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第43話 【特賞 SSR】新妻優子の罪禍 2



「はい、じゃあ今日のホームルームを終わります」

「起立、気を付け、礼」

「「「ありがとうございました~~」」」


 そして今日の学校が終わる。

 新妻さんはカバンに荷物を詰め、どこかそわそわとしていた。


「じゃあ新妻さん、俺ちょっと職員室残るわ。気を付けてね」

「う、うん」


 新妻さんに一声かけると、新妻さんはそのまま帰って行った。今日も俺と一緒に帰るかどうかを思案していたんだろう。

 俺が声をかけなければ、ずっとあのままだったかもしれない。


「よし」


 俺は顔を叩き、職員室へと向かった。


「すみませ~ん」

「こら~、ノック~」


 職員室の扉を開けた俺に黒沼先生から叱責が飛んでくる。

 俺は中から職員室の扉を三回ノックした。


「雪だるま、作ろ~。ドアを開けて~」

「作りません。開いてます」


 黒沼先生は俺の下までやって来た。


 ちなみにだが、扉のノックはトイレの合図の時は二回で、それ以外は三回という噂を聞いたことがある。逆説的に、職員室に入る前に二回ノックして入ると、ここは便所のような空間だ、と皮肉ることも可能になるのだろうか。


「先生、二回ノックで入ってきたら職員室を便所扱いしてることになって不敬ですか?」

「職員室の中からノックする方がよっぽど不敬です」


 おっしゃる通り。


「で、何ですか、十上くん」

「実は黒沼先生にどうしても伝えたいことがあって……」

「ぇ」

「お、俺、どうしても先生に伝えたいことがあるんです……!」


 職員室の目が一斉に俺に注がれる。


「分かった、分かりました、分かりましたから外で話しましょう」


 黒沼先生は俺の背中を押し、外まで連れて行った。学校の敷地外まで先生に連れ出される。


「で、十上くん、言いたい話というのは……」


 先生はもじもじとしている。


「せ、先生。先生、俺、先生のことが……」

「ちょっと待って」


 おほん、と黒沼先生は咳払いをする。 


「十上くん、確かにあなたにとって私は憧れのコスプレイヤーかもしれません。でも今の関係上、私たちは生徒と教師。不埒な関係性は許されません」

「……」


 先生は言葉を続ける。


「確かにあなたが私に告白したい気持ちは分かります。でも、もし告白したいのだとすると、卒業するまで待ってください。卒業してからなら、いくらでも告白を受け付けます。勿論、その時になってからなら私はまぁやぶさかでもないというか、考えなくもないというか」


 先生はごにょごにょと何か言い訳めいたことを言っている。


「何の話ですか?」

「え? 十上くんが私に告白しようと」

「え?」

「え?」


 そんな話はしていない。


「別にそんなつもりじゃなかったですけど」

「い、いや、さっきの態度はどう見ても……」


 またごにょごにょと言っている。


「先生、僕がまだ何も言ってないのに勝手に話を臆断するのは良くないですよ。前も言いましたけど、生徒の話をちゃんと最後まで聞いてから会話しましょうよ」

「うぅ……恥ずかしい」


 先生は両手で顔を隠す。


「でも俺は先生がそうやってる姿も可愛いから好きですよ」

「告白じゃん!」

「違いますよ」


 先生は赤い顔で俺に言って来る。


「じゃ、じゃあ一体何の用事ですか?」


 先生は眼鏡をくい、と上げ、頬を膨らませた。


「これは先生にしか頼めないんですけど」


 俺は新妻さんの現状とその予想を、先生に話した。


「出来れば先生が直接新妻さんの家に来てもらいたいんですけど」

「それは……」


 先生は戸惑った顔できょろきょろと辺りを見回した。


「それは、本当なんですか?」

「はい、確かな情報です。このまま放っていたら新妻さんは最悪事件に巻き込まれるかもしれません。いや、むしろ事件を起こすかもしれません。父親の暴力が新妻さんの精神に影響を与えているのは間違いないと思います」

「じゃあ児童相談所とかに」

「新妻さん自身がそれを自覚していないので、難しいと思います」


 無理矢理にでも、俺たちが引きはがさなければいけない。


「でも確証が……」

「それと」


 俺は新妻さんがいじめられていたことも伝えた。


「そんなことが……」

「先生には言ってませんでしたが、新妻さんは非常に危険な状況にあると思います。もしよかったら、俺と一緒に新妻さんの家に来て欲しいんですが」

「ん~~~~~~……」


 先生は腕を組んで悩んでいる。


「先生、俺たちのために力を貸してほしいんです。新妻さんを見殺しになんてしたくないんです。新妻さんは奥手で、自分から何かを言えない性格なんです。誰かがやらないといけないんです」

「ん~」

「先生、それに僕たちは秘密を共有している仲なのですから、協力して欲しいです」

「ん~……」


 半ば脅すような形になってしまい申し訳ないが、新妻さんの命には代えられない。


「確かに十上くんの観察眼には目を見張るものがありますけれど」

「子供たちの命を守るためにも、学校内での事件をなくすためにも、協力してください。お願いします」


 俺は頭を下げた。


「分かりました。十上くんと一緒に新妻さんのお家にお伺いにいきましょう。私も事件が発生するようなことは望んでいません」


 先生はきっ、と言い張った。


「しかし十上くん、少し事情を聞くだけです。それで問題があればまた対処します」

「分かりました」

「はぁ……全く、君の問題行動に私はいつも悩まされてばかりだよ」

「高い評価をいただき、恐悦至極に存じます」

「褒めてません」


 こうして俺は先生を味方につけた。




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