第5話 秘密ガチャ、始めました。 5
「ただいま~」
「もう、お兄遅い~ご飯~!」
家に帰ったら、既に舞奈が帰宅していた。
「あ~、もう今日も疲れたあああぁぁ~~ぁぁ~~~あぁぁ~~!」
「語尾が長いよ」
舞奈はソファの上で体を伸ばし、う~ん、と伸びをする。
「お兄靴下脱がして」
「なんでだよ」
「なんでって、舞外出て疲れてるんだよ⁉ お兄なんだから靴下の一枚や二枚脱がしてくれても良くない⁉」
「俺も外出て疲れてるんだよ」
舞奈はソファに寝ころびながら、脚だけをぽん、と放り出す。後ろから見れば、ソファから足が生えているように見えることだろう。
「つ~か~れ~た~」
舞奈は足をぷらんぷらんと動かす。
「分かった分かった。本当お前は一人じゃ何も出来ないな」
「出来ないんじゃなくて、しないの。お兄馬鹿だから分かんないと思うけど」
「いちいち余計な言葉をつけるなよ」
俺は舞奈の靴下に手をかけ、引っ張った。
「ちょっと! 靴下伸びるじゃん!」
「これは洗濯物籠に入れておきま~す」
「もう片方も~」
俺は残った片方の靴下を脱がせる。
「メイク落とし~」
「はいはい」
俺はメイク落としを取ってくる。
「肩揉んで~」
「俺は執事か」
舞奈を無視して、キッチンへと向かった。
「美少女に献身するのは日本男児の義務のはずだ~!」
「そんな義務はない」
「日本最古の物語でも同じことになってたし!」
「嘘つけ、なんだそれ」
「竹取物語」
かぐや姫。高校に入って余計な知恵をつけやがった。本当に日本男児が美少女に献身してやがる。
「今は時代が違うんです~」
「肩こった~!」
舞奈は献身を求め続ける。
「腹減ったんじゃなかったのかよ」
両親ともまだ帰って来ていない。毎日毎日、帰って来るのは、二十時だとかそこらなので、夕飯は大抵俺が作っている。ブラック企業の蔓延するこの現代社会に勤める父母に幸あれ。
「お兄今日のご飯は~?」
「納豆と卵とねぎとご飯かな」
「手抜きじゃん! もうちょっとましな料理作ってよ~!」
「お前それ俺の前でも言えんのかよ!」
「今言ったばっかりなんですけど」
相変わらず返答がドライだ。
「じゃ~カレーで良いから~。カレー!」
「お前カレー作るのにどれだけ時間かかるのか知らないのか。カレーは休日だけです」
「じゃあもうなんでもいいから肉食べさせてよ~! 肉~!」
「少年漫画の主人公みたいなセリフ言いやがって」
とはいえ、肉料理なら好都合だ。作るのにさして手間はかからない。俺は生姜焼きを適当に作り、夕飯を用意した。
「舞奈~、夕飯出来たから来なさ~い!」
「今女子高生に人気なティックチューバ―トップ百見てるから無理~」
「ティックチューバ―と私、どっちが大切なのよ!」
「それはお兄ちゃんだけども」
舞奈は渋々とテレビを消し、のそのそとやって来る。どうせ録画してるんだからいいだろう。
「まぁ俺ティックチューバ―より面白いもんな」
「それはない」
手厳しい。
「「いただきま~す」」
俺と舞奈は夕飯を食べ始めた。
「お母さん、遅いね」
「いつものことだろ」
「お父さんも、遅いね」
「いつものことだろ」
夕飯の時間に、俺と舞奈は、一日にあったことを話すようにしている。家族水入らずの、わずかな雑談の時間だ。
「共働きなのにどっちも遅いって、舞たち大変じゃない?」
「案外お父さんとかは帰りに飲み屋でも立ち寄って遅くなってんじゃないか?」
「そんな日曜のアニメじゃないんだから」
「まあ確かに、昔からやってるアニメみたいに、頻繁に飲み屋で飲んで帰って来る夫なんてもう今の時代ほとんどいないよな」
「時代だよね~」
舞奈は肉を頬張りながら言う。
「あの家ってかなり成功者の立ち位置だよな」
「昔はあれでも普通だったらしいよ~」
「今は共働きが普通だもんな」
「そだね」
舞奈は肉だけを食べ続ける。
「こら舞奈! 野菜も食べなさい!」
「肉が美味しいんだもん」
「野菜を食べないと頭が悪くなるぞ。科学的にも、野菜を食べた方が良いです!」
「そんな科学科学言ってたってでしょ」
「今朝、科学科学言ってたのはお前だろ」
「ケサはケサ、坊主は坊主」
「なんで坊主憎けりゃ袈裟まで憎いなんだよ。その袈裟じゃねぇよ」
俺は舞奈の皿にレタスとキャベツを乗せる。
「も~」
「月刊?」
「月刊モー関係ないから」
舞奈は不承不承、という形で野菜を食べ始めた。
「それに野菜を食べないと肌が荒れるぞ」
「それは切実に嫌かも」
舞奈は野菜を取り始めた。
「はぁ~あ、お前は美容に関してだけは意識が高いよな」
「舞学校で人気者だから、美容にも気を使ってるのさ!」
ふふん、どう? と舞奈は胸を張る。
「お前は本当、外面だけは良いよな」
「人間、家の中と外じゃ性格の一つや二つも変わりますよ~」
「その外面の良さを家の中でも実践してくれよ」
「じゃあ……」
舞奈は上唇を舐め、挑発的に俺を見た。
「試してみる?」
上目遣いで、俺を見てくる。