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第27話 第2のガチャ 2



 キーンコーンカーンコーン。

 鐘の音が鳴る。授業も終わり、昼食の時間がやって来た。


「え~ですからですね、この化学反応で水が出てくるんですね」


 黒板の前では、化学の先生がまだ授業を続けている。科学ならミオナ・フリューゲルに代わってもらえないだろうか。


 休み時間に突入しても暫く授業が終わらないのはあるあるだが、昼が控えているため、全く身に入らない。毎日のように行われる食堂のパン競争があるため、昼前はとりわけ生徒たちはそわそわとする。


「以上で今日の授業を終わります」


 その言葉を聞くや否や今日の日直当番は礼の挨拶をし、すぐさまパンを買いに教室を出た。何故毎日パンを買うのにそんなに命を懸けているのだろうか、と不思議に思う。

 別の店で買って持ってくるのでは駄目なんだろうか。いや、でもこういうどうでもいいことに心血を注いだ経験が、大人になってから思い出す懐かしの一ページになったりするのかもしれないな。


 新妻さんは最後まで黒板の字を書き写している。やはり真面目だ。一通り書き写した新妻さんはガタ、と椅子を引き、弁当箱を持って立ち上がった。


「新妻さん、お昼?」


 いつもは新妻さんに声をかけていないが、新妻さんの行動を知るため、少し聞いてみる。


「え、あ、う、うん」


 新妻さんは周りをきょろきょろとしながら答える。新妻さん、誰も、取って食ったりはしないよ。

 いや、まさか……。俺は朝井君の席を見た。朝井君は、いない。朝井君とのアバンチュールというわけなのか⁉


「そ、そうなんだ。楽しんできてね」

「あ、ありがとう」


 新妻さんはぎこちない返事をして、そのまま教室をたった。


「…………」


 こうなったらば仕方がない。朝井君とのアバンチュールを楽しむつもりなのかもしれないが、俺は新妻さんの後をつけることにした。


 朝井君が新妻さんと付き合っているのにも関わらず新妻さんが自殺を選ぶのだとすれば、朝井君に問題があるとしか考えられない。俺の正義のためだ、許せ朝井君、新妻さん。

 イマジナリー朝井に一言謝罪してから、俺は新妻さんの後を追った。


「……」


 新妻さんは辺りをきょろきょろと見まわしながら、お弁当を持って廊下を歩いている。何をあんなに怖がっているんだ。人を殺せるノートでも持ってるんじゃああるまいな。


「お兄ちゃん!」

「うわぁ!」


 不意に声をかけられ、驚いてしまう。


「えへへ、ビックリした?」


 舞奈だった。

 舞奈は燦然と輝く笑顔で俺を見てくる。俺は苦虫をかみつぶしたような顔をした。この世間体モンスターめ。


「お兄ちゃん何してるの?」


 舞奈はおとがいに指を当て、小首をかしげる。


「可愛い……」

「なんだあの天使……」

「あんなのが兄貴なのかよ、クソうらやま死ね!」

「舞奈ちゃん……今日も可愛いよ……デュフフ」

「あぁ、舞奈ちゃんマジで可愛すぎ」


 あろうことか、舞奈のちょっとした仕草で大量の男子生徒たちが集まってきた。

 

 ふざけるのも大概にしろ。どっか行け。あと、舞奈ちゃんにはあんなに優しくて格好良さそうなお兄様がいたんだ、的な声はないのか? 声は?


「お兄ちゃん?」


 舞奈が心配してそうな顔で聞いてくる。


「俺は今重大任務に就いている。報告は後だ。ここにいると危ない。お前は今すぐ去れ」

「重大任務……?」


 舞奈は俺の視線に気づいた。前には、新妻さんがいる。こんなところでうかうかと目立とうものなら、新妻さんに見つかってしまう。


「あぁ……なるほど」


 舞奈はにやり、と笑った。


「全くお兄ちゃんは恋多き男だねぇ。じゃあお兄ちゃん、私学食行くからばいばいぴ~」

「ま、舞奈ちゃぁん……!」

「可愛い……」

「デュフフ……」


 舞奈が階段を降りると同時に、大量の男子たちも降りて行った。不敵な笑みが癇に障るが、その察しの良さ、今回だけはありがたかったぞ。

 俺は新妻さんへの監視を続行した。


「……」


 それにしても遠くまで行く。もうかなりの距離を歩いた。別棟まで来ている。こんな所誰も来ないだろう。

 新妻さんはきょろきょろとあたりを見渡し、廊下を曲がった。


「ここは……」


 もう行き止まりだ。この先には女子トイレしかない。

 ゆっくりと新妻さんの後を追うと、新妻さんは女子トイレに入って行った。


「女子トイレ……」


 さすがに女子トイレには入れない。俺は踵を返し、自分の教室へと向かった。


 新妻さんが毎日昼食時にトイレに行っていたとは、知らなかった。朝井君とのアバンチュールというわけではなかった。ただ、昼食をトイレで取っているだけだった。

 なんだか暴いてはならない秘密を暴いてしまったようで、新妻さんに少し悪く思った。わざわざトイレなんて行かなくても、言ってくれれば俺が一緒に食べたのに。


 俺は少しの罪悪感とわだかまりを胸に残したまま、重い足取りで歩いた。




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