最終話
祭りの数日前、彼は風邪を引いた。最近は暑さや寒さを行ったり来たりするので、体調を崩してしまっても仕方がないであろう。
何日も寝込み、遂に祭りの前日。心配したクラスメートから、祭りの人混みでは風邪が重たくなるかもしれないし、明日は安静にしといてくれと連絡があった。
治りかけていると話したが、もし治ったとしても、ぶり返してはいけないからと言われた。
「……んだよ」
祭りに行きたいし行くことができるのに、こんなのは寂しすぎる。一人で行っても虚しいだけで、楽しめるはずもない。彼は八方塞がりになってしまった。
やさぐれながら家で寝込む彼に、一通のLineが届いた。
『お祭り、一緒に行きませんか?』
見たこともないアイコンに、馴染みのない名前。間違って自分宛に送られて来たものなのではないかとさえ疑った。しかしプロフィールには、自分と同じ学校の同じ学年の人であることが記されていた。
「でも……誰? 男か女かも分からないなぁ」
もしや、ネットに個人情報が漏れてアカウントまで特定されたのではと、彼は疑った。だが女性ならまだしも、彼は男だし、ネカマをしたことも無いので間違えられることも無い。男の個人情報を特定するメリットなど無いではないか。
つまり結論は、よく知らない同じ学校の生徒から、祭りに誘われた、ということになる。それなら怪しい人ではないなだろうし、彼は思いきって返信をしてみることにした。
『一緒に行ってくれるんですか!危うくぼっち確定しそうだったので嬉しいです。
でも誰ー?笑 話したことあるっけー?笑
あったらごめん!!!笑笑」
返信は五分くらい経って来た。
『あんまないかも笑』
内心、『じゃあ名乗ってくれよ』と思いつつ聞き続けると、隣のクラスの瀬奈という人であることが分かった。すれ違ったら挨拶をする程度ではあるが、話という話をした記憶はなかった。
なぜ誘ってくれたのか尋ねると、どうやら彼女もぼっち組らしかった。
毎年共に祭りに行っていた姉に彼氏ができたらしく、それを謝りながら姉から言われたとき戸惑って、自分も彼氏と行くからと嘘を吐いたらしい。
『友達とも行けないし、誘える男子が紳助くんしかいない。助けて!笑』
紳助は戸惑いながらも、この一日限りの擬似カップルを楽しむことにした。
翌日、祭り会場となる市街地ど真ん中の空き地へ向かうと、そこには浴衣姿の瀬奈が立っていた。赤色の浴衣に、お団子ヘア。どうやらメイクもしているようで、学校ですれ違う時とは異なる雰囲気に、紳助は緊張した。
「似合ってる……かな?」
「控え目に言ってめっちゃ似合ってる」
「ええーありがと!」
瀬奈は心から喜んだ。そんな会話をしながら、二人してよそよそと屋台を見て歩く。都会の祭りは人が多すぎてはぐれそうだから、人が少ない端の方を、二人で歩いた。
チョコがかかったバナナや、リンゴ飴を食べた。いつもはリンゴ飴を食べはしないが、小ぶりで食べやすそうだったので、二人で食べた。
甘酸っぱくて、美味しかった。
瀬奈が口を開いた。
「お姉ちゃんいないなぁ。この時間って言ってたし、そろそろ出くわすんじゃ」
「お姉さんはどんな人なの?」
「悔しいけど可愛い」
「瀬奈ちゃんも可愛いし、お姉さんが可愛いのもなんか想像つく」
「ええーありがと……あ、あそこ」
瀬奈が遠くを指差した。指差す方を見てみると、人混みの中に、あの人を見つけた。
「あ……」
そこに居たのは、推しの女子高生であった。
瀬奈とよく似たパッチリ二重で、黒髪のお団子ヘアであった。紳助は目が離せなかった。
「お姉ちゃんのデート、邪魔してやろうかな。行くよ紳助くん!」
瀬奈に手を引かれ、推しの女子高生の許へ駆ける。急展開で、心臓は破裂せんばかりに鼓動を強めた。そして、推しの女子高生の前に立った。
瀬奈が満面の笑みで『よっ!』と言った。推しの女子高生はキョトンとしていたが、それが妹であることを察すると、苦笑しながら『どしたん?』と言った。
「見つけたから彼氏の顔を拝みに来た」
「残念、今お手洗い中。その子が瀬奈の彼氏?」
「えっ?」
瀬奈は一瞬だけ戸惑ったが、すぐに設定を思い出した。瀬奈は紳助を彼氏として紹介した。
「いつもやかましい妹がお世話になってます。姉の愛瑠です。紳助くんは落ち着いてるんだね。妹はバカで元気さだけが取り柄だから、お似合いカップルなんじゃないかな?」
そう言って愛瑠は笑った。推しの大きな目に笑顔で見つめられ、紳助は多幸感を味わった。
「お似合いかぁ……嬉しいなぁ。って、ウチ元気以外にも取り柄あるし!」
瀬奈が笑顔で愛瑠にツッコミを入れる。愛瑠もまた笑っていた。紳助は、ただただこの和やかさが尊かった。そして同じように笑った。
「まぁバカなんは認めるけど……。お姉ちゃんの彼氏はどんなな人なんかマジで気になる。早く戻ってこんかなー?」
「すぐ戻ってくるよ。見た目は人並みにオシャレでチャラチャラしてるけど、好きなところは超真面目な内面かな。ホント、好青年って感じ」
「お姉ちゃんも真逆なんだね?」
「自分に無いものを持ってる人に引かれちゃうものなんかな? 分かんないけど」
そう言って、二人は顔を見合せながら、また笑った。
そして瀬奈の彼氏が手洗いから戻ってきた。嬉しそうに妹カップルを紹介した愛瑠の笑顔は、紳助にとって尊く感じられた。
それから程なくして愛瑠たちは去っていった。
瀬奈は紳助に言った。
「お姉ちゃん可愛かったでしょー。ウチもあんだけ可愛かったら彼氏できるんやろうなぁ。あぁ、彼氏ほしー!」
彼氏持ちの姉を羨ましがるように、瀬奈はそう言った。そんな瀬奈に紳助も言った。
「確かに愛瑠さんは可愛い。推せる。でも……瀬奈ちゃんも愛瑠さんと同じくらい可愛いと思うよ?」
「ええーありがと!」
そんな会話をしながら二人もまた祭りの人混みの中へ、はぐれないように手を繋ぎながら、消えていった。
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