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第4話 秘密ガチャ、始めました。 4



 放課後、授業を終えた俺たちは、教室の掃除をしていた。


「ちょっと男子~、ちゃんと掃除してよね~」


 ほうきを持って喋りこんでいる男子たちにそんなテンプレな声をかけたのは、我がクラスの委員長、こと秋柴紗友里あきしばさゆりだ。

 ショートボブで眼鏡の彼女は正真正銘の生真面目少女。薄い胸板で男子たち、と怒る彼女の姿は、いかにも委員長然としている。アニメスタジオで描かれたヒロインみたいだな、と俺は勝手に思っている。


 服装も一切崩さず、メイクも全くしていない。スカートも既定の長さを守っている。徹底してルールを守る彼女にかかれば、働かない働きアリも指導の対象となるだろう。


「男子~、机運んでよ~」


 委員長は再び、口をとがらせて言う。


「お~、こわ」

「本当秋柴って委員長の権化だよな!」

「なぁ、司!」


 司に水が向けられる。


「まぁまぁ、いいじゃないの」


 司はどうどう、と男衆をなだめる。司なら委員長にどうでも良い話を振り始めるのかと思ったが、意外な反応だな、と俺は机を運びながら見る。


「九堂くんも……早く運んでよね」

「はーい、運びまーす」


 九堂はそう返事をし、机を運び始めた。


「…………」


 委員長と司たちが余計なやり取りをしている間に、新妻さんは机を運んでいた。

 ただ、運び方が雑だ。机の横棒をガンガンと脛に当てながら、運んでいる。痛いだろうに。


「ちょっと優子ちゃん、優子ちゃんは運ばなくても良いよ~」


 ガンガンと脛に机の打撃を食らっている新妻さんを見兼ねてか、委員長が心配して声をかけた。


「…………」


 突然話しかけられた新妻さんはおろおろとして、視線を逸らす。


「でも、机の中身こぼれちゃうから……」

「そんなの気にしなくて良いよ~。男共に運ばせとけば良いんだから~」


 机を持ち上げて運んでいたのは、中身がこぼれることを気にしての行動か。確かに、持ち上げて運べば机の横棒が脛に当たり、痛い。

 毎日運ぶ物なのにも関わらず、この机は全く運ぶ人間のことを考えられていない。国に、横棒のない机の導入を提案するべきだと本気で思ったことがある。毎日何万の生徒がこの机の横棒の被害者になっていることか。

 構造上ここがないと耐久性が低くなる、ということも考えられるが。


「ほら、優子ちゃんの脚あざだらけだよ~」


 委員長は新妻さんの脚を見る。新妻さんの脚は青あざだらけで少し紫がかり、正直、見ていて痛そうだった。新妻さんは咄嗟に脚を引いた。


「女の子なんだから、体に傷つけちゃ駄目だよ~」

「う、うん。気を付けるね」


 新妻さんは机をゆっくりと運び始めた。


「委員長~、俺は女子が机を運ばないのはおかしいと思います~」


 男衆が抗議を始める。


「そうだそうだ! 男女差別だ! こんな時代におかしいぞ!」

「委員長も新妻さんを見習って机を運べ!」

「まぁまぁ」


 司が委員長と男たちの間に入ってなだめる。仲裁役になる司も珍しいものだ。


「うるさいのよ、あんたたち! 机運ぶ係はあんたたちでしょ! 自分の責任は自分で果たしなさい!」


 委員長の激昂を受けた男たちは、ギャー、と悲鳴を上げながら逃げて行った。


「全く……」


 委員長はどうもお冠らしい。俺は静かに机を運ぶだけだ。


「ちょっとそこ! 机引きずらないで!」


 ルールの鬼、委員長が俺に水を向けてきた。


「まあまあ、ちょっと教室が傷だらけになるだけだから」

「大問題じゃない!」

「大丈夫大丈夫、どうせ俺たちの金で作られた教室だから」

「それが机と教室を雑に扱って良い言い訳にはなりません!」

「はい、すみませんでした」


 俺は早々に降伏宣言をして机を持ち上げ始めた。


「ルール違反はこの私が許しません!」


 委員長は高らかに、そう宣言した。髪をいじり、化粧をして学校に来ている俺の妹を見たら卒倒しそうだな。俺は今日も新妻さんの不思議な生態を見ながら、一日を終えた。





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