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第34話 【特賞 SSR】新妻優子の秘密 1



「…………」


 司たちと解散した後、俺は空き教室の椅子に座り、一人考え込んでいた。


「明日だ」


 昼休みがそろそろ終わる。


「明日、新妻さんの運命を変える」


 新妻さんが自殺するような、そんな運命は俺が変えてやる。俺が壊してやる。

そんな未来は最初からなかったんだ、と。


 新妻さんがいつ自殺をするのかは分からない。もしかすると、明日の朝にはもういなくなっているかもしれない。行動するのは、少しでも早い方が良い。明日の朝も、新妻さんよりも早くに行く。少しでも、新妻さんに助けの手を伸ばせるように。少しでも、新妻さんの力になれるように。


 助けを求めている人がいるのなら、その手を握って、捕まえて、寄り添って、一緒に歩んで、そうやって人生を共有するべきだろう。

 苦しんでいる人を放っておいて自分だけが楽な思いをしよう、だなんてのは間違っている。俺は椅子を引き、立ち上がった。


「ふ~」


 深呼吸をする。


「やってやる」


 新妻さんが自殺する。そんな未来は、変えてやる。



 × × ×



 翌日、俺は天子と舞奈を連れて、いつもより三十分早い電車に乗り込んだ。


「天子」

「うん」


 目配せをする。新妻さんを救出する計画に、天子も巻き込んでいる。朝井君から話を聞いたあと、俺は天子にも俺の計画を伝えていた。


「今日の昼、任せたぞ」

「任せといてよ」


 天子は力こぶを作る。


「全く……悟は本当、いつも皆に迷惑かけるんだから」

「悪い悪い」

「でも、今回の悟は、格好良いよ」

「やってやる」


 もしこれで俺が何らかの不利益を被ることになったとしても、やってやる。俺の正義は、俺が貫くんだ。

 学校に来た俺は天子と別れ、教室に来た。


「…………」


 教室にはまた、いの一番に新妻さんが来ていた。


「新妻さん」

「あ、十上くん……」


 新妻さんは、今日は教室を出なかった。昨日、新妻さんが泣いて教室を出てから、新妻さんは俺の話を聞いてくれなくなった。


「新妻さん、何か困ったこととか、ない?」

「……ううん、ないよ」

「じゃあ、昨日の」

「…………」 


 新妻さんは沈鬱な顔で下を向く。聞いてくれるなと、言わんばかりの表情で。


「新妻さん……俺、新妻さんの力になりたいんだよ」

「う、うん。ありがとう、でも……」


 新妻さんはやはり、答えてくれない。


「新妻さんが何を思ってても、俺は好きにやらせてもらうからね」

「う、うん……」


 新妻さんは俺とは目を合わせずに、着席した。

 ふと、司が引いたイヌ娘のキャラクターを思い出した。新妻さんに似ていると思った、あのキャラクター。確か、アルカマナーといったか。他人を傷つけることを怖がって、一人で閉じこもっているという。


 新妻さんが他人に自分の事情を話したがらないのも、他人を傷つけたくないからなのではないか。俺に事情を言えば、俺にも牧瀬の手が及んでしまうと考えているからなのではないだろうか。新妻さんは、いつも自分を最後にする。自分の優先順位を、最後にする。他人を気遣って、思いやって。

 そして、そんな新妻さんの強さが、弱音を吐かないその強さが、新妻さんを苦しめている。自殺を思いつめるほどの苦悩を、自らの手で課している。

 俺も席に着席し、新妻さんの動向をうかがった。



 授業の終了を告げる鐘が鳴る。


「えぇ~、ですからこの化学反応で水が出来て」


 またしても、化学の先生が教室に居座っている。早く帰ってくれ。昼休みになったんだ。というか化学反応で水が出来るのはもういいよ。


「はい、今日はここまで」


 先生が合図をし、俺たちは礼をした。長い長い昼休みが、始まった。

 俺は司と朝井君、そして委員長に目配せする。牧瀬はまだ、自席で昼食を取っている。取り敢えず、あとで動けるように、俺たちは牧瀬の動向をうかがいながら昼食を取り始めた。

 ガタ、と音がする。新妻さんが椅子を引いた。


「新妻さん、今日もどこか行くの?」

「う、うん……」


 新妻さんがいついじめを受けているのか、俺たちもよく知らない。昼にいじめを受けているということだけは分かっているが、もしかすると放課後もいじめられているのかもしれない。


「行かないとだから……ごめんね」


 新妻さんは何かに急かされるかのように、足早に教室を出た。俺たちは互いに目配せをしながら、昼食をかきこんだ。




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