第6話
ともかくそういった背景もあって、和子は懸命に色々なことを小学校時代から初等女学校を卒業するまで頑張り続けた気が、私はするのだ。
そして、そうこうしている間にも時が流れていく。
私の中で上里家の兄弟姉妹のことで初めて会ったときの次に印象に残っているときは、和子が小学校(当時の小学校は4年制)を卒業する前後の頃だ。
上里家の兄弟姉妹で長姉になる美子の振る舞い(美子曰く、ちょっと養父をからかっていただけ、とのことだが、和子を始めとする他の家族に言わせれば、そんなことでは済まなかったらしい)に、養母の愛子が完全に怒って、自分の父の張敬修にも口添えさせて、美子をオスマン帝国の使節団の一員として1年余りに亘って、上里家から追い出す事態が起きたのだ。
だが、その後の美子のシンデレラストーリーを象徴するような話がいきなり起こった。
「佐藤先生、美子姉さんが三条家の一員になって、久我晴通という人と結婚することになったのだけど、三条家や久我家って偉い人なの?」
「単に偉い人どころではないぞ」
和子の質問に、私は肝を潰しながら答えることになった。
公家の序列で言えば、宮家は別格として摂家に次ぐ地位にあるのが清華家だ。
中学校での勉強やこの世界に来て知ったことから、自分はそういったことを知っている。
そして、清華家で一、二の序列を争うのが久我家と三条家なのだ。
その三条家の一員に和子の姉の美子がなって、久我家当主の晴通と結婚するだと。
本来から言えば日本人でない美子にしてみれば、玉の輿に乗るにも程がある話だ。
その後で、この時は三条公頼の娘の三条氏の猶妹という形で、美子は久我晴通と婚約したのだ、と私にも分かるのだが。
考えてみれば、美子と和子の姉妹仲が悪くなるきっかけに、このことはなったような気が、自分にはしてならない。
和子にしてみれば、自分が産まれたことが、養母の愛子と実父の松一がすぐに結婚にまで至らなかった原因ではないのか、と(私からすれば考え過ぎの)考えをしていた。
更に美子が色々な意味で養母の愛子を嫌っていたのは、それこそ私にも伝わる程のことだった。
ともかく、私の記憶の中では、久我家と三条家について和子に説明した後、和子が冷たい声で、
「そんな名家の子に美子姉さんはなって、更に名家に嫁ぐんだ」
と言ったのが私の記憶に残っている。
この猶妹と婚約の件は、後々になって永賢尼が動いたためらしい、と私には伝わるのだが。
和子には更なる追い討ちを掛けるような事態になったらしい。
和子にしてみれば、実母の永賢尼が自分達を捨てて出家したことから、養母の愛子に引き取られることになったのだ。
そして、実母は出家後も姉のことを心配して、これだけのことをするとは。
実母は私のことを本当に愛しているのか、とまで考えたようだ。
更にアーイシャ・チャンのことまで起きた末に、オスマン帝国から美子は帰国してきたのだが。
私は更に驚くことになった。
「結局、美子姉さんは久我晴通と結婚するのは止めたのだけど、織田信長が結婚したいと言ってきているの。織田信長って知っている」
和子の問いかけに、私は驚きの余りに何も言えなくなってしまった。
織田信長だと。
日本史上でも屈指の有名人ではないか。
そんな人物と和子の姉は結婚するのか。
だが、この世界では全く無名の存在だし、歴史が大きく変わりつつある以上、織田信長が史実のように活躍する筈が無い。
だから、私は取り敢えずは誤魔化した。
「さあ、すぐには思い出せない人だな」
「ふーん。そうなの」
私の答えの裏を和子は察したのではないか。
それはともかく、最終的には美子と織田信長は結婚することになり、私は驚くことになったのだ。
改めて描くと、美子って本当にシンデレラもいいところだな、と考えてしまいます。
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