第36話 【特賞 SSR】新妻優子の秘密 3
ミーンミンミンミンミンミンミンミーン。
「ふ~」
新妻さんのいじめ問題がようやく解決し、俺はベンチにどか、と座り込んだ。駄菓子屋ヤマモト、俺の人生を彩る、古びた菓子店。
「やっと……終わった……」
新妻さんは、きっともう自殺なんてしない。直面した大きな問題を解決し、俺の心も晴れやかになる。
「……」
ちら、と秘密ガチャに目をやる。今まで品切れだった秘密ガチャも、ようやく復活していた。今日からはまた、楽しく秘密ガチャを回すことが出来る。手に入れた秘密に対して、全くアクションを起こさないと品切れになるんだろうか。
ともあれ、新妻さんに振りかかっていた災難も解決した。学校生活も順調。おそらく、もう奈良は新妻さんの下には来ないだろう。牧瀬はもう新妻さんにひどいことはしないだろう。
あとは勝手に、奈良と牧瀬でよろしくやってればいい。
俺はこの駄菓子屋に来てから初めてとなる、アイスボックスへとやって来た。
「いやぁ、気分爽快。愉快痛快、婦人会! そりゃあ金も散財出来るわ!」
がはは、と笑いながらアイスを二本取り、駄菓子屋へ入った。
「すんませ~ん、おばちゃ~ん」
「はいはいはい」
奥からお婆ちゃんがやって来る。
「はい、百円ね」
「確かに」
俺は百円を渡した。
「まいど~」
「ん~」
二個で百円という激安アイスを手にして、俺はヤマモトを出た。まぁ、二十年以上も前の物価だとこんなものなのかもしれない。消費税と物価は上がるのに給料は上がらない、と嘆いている両親に見せてやりたいものだ。
俺はソーダ味の棒アイスを思い切りかぶりつく。
「あああぁぁぁぁぁぁ~~~~~」
頭が痛む。
「美味ええぇぇぇぇぇぇ~」
駄菓子屋にあるものは、もう何でも美味しいな。文化遺産にするべきだ。
「ソーダ味か……」
ソーダ味のアイス、と見ると、ソーダとサイダーの違いを思い出す。ソーダが味のない炭酸水で、サイダーが甘い炭酸水らしい。じゃあこのアイスはソーダ味じゃなく、サイダー味なんじゃないか、と思う。
ピザとピッツァの違いは釜で焼いたか焼いてないか、だとか、ウインナーとソーセージは太さが違うだとか、いい加減にして欲しい。食べ物に対して名前が多すぎる。
一本目のアイスを食べ切った俺は次のアイスを開け、秘密ガチャへと向かった。
「サンキューなぁ、秘密ガチャ」
秘密ガチャをぽんぽん、と叩く。
こいつのおかげで、俺は新妻さんの窮地に気付くことが出来た。最初は奇妙な体験をした、と気持ち悪がってはいたが、今では愛する気持ちすら湧き上がってくる。
「もしかしたらお前は、俺の救世主だったのかもな」
新妻さんを救ったのは、まぎれもなくお前だ。
俺は秘密ガチャに愛情を覚えながらも、硬貨を入れ、秘密ガチャを回した。
ガチャポン、と黒いカプセルが落ちてくる。
「なになに」
カプセルを開け、中の紙に目を通す。
【内容】
ハズレ
【一言】
ガチャガチャに友愛感じてる奴(苦笑)
「クソがよ!」
秘密ガチャに煽られる。
こんなガチャガチャを愛している、と言った俺が馬鹿だった。何故ガチャガチャを回しただけで揶揄されなければいけないのか。
とはいえ、新妻さんの問題が解決した今、俺はこんなことでは怒りはしない。すっきりとした気持ちでガチャを回すことが出来る。
「よし、次!」
俺は再びガチャに手をかけた。
ガチャポン。
金色のカプセルが、落ちてくる。
「金色……」
最高レアのカプセル。以前の新妻さんの件があったからか、無意識に身構えてしまう。
「激レア、キター……」
猜疑心と期待とがない交ぜになったようなテンションで、俺はカプセルを手に取った。
「どうか……どうかポジティブな秘密来い……!」
俺は手に力を籠め、カプセルをあけた。
【レア度】
SSR:★★★★★
【秘密】
新妻優子は、人を殺す。
【一言】
自殺はしないけど、人は殺しそうだよ!
「……」
新妻優子は、人を殺す。つまりは、人を殺そうと計画している、ということ。
「なんでだよ……」
新妻さんの問題は、終わってなどいなかった。新妻さんを救えたつもりに、なっていただけだった。
新妻さんの問題は、まだ解決していない。




