第9話 秘密ガチャ、始めました。 9
「……ふ~ん」
子供心をくすぐる、面白いガチャガチャが沢山あった。トランシーバー、レーザーポイント、アクセサリー、どれもこれも、百円で買えるとは思えないような、魅力的な商品が詰まっている。
トランシーバーにいたっては三百円だが、正直三百円でもまともに作動するかは一考の余地があると思う。横にずらりと並んだガチャガチャを見て行くと、秘密ガチャ、というものに目が行った。
「秘密ガチャ……?」
興味をそそられる。見れば、何が出るか分からない! 秘密のガチャガチャが当たります! と書いてある。黒い玉のシルエットの上に、はてなマークが描かれている。
面白い。俺はこういうのに弱いんだ。十中八九、在庫が余ったガチャガチャを適当に入れて秘密ガチャ、と名付けているのだろうが、それでもいい。
幸い、まだ二百円余っている。俺はポケットの中から百円を取り出し、秘密ガチャに硬貨を入れた。
「よし」
ガシャポン、とカプセルが落ちてくる。銀色のカプセルが、落ちてきた。外面からは、中に何が入っているか分からない。
「いよいよ面白くなってきた」
俺は銀色のカプセルを、勢いよく開いた。
「…………」
中には、折りたたまれた一枚の紙が入っていた。ただ、それだけ。
「なんだこれ」
俺は紙を開いてみた。
【レア度】
SR:★★★★☆
【秘密】
黒沼恵梨香は、御伽今宵という名義でコスプレイヤーをしている。
【一言】
片方の角が折れた、鹿のキーホルダーに注目してね!
「…………」
唖然と、した。
大きく開いた口が、ふさがらない。
「黒沼恵梨香……」
あり得ない。これはもう、在庫が余った商品だとかおまけだとか、もはやそういう次元ではない。人の、それも、俺のクラスの先生の個人情報が、紙に書いてあった。
「御伽今宵……」
確か、御伽今宵はツイグラムで有名なコスプレイヤーだったはずだ。バラエティ番組に出ているのも見たことがある。年末のコスプレイベントでクオリティの高いコスプレをしていた、ということで一時期話題になっていたりもした。
詳しくは知らないが、写真集も一、二冊出していたんじゃなかっただろうか。そんな有名なコスプレイヤーが、俺のクラスの先生……?
「なんだこれ……」
俺は手をぶるぶると震わせながら、紙をポケットにしまった。
いや、あるのか? これは夢だ。それも明晰夢。個人情報がガチャガチャから出てきたとしても、なんら不思議はない。ただ、今まで俺の現実に即した世界を探検していたため、少し驚いただけだ。
「もしかして……」
俺は慌てて残りの百円を取り出し、秘密ガチャを回してみた。
ガシャポン、と黒いカプセルが落ちてきた。
「色が変わってる……」
先ほど落ちてきた銀色のカプセルとはまた違う、黒色のカプセル。もしかしてこのカプセルの色は商品のレアリティを示しているんだろうか。
だとすると、一回目で銀色のカプセルを引いたのは、相当運が良かったんだろう。
俺は黒いカプセルを開いた。
【レア度】
R:★★☆☆☆
【秘密】
九堂司は、秋柴紗友里と付き合っている。
【一言】
九堂君が秋柴さんの前でだけ変わった態度なのは、現在交際中だからだよ!
「また……」
今度は、司の秘密が出て来た。司と委員長が付き合っている、だと? あり得ない、なんだこれは、なんなんだこれは。一体この世界で何が起きているんだ。
俺がおろおろとしていると、途端に意識が遠のいてきた。
「う……待ってくれ……」
段々と目の前が暗くなっていく。もう、この夢も終わりなのだろうか。俺はゆっくりと、意識を手放した。