表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/17

第1話

会津人ならば、長州人の「希典」という名を付ける筈が無い、というツッコミの嵐が起きそうですが。

小説ということで緩く見て下さるように、平にお願いします。

 自分は会津の地元ではそれなりの地主出身で、長男で頭の出来も良かったので中学校に進学することを親も認めてくれた。

 だが、問題は頭の出来が良かったが、それなりだったことだ。

 そして、陸軍士官学校や海軍兵学校を目指すことは、頭の出来からちょっと無理がある一方で、体力等は超一流にあった。


 そうしたことから、中学校で自分なりに頑張ったが、結果的に陸軍士官学校等を目指すのは無理だと諦めて、親の後を継ぎ将来は地主(といっても父も自分も田畑を耕す身だったが)になろう、と考えていたのだが、徴兵検査を受けたら自分の体力等が買われて、地元の連隊に入るだけでは済まず、近衛歩兵第三連隊に配属されることになったのだ。


 そして、近衛歩兵第三連隊に配属されて、皇軍、大日本帝国陸軍の宿痾といえる猛訓練に自分は遭ったがその一方で、

「お前らは文字通りに帝の楯になる近衛歩兵なのだ。その一員に相応しい兵士たれ」

と厳しく教導されることにもなった。

 小中学校での教育に加えて近衛連隊での教導から自分はそうならねば、とある意味で洗脳された。


 そして、400年前に自分達がいるらしいことを教えられたのだ。


 この時代の逆賊の足利将軍家を筆頭とする今上陛下、帝を蔑ろにして憚らない武士どもを打ち破って天皇親政の正しい日本を取り戻すのだ。

 そう武藤章近衛師団長が獅子吼したら、自分を始めとして全ての近衛師団の将兵が、師団長が言う通りだ、日本に速やかに向かい、天皇親政の正しい日本を取り戻すのだ、と叫ぶ事態が起きた。


 そして、自分達はルソン島から日本本土へ向かい、更には山崎の戦いで勝利を収めて、京に入った。

 更には今上陛下、帝の御いたわしい姿を遥か遠くから拝見して、自分も含めて全ての近衛師団の将兵が正しい日本を取り戻すのだ、とあの時には固く決意したのだ。


 だが、そういった決意、高揚感も時と共に少しずつ冷めていくのが現実というものだった。

 例えば物を買う通貨にしても、紙幣は紙くず同然なのだ。

 この時代の通貨は金銀銅貨で、紙幣には信用がない以上は、通貨にならないのが当然だからだ。

 そのために腹立ちの余りに紙幣を燃やして灯りにする者までいた程だった。

 

 又、主計士官や技術を持った者らが四苦八苦して、朝廷を通じて撰銭令を出して、又、悪銭を回収して良銭を造るようなこともした。

 それで出来た銅貨が古銭と一緒に給料として渡された時は、事情は分かるとはいえ、自分も含めて周囲の皆が近衛兵の誇りを忘れて、こんなの自分が慣れ親しんだお金じゃない、として暴動を起こしたくなったくらいだった。


 とはいえ、この時代で使える通貨が手に入ったのは大きかった。

 何故なら、それを使って買い物等ができるようになったからだ。

 多くの将兵が一時休暇(といっても一月以上の)を取得しては、故郷を確認に赴いた。

 そして、改めて過去の世界に戻ったことを多くの者が痛感した。


 自分は地元が近い者達と話し合い、十数名で共同して故郷の会津等を回った。

 磐梯山の山容が全く違い、更に自分が知っている裏磐梯三湖が影も形もないことを見て、自覚した時に自分は人目もはばからずに号泣せざるを得なかった。 

 本来なら年上の者に、

「男が泣くな」

 と変な口実で殴られるのだろうが、他の者も大なり小なり故郷に赴いては、似たようなことをやらかしていたのだ。


 故郷の姿が違うというのは、本当に多くの者にとって衝撃だった。

 例えば、東京近郊の者は利根川の流れが違うことに目を見張った。

 瀬戸内海沿岸や有明海沿岸等の干拓によってできた土地が未だに無いこともあって、故郷が海の底という者もそれなりにいた。

 そうした場合に多くの者が自分と同様に号泣することになった。

ご感想等をお待ちしています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
どれだけの【未来のL記憶】を過去に伝えることができているか楽しみです。
[良い点] 史実世界では開戦時、武藤章中将は陸軍省軍務局長。翌年春に左遷?で近衛師団長。これはゾルゲ事件のトバッチリだったのか? 微妙に歴史が違い、史実世界より数ヶ月以上早く近衛師団長になっているけど…
[良い点] 磐梯山が明治21年に山の形が全く変わるほどの大噴火を起こしております。よって、戦国時代と昭和では地形が全く変わっております。 佐藤先生のお名前が長州出身の乃木希典大将にちなんでいる理由は、…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ