第3話
とはいえ、先生が私1人では色々と限界がある。
教室は事実上1つ、私の居宅の一室が最初の学校というのが、最初の年の現実だった。
本当だったら、小学1年生の男女併せて60人近くを、私1人で教える所なのだが、最初の年の学校は極めて集まりが悪く、それこそ付き添いの兄姉までいれても30人程しか学校に来ず、それも風が吹いたら遅刻して、雨が降ったらお休みで、という児童がゴロゴロいる有様だった。
だが、その一方で1年間の授業は、真面目な子が多かったことから成果を上げ、私の教え子は仮名文字は全て、更には簡単な漢字も読めて、二桁の足し算引き算もほぼできるようになっていた。
こうなってくると、学校教育の効果が、周囲に見えるようになってくる。
2年目になると子どもを学校に通わせる親が増え、又、教え子の中で一番、優秀な者を代用教員として使うことを、上に掛け合って認めさせて、それで何とか学校を運営していくようになった。
(更に言えば、その後もそんな感じで人、教員を増やして行き、最初の10年近くは学校、小学校を自分が運営していたのを、本当に懐かしく思い出してしまう)
だが、その一方で想わぬ話が自分に起きてしまった。
「娘と結婚しませんか」
「はあ?」
我ながら間抜けな話だと考えるが、そんなやり取りを教え子の両親とする羽目になった。
自分は小学校の教員という意識から全く自覚していなかったのだが。
子どもだけ通わせるのは躊躇うだろうし、その子どもの兄や姉にも教育を施す必要があると自分は考えたことから、兄や姉が連れ立ってくるのを自分は認めていた。
そうしたことから、当年とって23歳の自分に12歳の少女(教え子の姉)が恋して結婚したいという事態が引き起こされてしまったのだ。
「いやいや、結婚は14歳からですよ。幾ら何でも気が早すぎます」
「そんなことはありません。(この時代の常識から)12歳で事実上は結婚しておかしくないです」
私とその娘の両親はそんな会話をする事態となった。
それに私は切り札があった。
「私は結婚している身です。それなのに結婚できません」
「その奥様は何処におられるのです」
「それは」
自分としては切り札を切ったつもりで言ったが、相手の言葉に絶句してしまった。
そう自分の妻は20世紀にいる以上、この時代には産まれてもいない。
「ここにおられない以上は、独り身でしょう。私の娘と結婚して構わないではありませんか」
その娘の両親は更に迫ってきた。
元の世界で言えば小学6年生の少女との縁談だと。
確かこの世界に来た直後、上里松一という海軍士官が12歳の華僑の娘と婚約したのを聞いて、自分や周囲は幼女好きにも程がある、(現代で言えばロリコンの)変態だなと嘲笑したのに、自分が似たような事態に見舞われるとは。
自分は心底、悩んだ末に、事態の先送りで逃げることにした。
「分かりました。それでは2年経って、14歳になっても娘さんの気持ちが変わらなければ、結婚するということで如何でしょうか。流石に教師自ら、法律を破る訳には行きません」
「固いお考えの持ち主のようだ。分かりました。それでは2年後に」
取り敢えずはそれで収まったが、本当に単なる先送りにも程があった。
何故かというと、私の教え子になる自分の弟の付き添いという名目で、その娘は弟の登校日には毎日来るようになったからだ。
更には2年後には自分は先生と結婚するつもりだ、と弟にも協力させてそれを周囲に広めた。
そのために半年もしない内に、その娘は私の婚約者だと周囲は認識するようになった。
こうなってはどうしようもない。
何とか娘の気が変わらないか、色々と私はやってみたがダメで自分はその娘と結婚した。
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