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第41話 【3等 R】爆乳人妻の秘密



 後日、俺は新妻さんに黙って、何度もヤシノキ団地を訪れ、実地調査を行っていた。


 ススキの野原を先に進むと、そこには人が生活しているかのような空間があった。お菓子のゴミや使い古されたタオル、何が入っているか分からない収納ボックスなど、生活感がにじみ出ている。


 エロ本がどこにあるのかは分からなかったが、狭くて見つかり辛い、中々面白い空間だ。

 今日も例によって学校帰りにヤシノキ団地のエロ本エリアで座り込む。


「ふん、ふふふん、ふ~ん」


 人の声が聞こえる。俺はエロ本エリアで息を殺して身を潜めた。


「今~だい~ざゆけ、どきゅん、ずきゅ~ん……うわあああぁぁぁぁぁっ!」


 歌を口ずさみながら歩いていた男は俺に気が付くと、大声を上げて腰を抜かした。


「ん……?」

「え」


 見覚えがある顔だ。


「班目?」

「十上君?」


 ゲーム大好き高校生、班目隠が、そこにいた。


「なんで十上君がこんな所に?」

「それはこっちのセリフだよ」

「いや、どう考えても僕のセリフだと思う」


 班目は俺の隣に座った。


「なんで十上君がこんな所に? もしかしてここ住んでる?」

「いや、全然」

「じゃあなんで」

「ここに新妻さんが住んでるから」

「ヴぇ」


 班目は嫌そうな顔をする。


「もしかして、ストーカー?」


 班目は小声で俺に聞いた。


「馬鹿を言え! 俺と彼女の関係はそんな誰かに作られたような軽薄な言葉で表せる関係じゃない! 俺と彼女はもっとこう、胸の奥底で他人が感知できないような精神的なもので繋がってるんだ!」

「聞けば聞くほどストーカーっぽさがする」


 班目はゲーム機の電源をつけながら、俺の話を聞く。


「実を言うと、新妻さんが親から暴行を受けていると通報があってだな」

「誰から?」

「信頼できる人間から」

「それで新妻さんがここに住んでるからその調査に来たってこと?」

「イエス」

「そうなんだ」


 班目は興味なさげにゲーム機をいじる。


「おい、新妻さんが親に暴力を振るわれてるんだぞ! 何か言うことはないのか!」

「だって僕関係ないし……」

「この薄情者! 見損なったぞ孔明!」


 俺は班目の胸ぐらを掴む。


「孔明じゃない! 孔明じゃないでござる!」


 班目は俺の手を払いのけた。


「そもそも、新妻さんを助けたいなら直接家行けばいいじゃん。部屋番号どこか知らないの?」

「知ってはいる」

「じゃあすぐに乗り込んで、新妻さんをいじめるのは止めろ! って言えばいいじゃん」

「この馬鹿ちんが!」

「ギブギブギブギブ!」


 胸ぐらを掴んだ俺の手を、班目は再び払いのける。


「親子関係に介入するのはそれこそ、難しいんだよ。俺が一人でのこのこと部屋に入って、ああそうですか、と親が納得すると思うか? テレビや漫画でそんな状況を何度も見て来た。親を拘束するには、それなりの証拠と現状をつきつけないといけないんだよ。もし俺が一人で行って失敗でもしようものなら、新妻さんの家庭環境は今よりももっと悪くなる」


 そして何より、新妻さんがそれを受け入れない。新妻さんは誰かが自分の家庭環境に割って入るのをよしとしないだろう。新妻さん自身がそのことを強く意識しなければ、事態は改善しないだろう。


 だからこそ無理矢理にでも、誰かが介入する必要がある。

 いじめを受けていた時ですら誰の手も借りようとしなかった。誰かに迷惑をかけるくらいなら自分が我慢すればそれでいいと、本気でそう考えるだろう。


「だから新妻さんの周りから攻めて行ってる、と」

「その通り」

「大変だね~」


 班目は胸ポケットから飴を取り出し、こともなげに言う。


「ということで班目、お前にも新妻さん救出計画を手伝ってもらいたい」

「え~やだよ~、面倒くさいし」

「新妻さんが人を殺すような事態になったらどう責任を取るつもりだ、お前は!」

「絶対責任取ることにはならないと思う」


 班目は一瞥もせずに言う。


「これがゲームにハマる若者の現実離れ問題の終着点か。同級生の女の子が人を殺すというセンセーショナルな事件にすら興味を持たず、架空の世界で生きたがる。こんな由々しき社会問題を直視するとは思わなかった」

「いや、だって新妻さんが人を殺すなんて夢物語じゃん。新妻さんが人を殺すっていう前提で動いてる十上君の方が僕よりよっぽど変だし、正直親に暴行を受けてることを無関係の人が知ってることの方が現実味なくない?」


 正論である。


 秘密ガチャの秘密を共有していないとこんなことになるのか。俺だけが知っている秘密。いっそのこと言ってしまおうか。いや、言ったところでより俺の信憑性が薄くなるだけだ。夢で見たから、だなんてことを言えば大笑いされるに決まってる。


「とにかく、これは確かな筋から聞いた確かな情報だ。お前には絶対に協力してもらう」

「嫌だなぁ……」

「その代わりに、俺はお前の秘密を守ろう」

「秘密……?」


 班目は胡乱な目で俺を見る。


「爆乳人妻……」

「…………!」


 班目はぽろ、と飴を落とす。


「ど、どこでそれを⁉」

「ほうほう、お前は爆乳人妻系が好きなのか」

「あわわわわわ」


 班目は途端に慌てふためく。


「だから確かな筋からの情報だと言っただろう。俺をなめてかかるからこうなる。俺をなめた人間は皆同じような結末になった」

「なんで、分かった⁉」

「シーザーサラダキネンビ」

「……っ!」


 今思えば、あのとんでもない巨乳の姉ちゃんはこいつの趣味だったのか。人妻属性があるのは知らなかったが。


「協力しよう、十上君。僕も新妻さんが親に暴力を受けてるなんて状況、見逃すことは出来ない」

「お前はきっと、正義感のあふれる男だと思ってたよ」


 俺は班目と固い握手を交わした。


「ところでお前は、なんでこんな所に来てるんだ」

「お母さんが勉強勉強うるさいから、ここでゲームしてる。クラス替え初日の自己紹介でも言ったと思うけど」


 知らない同級生の最初の自己紹介など、覚えてるわけがないだろう。


「ヤシノキ団地のススキ野原の先に僕の秘密基地がある、とか調子乗って言っちゃったから勘付かれたのか……」

「発言は慎重にした方が良いな」


 全然違うが、そういうことにしておこう。


「まぁここには班目のお好みの雑誌も置いてあることだしな」

「お好みの雑誌……? ここには特に何も置いてないけど」

「はいはい」


 さすがに女の趣味に口を出すのも野暮ってもんだ。

 知られたくないことの一つや二つあるだろう。班目がここで爆乳人妻系のエロ本を読み漁っていることは言わないでおこう。


「変なこと言うなぁ」

「分かった分かった。俺が悪かったよ」


 俺は両手を上げ、謝罪した。


「で、新妻さんの救出作戦って、具体的には何をするの?」

「具体的に、俺とお前で二つの方向から情報を持って来ようと思う。班目はこの団地で新妻さんに関する情報を集めて欲しい。俺は学校で新妻さんの力になってくれそうな人を探す」

「分かった。まぁ、それくらいなら……」


 班目は不承不承ながら、頷く。


「新妻さんに大きな変化があったら教えてくれ」

「分かった。僕もこの団地で他人のことを全く見てこなかったからね。これも良い機会だよ」


 俺と班目の協力関係が、出来上がった。


「でもここらで新妻さんの悲鳴を聞いたとか暴行があったとか、そんな話聞いたことないんだよね」


 新妻さんは悲鳴も我慢しているということなのだろう。


「隠すのが功名なんだろうな」


 俺と班目は別方向から、新妻さん救出を行う。




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