エピローグ 【特賞 SSR】平和な日常
後日、俺と班目の二人は黒沼先生に呼ばれ、職員室へと呼ばれていた
「十上くん、班目くん、こっちこっち」
新妻さんの一件を受け、俺たちは職員室の中へと入って行った。
「全く、とんでもないことをしてくれたね」
職員室の隣の部屋に俺たちは呼ばれ、生徒指導の西村先生と対面していた。
「まぁ善行は他人に言うようなことでもないですからね。座れよ、班目」
俺は革製のソファーにどか、と座った。
「やだよ、僕まで仲間だと思われるじゃん」
「立派な共犯者だよ、お前は」
西村先生は、はぁ、とため息を吐く。
「まず黒沼先生、こういうのはプライベートで勝手にやってもらっては困ります。これは学校の問題ですので、先生だけの問題ではありません」
「誠に申し訳ございません」
黒沼先生は頭を深く下げ、謝罪する。
「今回あったことは黒沼先生に聞きました。確かにやったことは立派です。新妻さんが虐待されていたということは聞きました。でもね、こういうのは適切な場所で適切な機関を通してやるものでだね」
「適切な機関を通せば適切な処置がされましたか? 新妻さんが高校を卒業するまで先延ばしにして、なあなあにして、卒業した後は新妻さん自身の問題だ、と切り捨ててなかったことにするのがあなたたちのやり方ではありませんか?」
「しかし子供が手を出して、より問題になった場合はだね」
「新妻さん自身は虐待されているという認識がなかった。そしてそれは両親も同じだった。もし何らかの機関が入っていたとしても、高校卒業までにポジティブな結果が出ていたとは俺は思いません。被害者自身が被害者意識を持ってないと虐待そのものとして認められなかったと、俺は考えます」
「しかしだね、勝手に行動されると学校側にも迷惑がかかるからだね」
「学校の迷惑よりも、俺は新妻さんの命を尊重しました。新妻さんの命が途絶えるようなことになったら、学校の責任になるのではないですか? 今回のことに関しては、俺は褒められることはあっても責められるようなことはしてなかったと思います」
西村先生はたじたじになる。正義はこちらにあり、だ!
「だから、その行動が学校に迷惑がかかるからだね」
「じゃあ新妻さんが死んだ方が良かったですか? 新妻さんが死んだ方が学校に迷惑が掛かりませんでしたか? 新妻さんが死ねば諸手を上げて万歳三唱でもしましたか? それなら俺と考え方が違いますね。残念です」
「そういう話ではなくてだね」
「そもそも新妻さんがいじめられてるのも、俺しか気づいてなかったですよね? 新妻さんは自殺をしようか悩んだ、って言ってましたよ。俺が何もしなかったら新妻さんは自殺してたかもしれないんですよ? いじめの件も虐待の件も、学校側はなにも感知しなかった。何もしなかった。自分たちが適切な行動をとってから初めて、他人を断罪する権利があるんじゃないですか?」
「そんなものは結果論に過ぎない」
「はぁ……」
俺はため息を吐いた。
「分かりました、分かりましたよ。じゃあSNSで高校名を出してこんなことがありました、って言いますよ。世間の皆さんに俺がどうすればよかったか聞いてみましょう。間違った行動を取った俺に、世間の皆さんからお叱りを受けようと思います」
「分かった、分かったから、もうこれ以上面倒なことをしようとしないでくれ」
「それに西村先生、ご自身は生徒とは何もなかったとおっしゃいますか?」
「何を……」
「新井ゆ――」
「ああああああああああああああああああああ!」
西村先生は大声で叫びだした。
「と、と、とにかく! 黒沼先生、今回の件について、生徒たちに目を光らせておくように! いいですね!」
「はい、大変申し訳ございませんでした」
黒沼先生が深々と頭を下げる。
そうして俺たちは西村先生の説教を乗り切った。
「ふ、俺にたてつくからこうなる」
「一体、十上君のその情報はどこから仕入れてるの」
「秘密だ」
俺たち三人は、職員室から解放された。
「全く、十上くん、班目くん、今回は上手くいったから良かったけど、もしかしたら最悪のケースもあり得たんだよ?」
黒沼先生が俺たちに向かって説教を始めた。
「え、僕も怒られるんですか……?」
班目は困惑した顔をする。
「特に十上くん、勝手な行動はしないように、って言ったよね? 勝手に十上くんが新妻さんの家に乗り込んでから先生ひやひやしてました」
「考えるよりも先に……体が動いてました」
「ヒーローみたいなことを言わない。今回のことは私が取り敢えず預かるから、君たちは今後何か危ないことをするようなことがあれば、必ず私に言うように」
「自分も危ないことしてるくせに」
俺はぼそ、と言った。
「何か言った? 十上くん!」
「黒沼先生本当にありがとうございます! 大ちゅき!」
「はぁ……」
俺はキラキラとして目で黒沼先生に大ちゅきビームを放った。
先生はやれやれ、と首を振った。
「じゃあこれからも新妻さんのことを守ってあげてください」
「はい!」
俺たちはこうして新妻さん事件の責任の一端を黒沼先生になすりつけて、事なきを得た。
後日、数日の休みのあと、新妻さんが学校に復帰した。新妻さんも例によって職員室に呼び出され、事の顛末を聞かれたらしい。
新妻さんはふらついた足取りで教室に帰って来た。
「新妻さん」
「……十上くん」
こうして、俺たちにもいつもの日常が戻って来た。
だが、以前とは少し違うところがあった。
「十上くん、おはよう」
「ああ、おはよう」
新妻さんが、よく話してくれるようになった。
「最近何か困ったことはない?」
「ううん、ないよ。ありがとう、十上くん」
「両親とはあれから大丈夫?」
「うん、十上くんが来てくれた時から、私にちょっと気を遣ってくれてるみたい。でも何も言わなかった私も悪かったから……」
新妻さんは目を伏せる。
「全部十上くんのおかげだよ、ありがとう」
優しい目で、新妻さんは俺を見た。
「そうか、それは良かった」
俺は目を細め、新妻さんを見た。
「十上くん、ありがとう」
新妻さんは幸せそうな顔で、笑っていた。
× × ×
「来たな」
俺は久しぶりに、駄菓子屋ヤマモトの前に立っていた。
「久しぶりだな、ヤマモト」
いつも通りミンミンゼミはうるさいし、暑い。だが現実の時間経過とともに、少しずつここも秋に近づいて行っていることが分かる。田舎は冬に雪が積もり、白い幻想的な世界になる、と聞いたことがある。
冬になるのが楽しみだ。
俺は秘密ガチャの前に立った。
「…………」
何がなんだか分からないまま使っていたが、結局のところ、この秘密ガチャというのは未来が知れるような代物ではなかったのではないだろうか。
何が何だか分からないままこの秘密ガチャを使っていたが、要するにこの秘密ガチャは、俺の知識そのものではないかと、考察が出来る。東京の天才大学生が脳内で問題を解くように、俺も脳内で現実に起こった問題の考察をしているのではないか。
ミオナ・フリューゲル、黒沼先生、委員長、司、そして新妻さん。そのどれもが俺の知っていた事実から導き出すことが出来るものだった。
俺は眠っている間に、見た、知ったことから何らかの結論を出し、それを秘密ガチャという形で理解する。寝ることで俺の知っている真実から新しい真実を導き出していたんじゃないだろうか。
寝るという行為は、脳内で記憶を整理する作業だ、と聞いたことがある。毎日寝る前に日記を書いているが故に、日記で出て来た情報を整理して推測して、それが今こうして形になって出てきているだけなのではないだろうか。
平たく言えば、俺は眠りの名探偵だったのだ。
故に、この秘密ガチャも間違っていたことがあったのだろう。班目のエロ本の件については、恐らく秘密基地にはなかった。そして新妻さんが暴力を受けている、という秘密も違っていた。
もしかすると、新妻さんは何もしなくても自殺はしなかったし、両親を殺さなかったのかもしれない。新妻さんが危機的な状況にある、ということを俺に知らせたいがために俺の本能がセンセーショナルな言葉を使って知らせようとしていたのかもしれない。
俺自身が新妻さんを救うような行動を取るように、俺の中の本能がそう語りかけてきたのかもしれない。秘密ガチャは、もう一人の俺なのだ。考えようとしない愚鈍な俺にカツを入れようとしている、理知的な俺の本能なのではないか。
俺は秘密ガチャに硬貨を入れ、回した。
がちゃぽん。
黒いカプセルが出てくる。
【レア度】
R:★★☆☆☆
【秘密】
十上舞奈は、三十万人以上のフォロワーを持つ有名ティックチューバ―である。
【一言】
よく部屋でライブ配信してるよ!
「ははは……」
苦笑する。
どうやら俺の日常は、まだまだ苦難が続きそうだ。




