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24 わからせ(脅迫とも言う)

 思う所がありまして、感想欄を閉じさせて頂きます。ご了承下さい。

―ユリウス暦一一一〇年、一月。蝦夷地ト・マクオマ・ナイ近郊。


 タケル達が居る場所から少し離れた所に、それは鎮座していた。アトゥイカムイ(かいしん)から降ろされ架台に載せられた一五センチ連装砲の砲塔である。

 当たり前だがこの時代の人間である合川達には、それが何であるかが理解出来ていない。


「(信管は近接で良かったんすよね?)」


「うほっうほ。うほっうほ(派手に行けとお達しだったので。曲射よりも直接照準でしょ)」


「(後方に丘があるから流れ弾とかの心配は無いっすもんね)」


 砲塔の下ではアルトゥルとイマヌエルが射撃の準備を行っていた。


「(合図来たっすよ)」


「うほっ。うっほ、うほうほ(弾種榴散弾。距離二〇〇〇、照準良し)」


 アルトゥルが操作して向けられた砲の先二〇〇〇メートルに有るのはクマレンジャー達が夜なべして作った騎馬兵を模した土人形一〇〇〇体。ご丁寧に一〇〇騎ずつの集団に分けられて配置してある。

 近接信管に確実に反応する様に、全部の頭部には金属箔が貼り付けてある。遠目に見たら兜かヘルメットを被っているように見えた。


「(攻撃始めっす)」


 タケルの腕が振り下ろされたのを見てイマヌエルがアルトゥルへと伝えた。


「うほっ!(発砲!)」


 アルトゥルのトリガー操作により、一五センチ榴散弾が砲身から発射され砲声と発砲煙が砲口から放たれる。


 砲弾に充填されている炸薬はヘキサニトロヘキサアザイソウルチタン、別名でHNIWやCL−20と呼ばれるTNTの二倍強の威力がある爆薬である。どうでも良いが名前が長すぎてまるで呪文のようだ。

 これもタケルの『黒歴史ノート』由来の物である。こんなのが化学式と製法込みで歴史の勉強よりも記憶に残っているとか、本郷剛(ほんごうたける)はなかなか愉快な中高生生活を送っていたらしい。尚、装薬はオーソドックスなダブルベース火薬である。こちらも良く成分等を憶えていたものだと感心する。


 一射目が標的である騎馬隊を模した土人形の集団の一つに着弾し、それらを爆風と撒き散らされた破片でズタズタにする。

 タケルの合図と共に、突然に轟いた雷鳴の如き轟音に合川達は恐怖した。椅子に座らせられていた下人達は地面に転がり落ち、蹲り怯え震えているが、車椅子に括り付けられている合川にはそれすらも出来ない。

 轟音の後、合川が拘束されている車椅子の向きが変えられた。彼の視線が向けられた先には、まだ無事な騎馬兵を模した土人形の集団と、既にバラバラにされた土人形達が転がっている。

 再び雷鳴の如き音が轟き、その直後に無事だった騎馬兵人形の集団が爆音と共にバラバラになった。

 何を見せられているのか理解できない合川は、神仏の怒りに触れたのだと思い込み、次にああなるのは自分かとの恐怖により盛大に前後から失禁して気絶した。


「あれ? まだ二発しか撃ってないのに」


 タケルが呆けた間に停止の合図が出されなかった為に、続けて三発目、四発目と発砲される。見ている者が居なければ弾の無駄。タケルは慌てて両腕を上げて大きく振り、攻撃止めの合図を送る。


「(アルトゥル、攻撃止め! 攻撃止めっす!)」


「うほっほ! うほうほぅ!(圧倒的威力! やはり砲こそが戦場の女神!)」


「(なんか性格変わってないっすか!?)」


 因みにこの実弾射撃演習、と言うか試射が過去に何回か行われていたのでト・マクオマ・ナイの住民は「またか」と特に混乱する事は無かった。中には遠巻きに見物して、やんやと声を上げている連中も居るくらいであった。


 その後、合川は『特別室』に戻されてからシモの処理をされた後で無理矢理に覚醒させられた。覚醒の手段はアンモニアである。(実際、これ本当にキツいです。学生時代の時に合宿でやられましてね。キ○カンとかじゃなくてモロに高濃度アンモニア水で。寝てる時に嗅がせるんじゃねぇ!)

 そこで、猿ぐつわを外されてから怯えながらも罵詈雑言を喚き散らす合川の目の前で、タケルが合川の抜き身の太刀を素手で持ち、折り曲げて圧し折ったのだ。とても良い笑顔で。


「いいかぁ? 今後、舐めた事を言ったりぃ、変な真似をしたらなぁ、次にこうなるのは、お前だからなぁ。それともぉ? さっき見せた土人形みたいに粉々の挽き肉(ミンチ)になりたいのかなぁ?」


 美しくも可愛らしい(かんばせ)に笑みを浮かべ、涼やかで軽やかな声にドスを利かせてタケルはそう告げると、合川の心は太刀同様に完全に折られたのだった。(軽やかで涼やかでドスの利いた声ってどんなのだろう)


 それからの合川は借りてきた猫の様に大人しくなった。否、タケルの姿を見ると怯えたチワワの如く、涙目でガタガタ震える様になってしまった。

 寝たきりの間、サンゴリランに世話をさせたのも効いたのかも知れない。因みに下人達の世話は、近くのコタンのオバちゃん達にクマレンジャーを護衛に付けた上でお願いしていた。


 そして季節は春となり、アトゥイカムイ(かいしん)の改修も無事終わり、また、合川達の凍傷も癒え、体力も回復していた。


「それで母さん、あいつらどうする?」


 リクがタケルに合川達の処遇について聞いてきた。


「帰ってもらうよ。無駄飯食わせとく訳にはいかないからね」


「そうか。なんか下働きの六人はここに置いて欲しいって言ってるんだよなぁ。彼ら、春になってからは野良仕事なんかも率先して手伝ってるし」


「奴婢の身分なんだっけ? あー、そうなると面倒臭い事に……」


 烏珠(ぬばたま)の記憶から、奴婢の生活を知っているタケルは、暫し考え込む。


(律令制という法制度の下では奴婢は主人の下での身分保障がされていたのであるが、平安時代に律令制が崩壊して官奴婢の制度が廃止されると、官が制御していた人身売買が民間により野放図に行われる様になってしまったと言われている。安寿と厨子王の山椒大夫は、この人買い人売りにより財を成した長者だとの解釈もある。また江戸時代に入ってからは人身売買の禁止令は幾度も出されたが、年期奉公を隠れ蓑として太平洋戦争前まで残る事になる)


 六人の下人達は謂わば合川の『所有財産』であるのだ。勝手に他人がどうこうして良い存在では無い。この当時の日ノ本の常識に従えばだが。


「一応は持ち主のオッサンに譲って貰えるようにお話(強要)してみるか。彼らは和人(わじん)のコミュニティーに入れるの?」


 何か不穏な副音声が聞こえるようだが、タケル達は奥州(朝廷)側(奥州藤原氏は一応の立場としては陸奥国司の下に就いている)から見たら『まつろわぬ者達』である。彼らの法や慣例に従わなくても、本来なら文句を言われる筋合いは無い。しかもここは朝廷の支配の範疇には無い蝦夷地なのだ。


「それしか無いね。彼らアイヌ語が分からないし」


「それもそうか。じゃあリク、よろしくね」


「了解。ところで母さんは何を?」


 何かタケルがごそごそと弄っているのをリクが見て質問する。


「固体内凝集核融合発熱体をね、原子力ジェットエンジンみたいな使い方が出来ないかなって」


「熱交換とか面倒臭いって言うし、素直に燃料燃やした方が良いんじゃないのかな。それより現状で航空機って要らないよね?」


 実は固体内凝集核融合発熱体とペルチェ素子を組み合わせた核融合電池とでも言うべき物を搭載した電動の観測用ドローンが完成しているので、上空からの偵察や観測に限って言えばジェットエンジンを使う様な航空機は必要が無い。それに短距離/垂直離着陸が出来る機体でなければ、空港などの航空インフラがどこにも存在しない現状での航空機の運用は難しい。


「浪漫だよね。航空機搭載強襲揚陸艦とか航空母艦」


「だぁから、何と戦うつもりなんだよって。その浪漫で大火傷したばかりじゃないかよ……。やっとアトゥイカムイ(かいしん)の改修が終わったばかりなんだからさ」


 タケル、一五センチ連装砲で凝りてはいなかったらしい。だが、容赦無く速攻でリクからダメ出しを喰らう。

 しょんぼりとするタケルを後に、それじゃねとリクが部屋を出ようとして、思い出したように振り返る。


「あ、そうだ。皆と相談したんだけど、海上公試のついでに、あのオッサン達を送るのはどうかって案が出てるよ。陸奥湾に入ったら偽装和船で湊に乗り付けて降ろしたら放置して撤収とか。送るのはオッサンだけになりそうだけど」


「良いんじゃない? そうだ、彼の下人を貰い受ける代わりって事で、平泉に辿り着けるくらいの路銀か食料と馬くらいは用意してあげましょう」


 当時の馬は非常に高価だったとの事。平安時代の奴婢一人の金額は(年齢にも依るが)凡そ二〇万円前後だったとの説がある。対して馬は一頭三〇〇万円以上だったのではと言われている。

 タケルの提案は、当時の感覚からすると明らかに払い過ぎだ。


「じゃあ、それで話を詰めておくよ」


 そう言ってリクは退室していった。


「……ライフル砲を搭載した地上攻撃機とかならアルトゥルが話に乗って来るだろうし、一段落ついたアマネを巻き込めば……」


 扉を閉める直前のタケルの呟きを、リクは聞かなかった事にした。そして密かにアルトゥルとアマネには、タケルに協力しないように釘を刺しておこうと誓ったのだった。



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