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第22話 【4等 N】新妻優子の日常 2



「お兄」

「はい」


 扉の隙間から聞こえてきた声に、反射的に返答する。舞奈が俺の扉を少しだけ開けて片眼でのぞいていた。


「キャーーーー! へ、変態! 誰か!」

「兄妹なんだけど」


 舞奈は口をとがらせながら扉を開けた。


「兄妹でも適切な距離感ってもんがあるだろ! どうするんだ、舞奈が俺の部屋勝手に開けて俺が羽で着物でも織ってたら!」

「鶴の恩返しじゃん」

「俺が鶴になってどこかに旅立っても良いのか! お前は翌日からお兄ちゃんは鶴になりました、って言えるのか、えぇ⁉」

「ネットスクープだよ、もうそうなったら」

「確かに」


 俺は一つ、大きな伸びをした。


「で、何?」

「ご飯」

「ご飯って……」


 時計を見れば、もう短針は九の字を指していた。父さんと母さんは休日の今日も出勤である。


「何か菓子パン食べといてくれ」

「やだ~、朝からしっかりしたの食べたい~~」


 舞奈はその場にすとん、と座り込む。


「じゃあゼリーあるから適当にそれで」

「カブトムシじゃないんだから」


 舞奈を昆虫扱いしてしまった。


「仕方ないなぁ、作る作る、作ればいいんだろ」

「作ればよろしい」

「お前も自分で料理出来るようになってくれよ」

「今の時代男でも家事が出来た方が良いから」

「自分が出来る時しか発動できない魔法カードなんだよ、それは」


 俺は寝巻のままリビングへと向かい、肉と野菜炒めを作った。


「へい、おまち!」


 目をしばたかせる舞奈の前に肉と野菜炒めを置いた。そしてご飯を丸型にしてお椀によそう。


「ありがと~お兄~。お兄大好き~」

「お前の大好きはいっつも安売りされてるな」


 俺も席に着いた。


「「いただきます」」


 俺と舞奈は朝食を食べ始める。


「問題です」

「食事中に問題出る家庭ある?」


 俺は人差し指を立てた。


「チャーハンは半球状で出てくることが多いですが、その理由は何故でしょう」

「え~、分かんない」


 肉を食べながら、興味なさげに舞奈は言う。


「ちょっとは考えろよ」

「普通に作ったまま皿に乗せたら半球状になるからじゃない?」

「まぁそれもあるんだろうけど」


 半分正解といったところか。


「ちなみに冬を越える動物も寝床ではチャーハンのように、丸くなって寝ます」

「あぁ~、熱を逃がさないみたいな?」

「正解」


 球状になると熱を保持しやすいらしい。


「エビデンスは?」

「科学の話はもうするな!」

「もうお兄すっかり科学アンチ」


 朝っぱらからミオナ・フリューゲルの科学配信を見て、もう科学は食傷なんだよ。

 舞奈はご飯を食べ終えた。


「今日も美味しかったよ、お兄」

「そうか」


 俺は食事を終え、タッパーに残りの肉と野菜を詰めた。舞奈は皿を片付け、化粧台へと向かう。


「おいおい、今日休日だぞ。またどこか行くのか?」

「ん~、今日はどこも行かないけど」

「じゃあ化粧しなくていいだろ」

「女の子は毎日可愛いを摂取しないといけないの」

「さすが可愛いを作れる者たちだな」

「科学者みたいに言わないで」


 俺は皿を洗いながら舞奈にケチをつける。


「あ」


 思い出したかのように、舞奈は声を上げた。


「ねぇ~、お兄~」


 そしてねっとりとした声を出す。


「舞~、お兄に頼みたいことがあるんだけど~」

「ん?」


 俺は皿洗いを途中で止め、舞奈の下へと向かった。


「舞~、この前図書館で借りた本今日返さないといけないんだけど~」

「はぁ~?」


 舞奈はバッグから『十代女子高生のSNS革命』という本を出した。


「良かったら今日~、お兄が返しに行ってくれないかな~、って~」


 舞奈は体をくねくねと動かしながら嬌声をあげる。


「もしお兄が行ってくれたら~、お姉さんお兄に良いことしちゃおうかな~」


 舞奈はちらちらと服をめくる。


「お前風呂上りいっつも裸だろ」

「ねぇ、お兄~、お願い~」

「今日外出しないしやることないんだろ?」

「外は出ないけど朝から部屋でやらないといけないことがあって~」

「はぁ……ん?」


 舞奈の持っていた本に、シールが貼ってあった。総明図書館と、書かれていた。


「よし! お兄ちゃんに任せなさい!」


 俺は即座に引き受けた。


「え、本当⁉ 助かる~」

「ちょうど俺も図書館に行きたいところだったんだ。可愛い妹のためなら一肌脱ごうじゃないか」

「なんかちょっと薄気味悪いんだけど」


 新妻さんは休日に総明図書館に通っている。

 まぁそれを思い出したというわけでもないが。そう、俺はあくまで可愛い妹の頼みを聞いてあげるために図書館に行くのだ。決して新妻さんを一目見てこよう、などという不埒な目的ではないのだ。


 俺は誰に責められたわけでもないのに、一体誰に断っているんだ。


「なんか嫌な感じするけど、じゃあ行って来てくれる?」

「ああ、任せとけ。俺が責任を持って返しに行ってやるよ」


 俺は舞奈から本を受け取った。

 その後外へ出る用意をし、俺は図書館へと向かった。




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