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剣と魔法と異世界兵器  作者: 日暮悠一
6/15

魔法

説明回的なのです。

王国最強の剣士から剣術を学べるなんて最高!


なんて思っている時期が俺にもありました。いやはや、剣の道は俺が思っているほど甘くは無かった。というかそもそも俺の運動センスが壊滅的だった。騎士団長であるカルガロットからも気を遣われるという散々な有様だったといえる。


今日の分の訓練は終わり、俺が今いるのは王城にある図書館だった。筋肉痛で痛い身体を伸ばしながら、棚の上にある本を取っている。なんであんな所に置くんだか........。


図書館は広大であり、梯子を取ってこようにもどこにあるのかまったく分からない。司書さんに聞こうにも本を読むのに集中しているようで、話しかけようとしたら滅茶苦茶睨まれたので諦める。ちゃんと仕事しろよ!とは口が裂けても言えず。だって怖いからな。


最近の日課はこの窓際の日当たりの良い席でここの蔵書を読むことだ。


俺は異世界で生き抜くために必要なのは力と知識、この二つだと思っている。どちらかだけでは役に立たず、この双方があってこそ意味がある。力はすでに諦めた。出来る限りの努力はするつもりだが、大半を知識の吸収に努める所存だ。


そのために必要だったのがこの本達。カルガロットに聞いてここに入る許可は得ているので何もやましいことは無いし、ここには面白い本が多い。地球には無いような生態系や技術、場所、物、偉人、まだそこまで読めてはいないけど、当分は退屈しないだろうと思う。


今読んでいるのはこの世界におけるファンタジー要素の最高峰、魔法についての本だ。剣術の訓練と共に魔法についての訓練も始まったので、その勉強のために読んでいる。


まず、魔法とは魔力を性質変換して体外に打ち出すもの。これがよく想像する属性魔法と呼ばれる魔法技術の一種であり、この世界で最も普遍的な魔法だ。この属性魔法、発動には基本詠唱が必要になる。理由としては確固たるイメージを再現するため。


そもそも、属性魔法は想像の産物なのだ。火が出る、水が出る、風が吹く、こういった想像の力が魔力を元素に変換している要因の一つであり、それを発現させるためには細部まで再現するイメージが欠かせない。しかし、人間の脳みそでは火を、水を、風を寸分の狂いなくイメージするなんてことは不可能だった。


その問題を解決したのが「詠唱」そして「術式」と呼ばれるものだ。「詠唱」はご存知の通り決まった語句を暗唱しながら魔力を練ることによって決まったイメージを再現する方法で、節数が多いほど魔法の規模も大きくなる性質を持つ。現在確認されている中で最高なのは第五節からなる魔法だ。


対して「術式」は魔法=想像力という公式を根本から覆す方法だった。「術式」はあやふやなイメージではなく、あらかじめ決められた式を基にして魔法陣を構成して魔法を行使する。これは魔法陣の大きさや複雑さにより魔法の規模が増減する魔法式だ。なので、「術式」において一番大事なのは知識だ。どんな式を組み合わせればどんな現象が起きるのか、とある現象を起こすには何が必要なのか、そういった知識が際限無く必須になる。また、「術式」を使用した魔法を術式魔法といい、これは属性魔法とはまた別物として扱われているようだ。


どちらかといえばこちらは理系向き、「詠唱」は文系向き、とも取れると俺は思うがどちらも出来る人もいるのでなんとも言えない。


さらに、属性魔法には各属性ごとに適正がある。適正が無ければその属性がまったく使えないわけではなく、成長性、つまり極められるかられないかの違いなのだ。火の適正があれば火属性魔法の使い手として名を馳せることが出来るかもしれないが、無いのなら晩成することは望めない。ある種、これには才能によって左右されると言っていいだろう。


(............まあ、俺にはどちらの才能も無かったんだけど)


俺のクラスメイトは流石は異世界人と言うべきか全員が属性魔法の適正、もしくは術式魔法の才能を持っていた。天笠や市薗のような魔法特化型はその両方を十全に操れるという。だのに俺は術式魔法の適正は無し!属性魔法も少し雷属性に適正があるね、くらいだった。他の奴らが三属性適正などで騒いでいるなか、一人だけこんな惨状だったのは本当に冷や汗が流れたものだ。


魔法の素質も剣の素質も無いからこんな所に一人でいるんだけどな。.......ああ駄目だ駄目だ!才能のことなんて考えてたら気分が暗くなる。魔法を学ぶのは嫌いじゃないけど、次は地理の本でも読むか。


棚から引っ張り出して来た中から「大陸の歩き方:序」という大変続きが気になりそうな本を取り出し、机の上で開く。


最初のページに載っていたのはこの世界の地図。一つの大きな大陸と、その周囲にチラホラと島国がある。大陸の名はエレイオン。この世界の主神の名前からとったと書かれている。めちゃくちゃに広いな、縮尺から見ると日本の何倍だ?少なくとも10倍はある。


世界地図を少し見てその大きさに驚いた後は本の中身を見ることに集中していたが、それでも読み終えるのに一時間はかかったのではないだろうか。辞書並みに分厚いのでそれも当然かもしれない。使い方を工夫すれば鈍器になりそうな本だ。


さて、今読んだ「大陸の歩き方:序」の内容についてだが、非常に興味深いものだった。異世界物が好きなラノベオタクからしてみればこの本は設定資料のようなもので、読んでいて飽きるどころか読むほどに面白さが増すような本だ。


最悪だと思っていた異世界にも、いくつか面白そうな場所があった。


その一つが多種族共生国家アルヴァハロン。亜人、エルフやドワーフ、獣人といったあらゆる種族が集まり、国を形成している。大陸南部に位置しており、一年を通して温暖な気候が特徴だとか。


今の説明でお分かりいただけただろうか。そう、獣人がいるのである!ケモミミと言えばオタクの嗜み、異世界に来たからには一度は見ておきたい代物である。


残念なことに人間主体の国家では獣人などの亜人族は敬遠されている所があり、あまり見かけることが出来ない。よくある人間至上主義のくだらない考え方が基になっているよう。


アルヴァハロンで獣人やエルフ族が安全に暮らせるというのも、そこの国王が獣人族だからなのだ。今の王は平和主義者で、就任してから今まで他国との戦争をしたことが無いのだとか。


他にも、アルヴァハロンの南に位置する海洋都市リカオン。何を隠そう海鮮料理が食べられる上、魚人というものがいる。魚人は獣人の一種で、陸上の獣ではなく水中の魚類がベースになっているものだ。つまり、人魚が存在するということ!これまた異世界に来たからには一度は見てみたいところである。


続いて、秘境セルディリア。大陸の中央部、深淵の森の中に存在すると言われている国だ。人間族の中でそこに辿り着いた者はおらず、獣人やドワーフから仕入れた情報の一つらしい。そこはエルフのみで構成されていて、選ばれた者しか入ることを許されない、と本には書いてあったが、いかんせん辿り着いた人間がいないため真偽は定かではない。


こういった事が書かれているから本を読むのはやめられない。異世界の醍醐味といえば知らない知識だろうとは思うが、行って体験するのも面白そうだ。


しかし、それは叶わない。何も知らない異世界初心者が城、ましてや国の外に出るなど自殺行為に等しいからだ。すぐに死んでしまうのは目に見えている。俺もまだ死にたくはないし、まだ城から出る気もない。


そう考えると興奮していた思考が一気に冷めていくのを感じた。見ていても虚しくなるだけだと丁寧に本を閉じる。乱暴に扱えばあの司書にどんな目に遭わされるか分からないからな。


(結局は力が無いと何も出来ない、か)


自嘲気味に笑いながら、俺は図書館を出て行った。







♦︎♢







飛んで時刻は夜。


夕飯を食べ終わり、特にやることも無い俺はすでに自分に与えられた部屋に戻っている。アウェーな雰囲気に耐えられなかったというのもあるが、本っ当にやる事が無かった。なんせ話をする友達がいないからな。


去り際に市薗が話しかけて来たが、あれは何だったのだろうか?陽キャの憐れみか?だとしたら惜しいことを.....した気もしないな。新たな火種になりそうだし。


しかし、部屋に帰ってもやる事が無いということを失念していた。俺は基本夜型なので、今も目はギンギンに冴えている。当分寝られなさそうだし、眠気が来るまで王城を散歩することにしたのだ。


まあそんなわけで王宮の廊下を歩く俺。普段は文官や騎士の人達が歩いている広い廊下も、人っこ一人おらず不思議な感じがする。ちょうど早朝の車道みたいだ。世界に俺だけしかいないような感覚に襲われる。


しっかしこの城本当に大きいな。この広さがそう錯覚させる要因の一つかもしれない。魔法があるとはいえ、この規模の建物を作るのは相当大変だったのではないだろうか。


そうそう、話は変わるが、創作といえばやっぱりドワーフだよな。基本は鍛治が専門らしいが、建築などの土木作業も得意だそうで、人間族の国にもいくつかドワーフが作った建物がある。


なんとはなしに、壁に手を当てるとヒンヤリとした感触が手に伝わって気持ちが良い。


(そろそろ戻ろうかな)


そう思った時だった。背後から俺に声がかけられたのは。


「新谷くん?」

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