに向かって言った。


「為せば成るって言うけど、成るようにしか成らないんじゃないかな」


 為せば成る、で始まり「為さねば成らぬ何事も成らぬは人の為さぬなりけり」と続くこれは、江戸時代後期の米沢藩主であった上杉鷹山の言葉だ。六百年以上も先取りし過ぎである。


「日ノ本への直接干渉は明応の政変以降に朝廷と足利家の権勢が落ちてからになるだろうから、まだ四百年程は先だけどね。それまでは蝦夷地と海外で力を蓄えないと」


「文明差が五百年以上ある相手と対峙する戦国武将達が可哀想に思えて来るよ。その頃には人口が億を超えているだろうし」


「その前に鎌倉幕府成立とかモンゴルの拡張とか南北朝とかの厄介事があるから気は抜けないんじゃない?」


 どこか疲れた顔でリクが言うと、アマネは懸念を口にした。


「それこそ成るように成るんじゃないかな。それよりも、これ(・・)の最大離陸重量での試験を進めるのが今は大事」


「それもそうか。じゃあエンジンスタートするね。フライトシステム、オン。エンジンスタート」


 タケルの言を受けて、アマネがドローンのコントローラを操作する。

 コントローラからのコマンドでドローンの中央にあるギヤボックスに接続されたモーターが起動する。これはエンジンがスタートした後は発電機となるのだ。

 モーターの回転に伴いローターがゆっくりと回転を始め、徐々に回転数が上がって行く。エンジン始動までは全て自動で行われ、異常が発生したらコントローラにそれが表示される。


「エンジン始動完了」


 エンジンが始動すると暫く暖機運転が行われた後に、エンジンは自動で通常出力まで回転数を上げて行く。しかしローターのピッチ角が小さい為にまだ離陸するに至っていない。


「高度指定するよ。まずは一メートルだね」


 コントローラからのコマンドでドローンのコンピュータがエンジン出力とローターのピッチを最適値へと変更すると、十トンの荷物を抱えたドローンはゆっくりと上昇して地上から一メートルで静止した。


「流石に重心が下だから安定してるね。何メートルまで上がれるんだっけ?」


 吹き付けるダウンウォッシュの中、タケルがアマネに聞いた。


「計算だと千メートルだね。実運用ではそこまで上げないけど」


「荷揚げ用だからなぁ。でも、これならコンテナを倍にしてもイケるんじゃないか?」


「寿命的に怖いからやらないよ」


 リクの提案は即アマネに蹴られてしまう。

 揚力の全てをローターで賄っているので千メートルの高度まで上げるとエンジンやローターの取り付け部に掛かる負荷は相当なものになる。安全マージンを取って実運用は百メートル以下の高度で行う予定だが、もし積載重量を倍にしたら低高度でも各部に掛かる負荷は倍以上が見込まれる。


「じゃあ、運用想定高度の百メートルまで上げてみようか」


 十トンの荷物を抱えた大型ドローンはゆっくりと高度を上げて行った。



 それから一年後、艤装工事を終えて海上公試と試験航海を行なった航空機搭載多目的船トゥカㇻ(アザラシ)級一番船トゥカㇻが就航した。

 このトゥカㇻ型の使い勝手が思いの外に良かったので、豪大陸で鉄鉱石が安定して得られる様になると、支援用として順次二番船、三番船が建造されて行く事になる。

 そして貨物用ドローンにはタケルの希望(ワガママ)アツユチカフ(ミサゴ)と名付けられた。英語にすると『オスプレイ』である。


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