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第21話 【4等 N】新妻優子の日常 1



 ジリリリリリリリリリリリリリリリリ。


 耳元で不快な音が鳴っていた。


「……」


 俺はスマホのアラームを消した。


「ミオナ・フリューゲル……」


 俺は寝床でスマホを操作し始めた。朝は気持ちよく起きたいところだが、目覚めてからスマホを操作することが習慣になってしまっている。布団の中でスマホを弄び、娯楽を享受するこの人生の堕落感がたまらないのだ。

 あいにく今日は休日。朝から堕落の限りを尽くしても問題がない日なのだ。


 今の時代なら、現代人は七つの大罪を余裕で制覇できるだろう。


「あった」


 俺はミオナ・フリューゲルで検索をし、早速動画を見つけた。


「こいつか……」


 ミオナ・フリューゲル。

 チャンネル登録こそしていないものの、面識は、あった。俺はミオナの動画で一番再生数の多い動画を再生した。


「目覚めよ、未来の科学者たちよ! どうも、天才マッドサイエンティストのミオナ・フリューゲルです、ふはははは!」


 灰色の顔色をし、体中に縫い目のあるミオナは、高らかに笑った。

 ミオナ・フリューゲルは、天才マッドサイエンティストだ。科学の発展を願い実験を繰り返していたが、狂気的に科学にのめりこむあまり自身を実験台にしてしまい、その結果、改造人間となった。

 そしてミオナは現在、配信業に勤しんでいるらしい。フランケンシュタインを作る過程で出来た余り物を利用して人体を改造した、と言っているが、フランケンシュタインは実は改造人間の方ではなく、作った博士の名前だ。


「今日は私の町でも作ろうではあるまいか」


 ミオナの動画で一番再生数が多いのは、群れなせ動物の町、というゲームの実況動画だ。


 動物の町、あらためどう町は、自分の町を作り上げ、オンラインで多数のユーザーと交流をするゲームだ。家の中から外まで町を作ることが出来、スポーツや学校、就職や恋愛など、様々な楽しみ方が提供されている。


「今日はマッサージ機でも作ろう。この腐った体を少しでも休めるのだ」


 どう町には合成というシステムがある。家具や機械を合成することによって新たな物が作り出される。天才マッドサイエンティストであるミオナにとって、合成というシステムはぴったりだろう。


「私の錬金術にかかれば、何でも作れるのさ!」


 ミオナは家の中からスライムとマッサージ機を選び、合成にかけた。


「スライムとマッサージ機で弾力のあるマッサージ機を作るのだ! ふははははは!」


 スライムで出来たマッサージ機を作ろうと、ミオナは息を巻く。


 そして合成は完了した。


 出来上がったのは、スライムで出来た電動マッサージ器だった。


「ちょ、ちょっとおおおぉぉぉ!」


 常にぶるぶると震えているスライムの形状の電動マッサージ器が出来上がってしまい、ミオナは焦る。


「大人のおもちゃみたいなの出来ちゃったんですけどおおおぉぉぉ!」


 スライムの電動マッサージ器をミオナは持った。


「完全にヤバい人なんですけどおおおぉぉ!」


 家の中で震えるスライムの電動マッサージ器を持ち、ミオナは立ち尽くす。


 ガチャリ、と、そのタイミングでオンラインで接続している別のユーザーがミオナの家を訪ねてきた。


「……」

「……」


 ガチャリ、とすぐに扉が閉められる。


「ち、ちが! 誤解! 誤解だから! そういうことしようとしてたわけじゃないからぁ!」


 ミオナはスライム電動マッサージ器を持ちながら訪問者を追いかける。

 スライムのマッサージ器を持ちながら家の外へ行くと、そこには多くのユーザーがいた。


「変態です!」


 訪問者はチャットを打つ。


「変態と間違われちゃってるんですけどおおおおおぉぉぉぉ!」


 こうして、どう町で一つの伝説が生まれた。

 大人のおもちゃを持ちながら人を追いかけるイカれたオンラインユーザーがいる、とネットで話題となり、ミオナのこの動画の再生回数は三百万回を超えた。


 そしてミオナのこの動画を契機に、どう町でも大人の遊びが出来る、と話題になった。


 常に余裕を見せつけてきたマッドサイエンティストが一人の女の子に戻る瞬間、そしてこのセンセーショナルな出来事も相まって、ミオナの知名度を大きく上げることとなった。


「こいつか……」


 スライム電動マッサージ器女を見終わった俺は、スマホを閉じた。

 この動画だけは見たことがあったから、面識自体はあった。だが、まさかこのミオナ・フリューゲルが同じクラスの女子生徒だったとは。


「世間も狭いものだな……」


 俺はスマホの電源を消し、ふあぁ、と大きなあくびをした。



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