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第6話 秘密ガチャ、始めました。 6



「やってみろ」

「ふふん」


 舞奈はボタンを開け、机に肘をついた。


「お兄ちゃんって、結構筋肉質なんだ~」


 舞奈は俺の腕をつー、と撫でてくる。


「ちょっと頼りがいあるかも」


 舞奈はコップに口をつける。


「ふふ……顔、赤くなってるよ?」


 舞奈は俺の耳元まで手を持ってきた。

 そんな舞奈の挑発的な態度に、俺は


「おええぇぇぇぇええ!」


 飛びのいた。


「気持ち悪い! やっぱ止めてくれ」


 家族水入らずのリビングで見てた映画がちょっとエッチなシーンに突入したときのような、言いようのない気まずい感覚を味わってしまう。

 公衆の面前で恥をかくアニメの主人公を見た時のような、耐え難い共感性羞恥が、そこにはあった。


「え~、何その言い方、意地悪ぅ~」

「あと机に肘をつくんじゃありません」


 ちぇ、と言い、舞奈は頬を膨らませた。


「でもちょっとは舞の外面見れて良かった?」

「いや、やっぱり内面で頼む」

「何、内面って」

「慣れなさすぎて鳥肌が立ってしまった」


 俺は腕をこすり、摩擦熱で温める。


「温めてあげよっか?」


 ふふ、と舞奈は嫣然と微笑んだ。


「次やったらおやつ抜きな」

「やーーだーー! 舞奈おやつ食べるのーー!」


 舞奈はどたどたと暴れる。


「ご飯中に暴れない!」

「はい、すみません」


 舞奈は姿勢を正し、ご飯を食べ進めた。

 そのまま俺と舞奈はご飯を食べ、風呂に入り、二十二時になった。母さんと父さんも帰ってきたが、仕事終わりの二人は疲労困憊で、とても話しかけられる風貌ではない。


「じゃあ母さん、父さん、俺寝るよ」

「気を付けて寝るのよ」

「気を付けて寝るってなんだよ」


 世のお母さんは取り敢えず気を付けて、と言っておけばいいと思っている節があるな。


「すまんな悟、毎日舞奈のおもりさせて」


 父さんが申し訳なさそうな顔で俺を見る。


「良いよ、父さんも母さんも毎日俺たちのために外で働いてきてくれてんだから」

「舞もそう思う」

「お前ら……」


 寝巻きに着替えた舞奈も、俺の隣で同調する。


「俺は……俺は、こんな良い息子と娘を持って幸せだぁ……!」


 くぅ、と父さんは目頭を押さえる。


「じゃあ舞寝るから」

「おいおい、随分淡白な」

「俺も寝るから」

「おい! お前ら! 親の愛!」


 父さんのオーバーリアクションを背に、俺と舞奈はそれぞれの寝室へと向かった。


「親の感動シーンスキップするな!」


 俺は親の感動シーンを飛ばし、寝室に入った。


「よし、と」


 そこで今日一日あったことを日記にまとめる。


「新妻さんは机を運ぶのが雑だから、脚にアザが出来た」


 ほぼ新妻さんのことといっても過言ではない。なにせ、新妻さんは不思議なのだ。俺の好奇心をくすぐる。もはや日記ではなく、新妻さん観察日記と言い換えてもいいかもしれない。


「委員長と男たちの仲介役をする司は、珍しくおろおろしていて面白い」


 今日一日あったことを日記にまとめ、俺は布団の中に入った。スマホにイヤホンをつないで、ティックチューブでヒーリングミュージックを聞く。


「ふあぁ……」


 水の音、森の背景音楽のヒーリングミュージックを聞き、すぐさま眠くなる。

 以前、テレビをつけていないと寝れない人、というのをテレビで見たことがあるが、あれはある種の自己催眠に近いんじゃないかな、と思う。


 ヒーリングミュージックも一種の自己催眠であり、こうすれば簡単に眠れる、という理論だ。ある条件になった時にある行動が同時に誘発される、いわば習慣だ。寝るときにのみヒーリングミュージックを聞くため、逆にヒーリングミュージックを聞く時は眠るときだと、体が覚えてくれている。聞けばすぐさま眠くなるのだ。

 ルーティーンと同じようなものだ。ある種の行動を呼び水に、自身の平静、及び精神の安定を獲得する。習慣と言うのは、得てして便利でもあり、恐ろしくもある。


 お風呂で放尿をする癖があれば、年を取った時、美容院で髪の毛を洗ってもらっていると、お風呂のシャワーと間違えて漏らしてしまう、という話を聞く。習慣というのは便利でもあるし、思わぬ所で牙をむいてくることもある。


 日記をつける、という俺の習慣もどこかで俺に牙をむいてくることがあるんだろうか。俺はそんな他愛もない、ベッドの上でのみ開かれるどうでもいい考え事をよそに、ゆっくりと眠りについた。




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