第42話 【特賞 SSR】新妻優子の罪禍 1
後日、俺は学校の中でそわそわとしていた。昼休憩に昼食を食べる新妻さんを前にして、俺は落ち着かない。
「十上……くん?」
弁当箱の蓋を開けた新妻さんは蓋越しに、俺の顔をのぞきこんだ。
「はい」
「大丈夫……?」
相も変わらず新妻さんの弁当の中身は、白さが際立つ立地になっていた。
「相変わらずおかずが少ないね、新妻さんは。俺のあげる」
「大丈夫、大丈夫だから」
「まぁまぁ、俺を助けると思って」
新妻さんの弁当の上にほいほいとおかずを置いていく。
思えば、新妻さんの弁当におかずが入っていないのも、家庭内で暴力を受けている証左の一つなのかもしれない。育児放棄なのだろう。
「毎回迷惑かけて、申し訳ないよ……」
「大丈夫大丈夫。男は美少女に供物をささげなければいけない、っていうのは日本最古の物語から伝えられてるから」
「そんなのないよ……?」
「竹取物語」
「あ~……」
新妻さんは空を見、ぽかん、と口を開ける。
舞奈からの受け売りである。
「で、でも私美少女なんかじゃないよ」
新妻さんは俺におかずを戻してくる。
「しつこい! 黙れ!」
俺はおかずを新妻さんのご飯の上に戻した。
「お~、また悟が新妻さん泣かせようとしてる~」
「新妻さんかわいそ~」
男子共がにたにたと俺を揶揄してくる。
「そこ! ガヤガヤするな!」
俺は男たちを指さす。
「全く」
俺は視線を新妻さんに戻す。
「そういえば新妻さんって、家で何してたりする?」
「家で……」
俺は新妻さんから家の情報を探る。
「勉強……」
家の話をされた途端に、新妻さんはたどたどしく喋るようになった。
奈良と話している時もそうだが、新妻さんは聞かれたくない話になると、途端にたどたどしくなる。かなり心苦しくはあるのだが、それでも掘り進めていかなければいけない。
「勉強以外何かしてることある? 好きな映画とかバラエティ番組があるとか」
「家でテレビ見ないから……」
テレビすら見せてもらえない環境ということか。ゲームをしながら、班目もこちらを見ている。
「じゃあ休日とか何かしてたりする?」
「図書館で勉強……」
「総明図書館のでしょ? 他には何かしてることある?」
「…………」
新妻さんは黙り込んでしまった。
「さ~と~る」
「うぇ」
後頭部に刺激が走る。後ろを見れば、天子がそこにいた。
「こ~ら、何やってんの悟。新妻さんに迷惑かけて。ごめんね、新妻さん」
「え、あ、はい」
新妻さんは怯えた目で天子を見る。
「私のこと覚えてる?」
「あの、三笠……さん」
「そそ、よろしく!」
天子は手を差し出す。新妻さんは天子の手を握った。
「全く、悟は本当ロクなことしないんだから」
「いいだろ、なんでも。何?」
「数学の教科書忘れたから貸して」
「落書きしてるけどおけ?」
「何の落書き?」
「ABC予想の証明をちょっと」
「人類が守るべき大天才じゃん」
俺は机から数学の教科書を天子に渡した。
「早めに返してくれよ」
「今度家行った時返す~」
そう言ってがははは、と笑い天子は帰って行った。
「あの、邪魔……だった?」
「ん?」
新妻さんがおずおずと聞いてくる。
「いやいや、全然」
新妻さんはこくり、と頷いた。新妻さんが困った表情をしたこともあり、俺はそれ以上新妻さんに言及することはなかった。




