表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/46

第23話 【4等 N】新妻優子の日常 3



 図書館へ入り、早速本を返す。


「ご利用ありがとうございました」


 司書のお姉さんに笑顔を向けられる。俺は窓口を離れ、館内を散策し始めた。


「…………」


 新妻さんは果たして休日の何時ごろに図書館に来ているのだろうか。図書館の中を練り歩く。


「あ」


 館内の隅の方で、縮こまるようにして椅子に座っている女の子が、そこにいた。


「新妻さん」


 一人頬杖をついて考えあぐねている新妻さんが、そこにいた。俺は新妻さんの前の席に座った。


「……」

「……」


 新妻さんは数学の問題を解いていた。総明図書館は自習を容認している図書館のため、いたるところで自学習に励む少年少女たちが見られる。


「あ」


 ふ、と新妻さんが顔を上げたタイミングで俺と目が合った。頬杖をついていた新妻さんは恥ずかしそうに頬杖を止め、手を振って来た。俺も新妻さんに手を振り返す。

 自習は認められているが会話は認められていないため、俺は筆談で新妻さんと会話する。


『奇遇だね、新妻さん。こんなところで何を?』

『勉強をしてます』


 新妻さんは俺の差し出した紙に文字を書いて戻してくれる。

 俺はリンゴの絵を描いて、右矢印を描いてみた。絵しりとりを希望する。


「……」


 少し考えた後、新妻さんは矢印の右側に釘の絵を描いてくれた。五寸釘だろうか。田舎のヤンキーしか思いつかないような発想だ。


『休日なのに新妻さんに会えてラッキーだよ。勉強頑張ってね』


 あまり新妻さんの前で邪魔をするのも心が痛むため、俺はそう書いて新妻さんに送った。


 新妻さんは顔文字を描いて戻してくれた。俺は新妻さんに手を振り、新妻さんはにこ、と笑顔で返してくれた。

 休日に新妻さんに会うことが出来、俺は満足して帰宅した。

 秘密ガチャのおかげで良い暮らしが出来ている。


 × × ×


 後日、俺と舞奈はいつものように電車に乗り込んだ。


「そういえばお兄、昨日もしかして図書館で何か用事あった?」

「いやぁ、別に」

「ふ~ん……」


 舞奈は半眼で俺を見る。完全に俺のことを値踏みしてやがる。だが、舞奈はそれ以上は追及してこなかった。


「おはよ~」

「おはよっす」


 いつものように、天子が俺たちの下へとやって来た。舞奈は天子と朝の挨拶をする。


「おはよう、天ちゃん~」

「あ~、おはよう、舞ちゃ~ん」


 手を振りながら、天子は舞奈に寄る。

 どうしてこう、女子同士が出会った時はお互いに高い声を出しながら歩み寄るのだろう。誰に言われたわけでもないのに皆同じ行動を取るのは、かなり不思議だ。


 俺たち男子高校生も同じようなことを思われているんだろうか。


 誰が伝えているわけでもないのに、小学生が何時何分何秒地球が何周回った時ですか~、と言い出すのは一体何故なんだろうか。誰も伝えていない伝統が勝手に受け継がれているという謎に非常に興味がある。


 外国の魔法映画で喧嘩をした二人の会話を伝えるため、伝書鳩をやらせられている光景を見た時は驚いたものだ。

 日本だけでなく、諸外国でも誰に言われるでもなく、同じことをやっているのだ。人間が共通して一種の行動をとることについてもう少し科学的な実証結果が欲しい。なんらかの賞くらいは取れそうなものだが。


「元気だった~?」

「うん、元気だった~」

「え~、嘘~」


 天子と舞奈はお互いに手をぱちぱちと合わせる。


「大抵元気なんだから嘘もクソもないだろ」

「うるさい悟! 黙れ悟!」

「お兄は黙ってて!」

「は~い」


 天子と舞奈は至近距離で雑談をし始める。

 俺は二人のいちゃいちゃを横目で流しながら、大きなあくびをした。



「おはよ~っす」

「カバディカバディカバディカバディカバディ!」


 教室に入るや否や、司がカバディを仕掛けてくる。

 俺はすぐさまカバンを投げ出し、司と向き合った。


「カバディカバディカバディカバディカバディ!」

「カバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディ!」


 司のタックルが飛んでくる。


「カバッディッ!」


 俺はカバディの声とともに、敗北した。


「カバッディ……」


 司が握手を求めてくる。


「カバディ……」


 俺は握手し返した。


「も~、朝からうるさい、男共! 静かにしてよね!」


 委員長が俺たちに指をさしてきた。


「カバディ……」

「しんみりするな!」


 俺はため息をつき、投げたカバンを取りに行った。カバディのルールは知らないから、適当にやった。


「こんにちは、今日は晴れですね」

「ハロー、イッツサニートゥデイ、じゃないんだよ。日常会話で使わない英語の日本語訳シリーズ止めろ」


 司は改めて、俺に挨拶をしてくる。ちなみに言うと、日常会話で使わない日本語訳シリーズは俺と司で定期的に出し合っている、全く面白くないやり取りだ。


「委員長も司に何とか言ってやってよ、ぼーっと見てないでさぁ」

「……ふんっ!」


 委員長は腕を組み、司を見る。そして頬を赤らめ、踵を返した。


「あ~あ、司が委員長怒らせた」

「うるせ~」


 司が笑う。司と委員長が付き合っていることは知っている。ここはあまり茶化さずに自席に戻るとしよう。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ