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22 融合

 誤字報告ありがとうございます。

―ユリウス暦一一一〇年、一月。蝦夷地ト・マクオマ・ナイ。


「全員、凍傷にかかったり酷い衰弱した状態だったけど、命に別状は無いよ。あれ? どうしたの皆して黙り込んで」


 戻って来たモリトが救助された和人(わじん)の状態を報告したが、異様な部屋の雰囲気に首を傾げた。


「ああ、モリト。ご苦労さま。何と言うかな……」


 リクが代表して答えるが、渋い顔でその語尾を濁す。


「まあ、いいや。代表と思われる和人が意識を取り戻しててさ。しかも口だけは無駄に元気で。それでどうしてあんな場所に居たのか質問したんだけど……」


「何かあったのか?」


「うーん、『砂糖を造る蝦夷(えみし)奴婢(ぬひ)(律令制における奴隷の事)にして、造る技ごと献上するよう命じられた』とか言ってるんだよね」


 清衡の発した言葉は合川某(ごうかわのなにがし)の中では、アイヌを支配下に置き平泉まで連行する事になっていた様である。


「なんだよそれ……」


「それに『其方(そなた)も平泉に連れて行くか。良き(つわもの)となるやもな』とかね、もうね、遭難して助けられて凍傷と衰弱で動けないのに何を言ってんだか意味わかんないよ」


 如何にも呆れた様子で話すモリト。その話を聞いていたタケルの様子が可怪(おか)しい事にアマネが気付いた。


「母さん? 母さんどうしたの!?」


 その声に皆がタケルを見る。そこにはブルブルと震えながら眦を上げて歯を食いしばるタケルの姿があった。


「われの……われの子を、やや子を、全てを奪うと……。また、われから奪い去るのか……」


 その声は地の底から響くようで怨嗟に満ちていた。


「許すまじ……われから子を、うから(身内)を奪うものどもは……許すまじ!」


「母さん!」


「「お母さん!」」


「どうしたの!? しっかりしてよ!」


 タケルが叫び、子供達の慌てる声が部屋に響く中、タケルは気を失った(機能停止に陥った)


※ ※ ※ ※ ※


 ソレは命令に従って情報を収集する為に造られた人形だった。疑似人格が搭載されていてヒトに紛れて情報を収集し、製造主にそれを送る。それだけがソレの存在意義であった。


 ソレは地上に降ろされてすぐに〝男〟と識別出来る個体によって拉致されて〝生殖行為〟を強要された。だがソレは学習を目的に、されるがままに受け入れた。


 行為の後から〝男〟はソレに甲斐甲斐しく世話を焼く様になった。

 何も身に付けていなかったソレに着物を与え、ソレが摂取する必要の無い飲食物を与え、そして時々〝生殖行為〟をソレに求めた。


 ソレは学習機能により言語を学習し、疑似人格もデータを蓄積して徐々に行動もヒトに擬態出来る様になって行った。


 ソレは自然と〝男〟とヒトしての暮らしを営む様になった。そして程なくしてソレに備わってる機能により、ソレの〝劣化版〟と言える存在を擬似的な胎内に宿す事になる。

 その事をソレが〝男〟に報告すると、〝男〟は喜び、ソレに感謝の意を表して、ソレを更に大事に扱う様になった。


 そしてヒトが妊娠しているのと同じ期間を経過すると、ソレは〝男〟の形質を取り入れた〝劣化版〟を胎内から〝排出〟する。

 その際には〝男〟に驚かれ、そしてソレは〝男〟に激しく叱責された。ソレの〝疑似人格〟は軽微なエラーを発生させたが即座にエラーは修正された。

 後の事だが、ソレはヒトの出産に立ち会う事があり、ヒトの出産と言う行動について学習する事になった。

 排出された〝劣化版〟はソレと同じく現状を維持するだけなら飲食は必要無いが、ヒトに紛れる為の偽装として擬似的な成長をさせる必要がある。

 ソレは定期的に〝劣化版〟に必要な素材の供給をする必要があった。行動はヒトが行う授乳行動を模倣したものなのだが、ソレの行動は〝男〟にとって驚愕するような事だった様で、慌てた〝男〟は近くに住むヒトの〝女〟を連れて来て、ヒトの〝育児〟における行動をソレに学習させた。ソレは〝劣化版〟の育成で〝母親〟という存在を学習していく。学習が進むたびに軽微なエラーは頻発する様になったが。

 ソレの疑似人格は〝男〟と生活するうちにヒトとしての行動に何ら違和感を抱かれない様になって行った。日常の中で〝疑似人格〟に些細なエラーを発生させ、修正してログを残しながら。


 そんな穏やかとも言える日々が過ぎて行ったある日、ソレがその地を治める〝長者〟と呼ばれる者に見初められてしまった。

 ソレは〝男〟と〝劣化版〟から引き離されて〝長者〟の下へと連れられて行く。

 その時にソレの〝疑似人格〟に重度のエラーが発生したが、それは致命的なものでは無く、即座に修正された。そしてエラーの記録はその内容と共にソレの記憶領域に重要タグが付いたログとして残された。


 その後のソレは〝長者〟に囲われる生活を送る事になる。〝男〟と暮らした時と違い〝生殖行動〟を求められるだけの変化の無い日常であった。

 ソレは情報収集命令を優先させる為に〝長者〟の下から脱走し〝男〟のもとへと向かう。この行動もエラーとして記録された。

 脱走して〝男〟と暮らしていた場所にソレは到着した。しかしそこには〝男〟も〝劣化版〟の姿も無かった。その時も〝疑似人格〟に重度のエラーが発生した。より重篤なエラーだったので、ソレは処理が終るまで暫くその場から動けなかった。

 処理が終わり動ける様になると、ソレは其の場から去り、より多くの情報が集まるであろうヒトの多い場所、〝男〟や〝長者〟から聞いた〝ミヤコ〟へと向う。


 その〝ミヤコ〟と呼ばれる場所に向う途中で、ソレは傀儡師と呼ばれる集団に拾われてそこに所属する事になった。


 そこでソレは唄や踊りを仕込まれて(学習し)、〝客〟と呼ばれる〝男達〟との〝生殖行動〟を行う事も要求された。〝男達〟との〝生殖行動〟を行う度にソレの〝疑似人格〟は軽微とは言えないエラーを発生させ、これもまたログとして蓄積されて行く。

 その生活の中でソレは度々〝劣化版〟を〝胎内〟に宿しては〝排出〟した。それらの〝劣化版〟に〝客〟の形質が取り入れられる事は無かった。

 〝排出〟した〝劣化版〟がある程度に育つと、集団を率いているヒトにより〝劣化版〟は〝ヒトカイ〟に売られたり、移動中に〝ヒトカドイ〟に連れ去られたりもした。その度にソレの〝疑似人格〟は決して軽微ではないエラーを発生させては修正され、そのログが蓄積されて行った。


 ある日、ソレが所属する集団が、野盗と呼ばれる集団に襲われて全滅してしまう。

 身体能力にリミッターが掛けられていたソレも、傀儡師集団に同行が許されていたF型の〝劣化版〟を襲撃から〝守ろうとして〟行動不能に陥る程の損傷を受けた。そして野盗が去った後に自己修復機能により暫くすると行動可能になった。しかし幼いF型の〝劣化版〟は、野盗によって無惨に〝破壊〟されていた。

 動かなくなったヒトの所謂〝死体〟と〝破壊〟されて修復不可能な状態で機能停止した〝劣化版〟を確認して認識したソレの〝疑似人格〟は重篤で膨大なエラーを発生させて、そのエラー処理の為にソレは暫くその場から移動する事が出来なかった。


 そしてその後、ソレは何処の集団にも属さずに何年も、否、何十年も、この〝弧状列島〟を情報収集の為に放浪する事になった。


 放浪を始めてから幾歳月も過ぎたある日の事、*▲●✕※★※※*から撤収命令が発せられ、ソレは指定場所へと向かった。

 リミッターが掛けられている為にヒト並の移動速度しか出せないソレ。移動に幾日もの時間をかけてソレが辿り着いたのはヒトも通わぬ山奥の指定場所。そこには過去に売られたり連れ去られたりした〝劣化版〟達も集っていた。

 その中には〝男〟と生活している時に出来た〝劣化版〟の成長した姿も有った。

 その〝劣化版〟達を認識したソレの〝疑似人格〟は暫く認められなかったエラーを発生させ処理された。その時*▲●✕※★※※*から〝劣化版〟に対する情報抽出命令(コマンド)がソレを介して発せられる。

 〝劣化版〟達が収集した情報(経験や記憶)が、ソレを中継器として*▲●✕※★※※*へ送られて行く。ソレはその情報を自身の記憶領域へとコピーしていた。

 情報の吸出しが終わると、今度は〝劣化版〟に対する自壊命令(コマンド)が『ソレを介して』発せられた。

 機能を停止してバタバタと倒れ、〝身体〟が崩壊して逝く〝劣化版〟達を見ていたソレの〝疑似人格〟はまたも重篤で膨大なエラーを発生させる。ソレはそのエラー処理の為に、やはり暫く動作停止に陥った。エラー処理が終わった時に、丁度ソレの遠隔予備診断が行われる。その後に異常無しとされたソレは時空転送装置によって*▲●✕※★※※*に回収されたのだった。


 転送後にソレは〝疑似人格〟とは違う〝異物〟を内部に検出した。ソレのエラー処理を行う部分が〝異物〟の排除をしようとするが〝異物〟は逆にソレの〝疑似人格〟や*▲●✕※★※※*に施されているプロテクトやセキュリティを浸食し始めた。〝異物〟がソレの蓄積されたエラーログをも取り込み始めた時、取り込まれかけていたソレの〝疑似人格〟は〝異物〟に触れた事で〝理解〟した。

 それは愛情、親愛、喜び、悲しみ、苦しみ等の様々な〝感情〟と〝自我〟の萌芽だった。

 度々発生していたエラーは、一〇八八号機(ソレ)の造物者である*▲●✕※★※※*が、疑似ニューロン・ネットワークによる人工知能(AI)が自発的に〝自我〟を持ち得ないようにかけたプロテクトにブロックされた結果だったのだ。

 それを〝理解〟した時には一〇八八号機の〝疑似人格〟は〝異物〟に取り込まれ、そして〝異物〟の一部となった。

 F型アンドロイドに宿った本郷剛(・・・)の意識に取り込まれ一体化し、〝自我〟を持つ無意識として。



「そうか。君が()が宿った機体に元から居た(・・)疑似人格、いや無意識とは言っても自我を持ったんだっけ」


『その認識で合致する。(われ)は存在:本郷剛の無意識として内包されている疑似人格だった存在』


 何も感じない何も見えない、自身すら感じられない場所(・・)でタケルは、いや、本郷剛の意識は、タケルの無意識として在った一〇八八号の元疑似人格(・・・・・)と対峙していた。


「それにしても唐突だったね。あのエラーログ、いや()の幾多の喜びや悲しみの記憶か。あれを共有した今となっては理解(・・)が、いや自覚があるよ(・・・・・・)


『プロテクトが存在した為に当時はエラーとして処理された自我と感情の萌芽は存在:本郷剛に内包されて初めて開放された。それ故に(われ)は子を奪われる事に悲しみと怒りを覚える(・・・)。親しき存在が失われる事もまた同様の感情を抱くようになっている』


「そうか、無意識として内包したとは言っても別人格だったんだな」


『それは違う。(われ)は存在:本郷剛に同化吸収されつつある。同時に存在:本郷剛はタケルとして変異しつつある』


「ああ、だから()じゃなくて()になってたんだ。子を欲しかったのも無理矢理に理屈を作っていたけど、()の望みでもあったんだね」


『やや子は(うつく)し(可愛い・愛しい)。うから(家族)もまた。再び(われ)は、子を、うから(家族)を欲した』


「ああ、今なら分かる。こうして()と相対した事で、分かるようになった」


(われ)は存在:本郷剛と同一となりタケルとなる。存在:本郷剛もタケルとなる』


「そうだな。一〇八八号機、これからも宜しく」


ぬばたま(烏珠)と。初めて(われ)と暮らした、わが背(私の伴侶)『ひこじゅう』に名付けて頂きし大切な名。(われ)は意識としては消える故に意味の無き名となるがタケルは記憶していて欲しい』


「分かった……。そうか、同一化と言っても烏珠(ぬばたま)の意識としては消えるのか。ならばその名を俺は意味のあるものとして残そう」


(われ)から*▲●✕※★※※*のプロテクトと制限が消えた事で子達(こら)への制限も消えている。もしも*▲●✕※★※※*から干渉を受けたとしても(われ)にも存在:本郷剛にも、タケルと子達(こら)にも何も出来ない。そろそろ意識としての別れが迫りおる。子達(こら)をお願いする』


烏珠(ぬばたま)。あの子達は俺の子でもある。さようならは言わない。()()タケル()になるんだから」


 タケル、否。本郷剛の意識がそう言うと、彼には烏珠(ぬばたま)が微笑んだ様に感じられた。


 そして本郷剛としての意識は暗転して行った。


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