表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣と魔法と異世界兵器  作者: 日暮悠一
12/15

生きる覚悟

あれから、どれくらいの時間が経っただろうか。


一時間か、一日か、はたまた一週間か。少なくとも一日は経っていると信じたいが、俺が餓死していない所を見るとまだ一週間は経っていない。


それでも、この暗闇は俺の精神を狂わせるのに十分だった。


体感時間、二日間の間はひたすら救助を、助けを待った。何処かにいる魔物に見つからないよう息を殺し、身動きすら取らずただひたすらに。


四日目、すでに俺は救助を諦めていた。まだ希望はあると信じたくても、理性は無駄だと囁いてくる。怖い、嫌だ、そんな感情だけが俺を支配していた。


五日目、何度も何度も同じ考えが頭に浮かぶ。


何故俺が?


どうしてこんな目に?


俺がいったい何をしたと?


この理不尽を受けるべき相手は他にいるはずだ。にも関わらず、奴らはあの化け物から逃げ延びた。


神も仏もこの世には存在しない。どれだけ真摯に祈ろうが崇めようが奴らは俺達を助けてはくれないのだ。最後に信じられるのは自分だけ、信用できるのも自らの力のみ.......


未練がましく日数を数えるのはもうやめた。それでも、頭の中では問がグルグルと回っている。



弱いから死ぬのか?


こんな何もない暗闇の中で?


力無き者は強者に屠られるしか道は無いのか?


そんなこと、俺は認めない。認められるはずがない。自分がこのまま死んでいくなんて耐えられないーー




そうか、そうだよな。俺はこの世界で生きるという意味を分かっていると思っていた。理解しているつもりだったんだ。それでも現実は想像を超えてきた。


死も、生も、そのどちらもが簡単にひっくり返る世界で、俺はーーなんて勘違いをしていたんだろうか。


生きたいなら強くなれ。


奪われたくないなら容赦を捨てろ。


ただ、本当に、ただそれだけだった。その覚悟が俺には足りていなかった。殺す覚悟?そんなチンケな物じゃない。死と隣り合わせの世界で生きる覚悟だ。殺す、そんなのは大前提に過ぎない。()らなければ()られる。ならば()られる前に()ればいいだけのこと。


本当に簡単な事だった。


理由はいつだって単純(シンプル)だ。


ーー死にたくない、その思いが、その思いだけが俺にとっての原動力だった。


そこに理由なんて無い。生きているからこそ生きたい、そう思うことが何かおかしいだろうか?


死に直面したからこその生への渇望が俺を動かす。停止していた脳みそを回転させ、ドクンと心臓が強く脈打った。


まるで、まだ止まりたくない、とでも言うように。


生きる、という明確な目標が出来てから、俺の中の何かが変わった気がした。まあ、多分気のせいだろう。


ほとんど閉じかけていた目を開くと、周囲がやけに鮮明に写る。いや、暗闇の中のはずなのに周りの様子が見えるのだ。


俺がいたのはだだっ広い洞窟の中。唯一の出入り口と見られる穴は、俺が座っている真反対に位置している。思考が始まったからか、匂いや音などの五感が戻ってくると、鼻の奥をツンと突くような死臭が辺りを覆っていることに気づいた。


その正体はそこらに無惨に転がった死体だ。死体、と形容するのも憚られるほど、それは原型を残してはいなかった。フォレストレックスに食われたのだろう、少しの骨に肉片が付いた残骸が散らばっている。


どうやらここは食料保管庫のような場所らしく、外から取って来た獲物を仕舞っておく用途があるようだ。俺はたまたまそこに生きたまま入れられた、ということか。気を失っていたからこその不幸中の幸い。


(どうせなら見逃してくれれば良かったものを......)


考えても仕方ないと、俺は行動を開始する。


まずは衰弱した体を元に、欲を言えば元よりも丈夫に仕上げたい。そのために必要なのは食事と運動。水は魔法で出すことが出来ても食料は出現させられない。魔法もそこまで万能な代物ではないのだ。ならばどうするか。


(やりたくはないがーー)


近くに落ちていた骨を引っ掴み、口元へ持っていく。そして、俺はそれに思いっきり齧り付いた。僅かに骨にこびりついた人間の生肉を咀嚼し、飲み込む。喉越しは良くない。味も勿論同様だ。それでも、俺は食べることをやめない。そうしなければ死ぬ。なればこそ、やらない理由が無い。


お世辞にも美味しいとは言えない肉。しかし、今の俺にとっては生命線そのものだ。大量に落ちているとはいえ、どれだけ長くいることになるかも分からないので節約しなければ。









そうして、俺は生き延びた。


人肉を食べ、魔法で水を生み出し、ずっと極限状態の中でも生きてここを出るという野心は無くならない。


生の肉を食べたせいで腹を壊して微弱な回復魔法で治すことを何度も繰り返すうちに、生肉を食っても体調に影響が出なくなった。これは大きな進歩だ。


日々感覚を研ぎ澄まし、状況の把握に努めた。そして分かったことがいくつかある。


まずは、この場所についてだ。ここがフォレストレックスの巣であるという俺の見解は間違っていなかった。少々違いがあるとすれば、俺が見た生体のフォレストレックスだけではなくその子供も存在するということ。単純に頭数が多いので不利ではある。が、俺にとって都合の良いことに、この巣には親が一体しか存在しない。


そしてその唯一の生体であるフォレストレックスはよくこの巣の外に出る。子供達にやる餌をとってくるためだろう。一体しかいないソイツがいなくなるならば、その時こそ俺が脱出するのに最も相応しい時間だ。これほど逃げるのに役立つ情報も無い。


脱出計画を練る上で、一番ネックなのは俺の貧弱さだ。たとえ外に出られても、他の魔物に襲われてお陀仏なんてことになったら目も当てられない。それにフォレストレックスの子供達も障害になり得る。いざとなれば......殺すしかない。


まあそれは置いておいて、一番の問題は俺自身の貧弱さだ。このまま逃げようとしても途中で襲われるのがオチだというのは分かっている。だから、自分の強化にも時間を当てた。


片腕しか無い状態で剣を振るのは想像以上に難しかった。刃先がブレるし、片腕では力も碌に入らず、何よりバランスが取りづらい。元々下手くそな剣捌きが更に弱体化したのだ。


なので剣を扱うことには早々に見切りをつけ、魔法技術の訓練に取り組むことにした。魔力をひたすら体内で循環させ、属性魔法の使用時に正確、かつ円滑に魔法発動までのプロセスを行えるようにする。


そんな訓練を繰り返していると、ふとクラスメイト達はどうしているのだろうか、という思いが浮かんできた。


まあ、大半の人物が俺がいなくなってもどうも思っていないんだろうが。むしろ天笠なんかは俺が居なくなってせいせいしているかもしれない。いや、それは無いか。どんだけアイツが俺を嫌っていても、天笠はどちらかと言えば善人だ。いなくなった人間に対して唾を吐くような真似はしないだろう。特に市薗が見ている前では。


(他の奴はどうだか......ま、十中八九喜んでいるのが一人はいるけどな)


五十嵐はキャンプに戻ってカルガロットに何と説明したのだろう?さしも俺が合意で着いて行ったように報告したんだろうな。下手したらフォレストレックスの件も俺の所為になっている可能性がある。死人に口なし、だ。


「ステータス」



-------------------------------------------------------------------------


名前: 新谷 伊織

性別:男

年齢:17

レベル:2


生命力:35 筋力:20 速度:20

物理防御:20 魔力:30 魔法防御:20


スキル:【高速思考】【暗視】【感覚強化】

   【魔力操作】【毒物耐性】【不屈】


-------------------------------------------------------------------------



驚いたことに、俺はこの短期間(?)で新たに五つのスキルを手に入れていた。ステータスを見るまで気づかなかったが、これは僥倖だ。


【暗視】は文字通り暗闇で目が見えるようになるスキル。長い時間この真っ暗闇の中にいたことで習得したのだと思われる。これはかなり有用で、これが無ければ脱出計画を練るのも不可能だった。そもそも食べ物が無いので餓死していた可能性が高い。そう考えるとこれは恩人ならぬ恩スキルだ。


そして【感覚強化】。これは視覚、嗅覚、聴覚などの五感を強化するスキルで、獲得できた理由は分からない。恐らく魔物の音や気配に怯えて過ごす内に、勝手に五感が磨かれたのではないだろうか。


三番目は【魔力操作】。体内で魔力を循環させていたことや、魔法を何回も使用したことから魔法発動の手間とコストを軽減できるスキルだと考えられる。事実、このスキルはまさに革命的なものだった。今までは動かすことを意識して無理矢理動かしていた魔力が、驚くほどスムーズに流れるのだ。それにより魔法発動までのスピードは格段に上がり、一節魔法ならほぼ無詠唱と同じくらいの速度で展開できる。


二節以上は俺の魔法使いとしての実力が足りていないため不可能だったが、それだけでも役に立ちそうだ。


四番目は【毒物耐性】。何やら物騒なスキル名だが、効果は単純で毒物に対する耐性を得る、というものだ。なぜこんなスキルを獲得したのか考えたところ、思い当たることが一つあった。


それは俺がいつも食べている人肉だ。焼いてもいないし何の処理もしていない肉を食べているのなら、食中毒になってもおかしくはない。突然食べるのが苦しく無くなったと思ったらそういうことか。ありがたいスキルだ。


最後のスキルは【不屈】。これに関しては俺もまだよく分かっていない。使おうとしてもウンともスンともいわず、最終的には使うのを諦めた。


さて、これだけスキルが集まり、最初と比べて能力値も上がった。ほとんどの準備や計画は整い、予測不能な事態が起きなければ計画に穴は無い。


ならばどうするか?


もちろんーー脱出だ。この洞窟から。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ