ステータス鑑定
国王の声が広間に響き渡る。
「アリアナは私の娘だ。そなたらのステータス鑑定を執り行う」
国王の娘、それすなわち王女様ということ。自分達とは住む世界が違う相手だが、日本に王制は無い。話していてもピンと来ないだろう。それに俺からすれば彼女が王女だろうと平民だろうと大したことない違いは無いに等しい。どうせ関わることなど無いのだから。
男子達がアリアナ王女に熱い視線を送り、女子達がそれを見て冷ややかな視線を送っている間にも話は進んでいく。
「そなた達がこの世界に渡る際、神の手によってスキルを授かっているはずなのじゃ」
スキルーーそれは神に与えられた力であり、魔王を打破するためにかの主神が我々に授けたもの。その形は千差万別で、攻撃を得意とする物も有れば防御を得意とする物もある。更にその両方の性質を持つものまで、多種多様である。
というのが彼らの大雑把な説明だ。
「それに、異世界からの勇者には普通よりも強力な物が授けられるとか」
それ、何かデータとかあるんですか?と言いたくなるような話だが、流石にここで発言する勇気は無い。
ステータスについては、その人個人の能力を数値化したものらしく、この世界におけるレベル1での平均値は10〜15が妥当だとか。レベルは強さの指標を指し、これが上がるというのは種族としての進化を表しているらしい。ステータスの値はレベルアップだけではなく、日々の訓練でも上がる。まあよく考えたら当然の事だ。鍛えれば筋肉はつくし練習すれば技術も身につく。なのにステータスが上がらないなんておかしいからな。
ステータスについての説明が終わり、いざステータス鑑定の時間がやって来る。
アリアナ王女が手に持っている水晶でスキルを鑑定するらしく、俺達は一列に並ばされた。最初は皆不安がっていたが、天笠が「僕が一番最初にやらせて貰う」と言って漢気を見せたので大人しく整列している。二番目は市薗、その次に林道、三条院と続いていて、俺は一番後ろに追いやられた。
宣言通り天笠がアリアナ王女の持っている水晶に手をかざす。その途端水晶から虹色の光が溢れ出し、水晶の上に半透明の板が出現した。それを王女と国王が覗き込み、驚嘆の声を漏らす。
「おお.....!そなたがあの伝説の勇者殿か!」
そして国王によって読み上げられたステータスはこうだった。
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名前: 天笠 勇樹
性別:男
年齢:17
レベル:1
生命力:200 筋力:200 速度:200
物理防御:200 魔力:200 魔法防御:200
スキル:【勇者】【言語理解】【先天】
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まさに俺Tueeeeeeeeee、召喚チートを体現したようなステータスに広場は静まりかえる。平均10〜15の世界で初期値が200。これを化け物と呼ばずしてなんと呼ぶのか?
(やっぱり勇者は天笠だよなぁ〜)
もしかしたら俺かもしれない、と考え無かったといえば嘘になる。その希望も無惨に散ってしまったが、戦いたいとも思っていないのでそこまでショックは大きくない。
天笠のステータスが公表されると一拍おいて歓声が上がる。勇者の召喚に成功したことが、彼らをそう駆り立てたのだろう。自分達の安寧は守られる、と。この国がどれだけ勇者を神聖視しているのかが分かり、こりゃ下手な事は出来ないと認識を改める。
割れんばかりの拍手が鳴り止むと、次は市薗の番だ。
彼女が水晶に手をかざすと、これまた虹色の光が発せられる。この後、林道、三条院の時も水晶は虹色に発光した。市薗達のステータスも天笠と同じく読み上げられる。俺だったら絶対に嫌だ、と思いつつ細部にまで耳を傾ける。
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名前: 市薗 鏡花
性別:女
年齢:17
レベル:1
生命力:150 筋力:150 速度:150
物理防御:150 魔力:100 魔法防御:100
スキル:【剣聖】【精神攻撃耐性】
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名前: 林道 仁
性別:男
年齢:17
レベル:1
生命力:200 筋力:180 速度:100
物理防御:180 魔力:100 魔法防御:180
スキル:【聖騎士】【我慢】【根性】
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名前: 三条院 三葉
性別:女
年齢:17
レベル:1
生命力:100 筋力:100 速度:100
物理防御:100 魔力:200 魔法防御:200
スキル:【賢者】【天の声】
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........うん。一言でいうとイカレてる。【剣聖】に【聖騎士】に【賢者】?これでパーティー組めるじゃねえか!しかも能力値が馬鹿みたいに高い。勇者程では無いにしろ、こちらの世界の人から見れば理不尽極まりない力だ。なんの訓練もしたことが無いというのにこの強さ、これが異世界人か。
「Sランクのスキルが三人も.....これは成功ですね!」
「ああ、これで王女様も救われるな」
最終尾に並んでいるからか、兵士達の囁きが聞こえてくる。スキルにもランクがあるのか?その説明をせずにステータス鑑定に移るとは.....どれだけ俺達のスキルが気になっているんだか。それに王女様が救われる....アリアナ王女は見たところ元気いっぱいにしか見えない。なんの話をしているのか、まだ俺達に教えてない事が多いようだ。
その後も、順調に鑑定の儀は進んでいった。虹色の光が出たのは最初の四人のみで、他の奴らは赤や青がほとんど。それでも能力値は現地人よりも圧倒的に高く、即戦力と言っても差し支えないほどだ。
そして遂にやって来た俺の番。学校で嫌われ者である俺になんて誰も注目していないのが幸いか。
(...........?)
視線を感じ振り向くと、市薗と目が合う。彼女は俺と目が合った途端にこりと笑顔を見せた。そういうところがモテる秘訣なのかもしれない。俺には土台無理だ、よく愛想のカケラも無いと言われるし。他のクラスメイトに見つかる前にとすぐさま目を逸らし、王女様の前に立つ。
悲惨な結果じゃなければそれでいい、そう願いながら水晶に手をかざす。
発光した水晶の光は虹色、ではなく、赤色でもない。広間は今までに無い、白い光に包まれた。
「こ、これは......」
水晶にステータスボードが出現し、王女が戸惑った様子でそれを読み上げる。
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名前: 新谷 伊織
性別:男
年齢:17
レベル:1
生命力:20 筋力:10 速度:10
物理防御:10 魔力:15 魔法防御:10
スキル:【高速思考】
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「ウッソだろ......」
そう呟いてしまっても致し方無いほどのステータスだった。スキルはおろか、能力値はこの世界の平均ぴったり。異世界から来てこれでは何の意味があるのか。スキルにしても【高速思考】のみ。速く考えられることが戦闘に繋がるわけがない。
「だ、大丈夫ですよ。戦いに行かないという選択肢もありますから!」
鑑定をしていた王女様にまで憐れまれる始末。
(俺の異世界生活....終わった?)
戦いに行かないならこれでも問題ない?冗談じゃない。自衛くらいはできる力が無いとやっていけないはずだ。日本と違い、ここは平和な世界じゃない。
「おいおい!聞いたかよ新谷のステータス!」
「ひっく!お前本当に日本人かよ!?」
「これじゃあ魔物とすら戦えねえぞ!」
いつもの三人組から伝播し、広間に笑いの渦が巻き起こる。その対象が自分で無ければどれだけ良かったか。
それでも起きてしまったことは変えられない。
そうして、俺の異世界召喚は最悪な形で始まった。