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第19話 秘密ガチャ、再び。 2



「もしかして行動制限⁉」


 行動できる範囲を超えてしまったら爆破される、みたいなサバイバル系の世界か、と驚いた俺は自分の手首を見た。


「時計……?」


 高校に行くときにいつもしている時計が、あった。

 前回もあったのだろうか。毎日つけているので、あまりにも自然すぎて気付かなかった。時刻は十時四十五分を指している。


「……ん?」


 俺はアナログ時計を使っているのだが、時計の日時を表す欄に何か書いてあった。


「残り時間、十五分……?」


 残り時間が、時計に書いてあった。


「もしかして……」


 この世界にいれる時間のことなんだろうか。ということは、十一時には元の世界に戻る、ということになる。

 もう少しここを調べてみたい気持ちもあるが、仕方がない。俺はガチャをするために、急いで駄菓子屋へと戻った。


「暑い……暑いぃ……」


 炎天下で走ると、暑い。まぁ、当たり前だろう。

 来た道をまっすぐ戻り、俺はヤマモトまで戻ってきた。


「いやぁ、なんだか落ち着くなぁ」


 駄菓子屋ヤマモト。まだ二回しか来ていないが、この謎の世界で唯一心を落ち着かせることが出来る場所になりつつある。


「すみませ~ん」


 駄菓子屋の中に入る。相も変わらずお婆ちゃんはいない。


「喉が渇いたな……」


 水分を持って行かれすぎた。喉がカラカラだ。

 俺はコーラジュースとソーダジュースの駄菓子を手に取った。


「お会計~」

「はいはい」


 奥の方からお婆ちゃんが出てきた。


「六十円ね」


 相も変わらず、笑ってしまうほどに安い。三十円でジュースが飲めるとは、価格崩壊していないだろうか。


「あ、あとこれ」

「はいはい」


 俺は前回来た時に気になっていた、きなこ棒を指さした。


「一つ何円ですか?」

「十円だよ」

「じゃあ三本ください」

「好きなのを取りなね」

「……なるほど」


 箱の中にきなこ棒がたくさん入っている。どうやらこれを自分で取るらしい。コンビニのおでんと同じ方式か。

 俺はきなこ棒を三本取った。


「はい、九十円ね」

「はい」


 俺は百円を渡した。


「まいど、どうも」


 十円をおつりとしてもらう。

 俺は片手にきなこ棒を三本、片手にジュースを二本持った。


「あ、あとおばちゃん」

「はいはい」

「今って、西暦何年か分かる?」

「はい?」


 お婆ちゃんはきょとん、とした顔をする。


「一九九五年だけど、どうかしたのかい?」

「一九九五年……」


 二十世紀……。今から二十七年も前か。まだ俺は生まれてすらない。スマホどころか、携帯すらないんじゃないだろうか、この時代。


「何月何日?」

「おかしなことを聞くねぇ。七月十八日だよ」

「この国は日本?」

「そうだよ」

「なるほど……」


 ここは俺が生まれるよりもはるか前の日本。

 季節は夏。


「変なことを聞くねぇ。それがどうかしたのかい?」

「い、いや、気になってつい」


 俺はあはは、と笑ってごまかした。


「じゃあ、ありがとう、おばちゃん」

「はいよ」


 俺は駄菓子屋から出て、ガチャガチャの隣の椅子に座った。コーラのジュースを手に取る。


「どうやって開けるんだ……?」


 開け口とかないじゃないか。この状況になるともはや、こちら側のどこからでも切れます、というどこからでもは切れない注釈すら愛おしい。


「くそ……」


 俺は歯で噛み切った。


「おっとっとっと」


 お猪口に酒を入れるおじさんのようなことを言ってしまった。漏れ出てくるジュースに口をつける。


「~~~~~~」


 ジュースを嚥下する。


「んんんんんめええええぇぇぇぇぇ~~~~」


 甘露甘露、とご機嫌に喉を鳴らす。やはり、喉が渇いている時のジュースこそ至高。俺はあっという間にコーラのジュースを飲み終えた。

 そしてきなこ棒を頬張る。


「きなこ棒もうめぇ~~」


 俺はソーダのジュースを歯で開け、飲み、きなこ棒を食べ、交互に繰り返した。


「ここがパラダイスだぁ~~」


 俺は頬を緩ませる。

 きなこ棒に水分を取られ、取られた水分をジュースで補う。永久機関が完成しちまったぜぇ。


「……ん?」


 きなこ棒の先が、赤く塗ってあった。


「当たり……?」


 当たってしまった。俺は再び駄菓子屋の中に入る。


「おばちゃん、きなこ棒の先っちょが赤いんだけど、もしかしてこれって当たり?」

「好きなのを持って行きなねぇ」


 お婆ちゃんは姿を現さず、声だけで言った。勝手に取って行って良いって、セキュリティどうなってんだ。


「ありがとう!」


 俺はきなこ棒を一本持ち、再び駄菓子屋を出た。


「んめぇ~」


 きなこ棒を頬張る。だが、こういう、セキュリティの甘さというのが田舎の良い所なのかもしれない。


 人間関係が希薄になり、挨拶をするだけで不審者と通報される現代にはない、住民同士の暖かいやり取りがある。

 何かにつけて争いあって、自分が正義だと主張する、ギスギスとしている現代にはない暖かさが、ここにはある。


 あるいは、ネットがここまで人を変えてしまったのだろうか。


「田舎いいなぁ……」


 俺も老後は田舎で駄菓子屋を開こうか。駄菓子屋、トウガミ。うん、悪くない。

 自分の家に鍵をかけないと言われている田舎、あったかくていいじゃないか。


「ヤバいヤバい」


 俺は時計に目を落とした。残り時間三分。もはや怪獣と戦う正義の味方が活動できる時間しか残っていない。


 俺はソーダのジュースを飲み干し、秘密ガチャへと向かった。



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