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第二話 推しは神様

 彼は学校へ行き、その日を過ごしていた。この日はなぜだか、ずっとあの女子高生のことが頭を離れなかった。多分話しかけようと思ったからだろうと、彼は思った。


 休み時間に今朝けさのことを思い出しては、また冷や汗のような脂汗のような汗をかきながら、全身が緊張感に包まれ、少し鼓動が早くなるのを感じた。


 すふと突然、肩を叩かれた。


「おい紳助、どうしたんだ大丈夫か?」


 そう言われた。声の主はクラスメイトの男子であった。


「あ、いや、別に。寝てただけ」


 キョドりながら彼は答えた。ちょうど目を瞑って机に突っ伏していたので、そういう言い訳が思いついた。


「ほ〜ん。めっちゃ眉間にシワが寄ってたけど、うなされてたのか?」


「おう、蛇に巻き付かれて殺されそうだった」


「ヤバっ。起こされたことに感謝しろよな〜」


 昨日観たアニメのワンシーンを言ってやり過ごした。


 だって言えるはずはない。今朝、推しの女子高生に声をかける勇気がなかったが為に悩んでいるなど、言えるはずがないのである。


「そういやさ、紳助お前」


「なに?」


「お前の推し誰?」


 彼はキョドった。クラスの中では流行りの「アイドル」かクラスの「マドンナ」で派閥が形成されている。そんな中「女子高生」などと言ってしまえば、きっと今後仲良くやっていけなくなるであろう。


 彼はどちらかと言えば、友達は少なくない。交友関係は広く、それなりに充実した日々を送ってきている。しかし推しが違うという事が発覚すれば、その生活も危うくなるのだ。だから彼は本当は真に尊ぶべき推しがいても、興味が無いフリをして、真面目ぶってやり過ごすしかなかったのである。


 そう、推しの違いというのは言わば神様の違いと同じ意味である。信仰する神様が異なると判れば、彼は異教徒としてはりつけにされてしまうのだ。


「あ……あ……アイドルの番組昨日観たよ……!」


「お前もアイドル派か! 仲間じゃねぇか!」


 小耳に挟んだアイドルのエピソードを話すことで、彼はこの場を乗りきった。彼は踏み絵の試練を乗りきったのである。

 他の話題では仲良くできるのに、推しの話はセンシティブなので心が休まらない。彼はそう思った。


 それから一人になり、彼は考えこんだ。


「あぁ……推しを隠さずに生きていきたい。あの女子高生の魅力をみんなに伝えたい。布教活動に勤しみたい……。そしたらこんなに……隠れキリシタンみたいにコソコソしなくて済むのに……!」


 しかし彼は気づいてしまった。彼自身はあの女子高生の事を、なにも知らない。アイドルやクラスのマドンナよりも彼女の人柄を知らないなんて、情けない。


 彼は思った。はやり、彼女の事を知るしかない。その為には、勇気を出して声をかけなくてはないのだと、強くそう思った。

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