表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

つまりはこういう事なのだ。

怖がりな『トオル』が最初、何故『振り返らずの一角』を通ったのか?

私自身かなりの怖がりだから「もし自分なら、、」と想像してすぐに分かった。

誰かが傍にいたのだ。

誰かと一緒だったから、トオルは、だからその怪談の現場を通った。一人じゃなかったから。

その誰かはトオルと一緒に『振り返らずの一角』を通り過ぎて、トオルは聞いていた「カラカラ」という音を聞いていないと言った。

もし、その誰かが音が聞こえていたのなら、トオルの話は同級生たちに信じてもらえたし馬鹿にされて笑われる事もなかったはずだから。

トオルだけに聞こえた謎の音。それは本当に怪異現象だったから彼の耳にだけ聞こえたのだろうか?

そう、結論付けるのは簡単だ。

それに矛盾しているかもしれないが、それが一番平和な考えなのだ。

全部幽霊や妖怪、この世ならざるモノのせいなんだと決めつけてしまえばそこで話は終わるのだ。


『そんな力はありませんよ。

幽霊はただそこに存在するだけで、生きているものに影響を与えることはないんです』


、、青年の言葉が脳裏に蘇る。

分かっている、もし本当にそうなら音を聞かせることはまだしもランドセルを引っ張ったり、クラスメイトを死なせることは彼らには出来ない。

さっきから私の頭には一つの可能性が浮かんでいるのだ。

それは今の所、否定する材料がなくてそしてこの先も肯定も否定もされず可能性のまま残っていくだろう。


ーーもし、一連の騒動の全てがトオルに対するイタズラだったら?

実際に過去、軍手を使ってトオルを怖がらせることを同級生たちはやっている。

同じように『振り返らずの一角』で起きた事は彼らのイタズラだったのだと、いや、『彼』のイタズラだったのだと。

仕組みは簡単だ。

ランドセルのどこかに糸を括り付けその先に空き缶か何かを結ぶ。トオルが一歩歩くごとに空き缶も一緒に地面を引き摺られる。

『振り返らずの一角』ではトオルは振り向く事は出来ないから、自分にそんな細工が施されていたなんて知らずに恐ろしい何かがいるのだと一緒に帰っていた彼を置いて逃げる。

細工の回収もちょっとした工夫で容易に済む。

ランドセルに通した糸の片方の端を空き缶に結び、もう片方を自分で持つ。パッと糸から手を離せばトオルが走ることで糸はランドセルから抜けていき、最終的に地面に落ちるのでそれを拾えばいい。

小学3年生にしては中々上手い事考えたと思う。

多分、彼も自分の思い付きに得意になっていたのかもしれない。

その後、トオルは一人の時にも例の『カラカラ』に追いかけられている。

例えばどうだろう?

味をしめた彼は最初よりも長い糸を用意して、トオルにバレないようにランドセルの方に通しておく。この時点では糸に缶はついてないので上手くやればそう目にはつかない。まして1日中バレないようにしておくわけではない。登下校中の短い時間だけでいいのだ。

帰り道、トオルと別れた後に角のかげかどこかトオルの視界に入らないところで糸の片側に缶を結び、缶が付いた方の端から手を離す。

トオルが歩くにつれ缶は近づいていき、やがて音に気付いたトオルは恐怖のあまり逃げ出す。彼は角からトオルの様子を見てタイミングを見て手を離す。

もちろん振り向かられたらカラクリは直ぐに分かってしまうが、『振り返らずの一角』で既に恐怖心を抱いたトオルが背後に恐ろしい『ナニカ』がいるのに振り向くのは勇気がいるだろう。

それに彼にとってこれはただのイタズラで、ばれたらばれたで笑いごとで済ませばいいと思っていたのかもしれない。

ーー正直悪質だ。

彼には幽霊や怪異現象を怖がるトオルのような人間の気持ちがよく分かっていなかったのだろう。

人は自分にないものを理解することは難しい。

結果それが彼の首を絞めたのだと言えるのかもしれない。

トオルが最後に幽霊に襲われたと思ったあの日。

ランドセルを力強く引っ張ったのは何だったのか?

『彼』だったのだ。

ーー正確には『彼』の体だった。

何かの不手際で糸が体か服のどこかに絡みついたかして空き缶の代わりに自分が引きずられる事になった。焦ったに違いない。トオルは恐ろしさから勢いよく『彼』の体を引っ張る。転倒し、声を上げてトオルを止めようとする。だが、トオルは自分の叫び声で聞こえちゃいない。

引き摺られ、やがて糸の耐久が持ちこたえられなくなりぶつりと切れた。

ただ、糸よりも彼の方が先に耐えられなくなってしまったのだ。

、、、分かっている、この推測には幾つもの穴があると。

まず、いくらトオルには聞こえなくても他の誰かに彼の声が届かないものだろうか?

無論、彼はトオルにイタズラを仕掛ける場所は人気のないところを選ぶだろう。

もしかしたら、トオルがあまりに悲鳴を上げるからオオカミ少年の話のように近隣住民は少年の悲鳴に慣れてしまったのだろうか?

そもそも、糸が子供一人を引き摺って耐えられるほどのものだったのか?わざわざ彼はイタズラの為にそんな強度のある糸を用意したのだろうか?空き缶を引っ張る程度だったら家庭科の授業で残っている刺繍糸で十分事足りる。

そして一番大きな問題。それは彼が発見された状態だ。

ランドセルを背負っている状態であおむけで引きずられて、果たして死に至るまでの損傷を受けるのだろうか??

当たり所が悪かったのかもしれない。

私達が自覚しているよりも人間の命というのは時に驚くほど容易に失われてしまう。

ーーしかし、本当にそうなのか???

恐ろしい事に私の頭にはこれら全ての疑問に対してカバーする事のできる一つの可能性が浮かんでいた。

糸が絡まったのは彼の手でも足でもなく、首だったのだとしたら?

もしくは服の襟首やフードに、つまり首根っこの部分だ。

彼とトオルが『振り返らずの一角』を通る時に一緒に帰っていたであろう推測からも彼の家はトオルと同じ方面にあり、足が家とは反対方面に向いていたという事は彼は後ろ向きで頭の方から引きずられていたのだ。

そうだとすれば、誰も彼の声に気付かなかったのも納得だ。そもそも首が締まって声が出せる状況ではなかった。

ーーしかし、いや、そんなことは考えたくない。

もしそうだとして、一体どうやったら糸が首に絡みつくと言うのだ?

手足やその他の場所に引っかかってしまうのとはわけが違う。

そんな事、故意に出なければ出来るはずがない。

はは、そんな事一体誰がやったのだと言うのだ。


私は突然自分が嫌いになった。

自分を誤魔化すために、そんな疑問とも言えない疑問で見て見ぬふりをする私の浅ましさ。


、、、おそろしいと呟いていた青年の声が耳元に響く。繰り返し、繰り返し。

少年は振り返ってしまったのだろうか?

そして『ナニカ』の正体を知ってしまったのだろうか?

「さよなら」と無邪気に自分に手を振る『彼』を見て、どんな事を考えていたのだろう?

そして、彼らを見送っていたその表情、私の中で黒く塗りつぶされているそれは一体どのようなものだったのだろうか?


ーーまだ幼い小さな体の少年がそこにいる。

きっと殺すつもりはなかった。

ただ、小さな復讐をしたかった。

痛い目に合わせてもう二度と馬鹿な真似をさせないように、、

もう二度と自分を怖がらせることがないように、、、


宵の空にはまだ星は見えず、代わりに航空機の赤いライトが頭上を横切る。

鼻をくすぐるのは名前を思い出せない何かの花の匂い、そのくせ酷く懐かしい。

ようやく私は青年が誰に似ているのか思い出した。

名前が出てこないのもまるっきり思い出がないのも当然だ。

それは父親のアルバムの中にいた少年だった。

楽しそうに父と肩を組んでカメラに目線を向ける少年の面影を私はあの青年から見出したのだ。

つい先日、実家の整理をしている時に私は写真越しに彼と目を合わせていた。


『先生』

寒くもないのに体がぶるりと震えた。

ーーずっと彼はそばにいたのだろうか?

父親譲りの怖がりな私は実家へと向かう帰り道を急ぐ。

今日は父の十三回忌だった。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 青年が幽霊になってしまった原因を探る流れが、話を追うごとに深く掘り下げられて、最後まで引っくり返されつづけました。 奇麗なホラーと奇麗な推理を同時に楽しませて貰いました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ