第30話 第2のガチャ 5
「ふ~……」
今日一日の授業をすべて終え、俺は家へ帰ってきた。もう時計も十八時をさしている。
「お兄、お疲れ~」
「お~」
ソファーの上でアイスを食べながら、舞奈が声をかけてきた。
「今日学校で会ったよね」
「そうだな」
「あれ、誰つけてたの?」
やはり、バレていたか。俺は食事の準備をし始めた。
「新妻さんっていう女の子だな」
「なんで女の子つけてたの? 好きなの?」
「好き……ではあるが、ちょっと理由が違うな」
俺は新妻さんが自殺を選ぶ原因を探していた。
「あ~、盗撮だ~!」
「ば、馬鹿! や、やってねぇよ!! 俺は何も知らねぇよ!! 証拠はあんのかよ!! 出せよ! 証拠出せよ! 見てもねぇのに適当なこと言ってんじゃねぇよ!」
「マジでやってる人の反応じゃん……」
勝手に盗撮魔にして、勝手に引いている。
「でもお兄ってああいう女の子が好きなんだ」
「いや、だから理由があってだな……」
「どんな?」
「……今は言えない」
舞奈にこの重荷を背負わせるわけにはいかない。
「ふ~ん。まぁ、言いたくなったら言ってよ」
こういう男らしいところが、舞奈の良い所だ。
「そうだな」
俺は苦笑した。
夕食を食べ、夜になる。俺は風呂に入り、歯を磨き、自室にこもった。
「やっぱり何もわからなかったな……」
日記をつけながら、考える。新妻さんの行動におかしなところは見られなかった。秘密ガチャがおかしな結果を出しているだけなんだろうか。
「……」
ぼふ、と布団に身を投げる。スマホでヒーリングミュージックを流し、睡眠導入を行う。
「新妻さん、俺が絶対に助けてやるからな」
俺は新たな秘密を得るために、夢の世界へ出発した。
× × ×
「よし」
目を開けた。駄菓子屋ヤマモトが、目の前にある。
「来たな」
いつものように風情のあるミンミンゼミの鳴き声を聞きながら、早速ガチャへと向かった。
「秘密ガチャ秘密ガチャ……」
今は何よりもまず、秘密が知りたい。わき目もふらず、秘密ガチャへと寄る。
「品切れ……」
秘密ガチャに、品切れの紙が貼ってあった。
「ふっざけんなこの!」
秘密ガチャに品切れなんてものがあるのか。おかしいだろ、どう考えても!
「クソ……」
ない袖は振れない。俺は他のガチャガチャを見た。
「……」
トランシーバーのガチャガチャやレーザーポイント、アクセ、およそ役に立ちそうなガチャガチャは、ない。
「はぁ……」
今日は一つ、実験と行こう。
秘密ガチャが他人の秘密を教えてくれるガチャなら、他のガチャガチャにも何かしらの効力があるのかもしれない。
それこそ、日常生活に影響を及ぼすほどの身体能力の強化、だとかいったアイテムもあるのかもしれない。
そんなものを獲得すれば、俺はいよいよ異世界無双あらため、異世界夢想といって良いだろう。
「頼む……! 異世界夢想頼む……!」
俺は一回三百円もする、トランシーバーに金を入れた。
「来い!」
ガチャポン、とカプセルが出てくる。
「……」
透明のカプセル、秘密感も特別感もない、何の差しさわりもない、普通のトランシーバーのガチャ。
「……」
俺は冷えた目で見る。カプセルを開け、トランシーバーに声をかける。
「こちら二〇二二年からやって来た未来人、どうぞ」
『――――――』
雑音以外何も聞こえない。
「ポンコツがよぉ! 俺の三百円返せ!」
トランシーバーに文句を言い、投げやりにポケットの中に入れた。
「うっ……」
金を使い果たしたことで、早速意識が遠のいてくる。早い。早すぎる。今回の滞在時間はわずか三分だ。
「クソが……」
俺は現実世界へと、戻る。




