第18話 秘密ガチャ、再び。 1
ミーンミンミンミンミンミンミンミーン。
「嘘だろ、おい……」
ミーンミンミンミンミンミンミンミーン。
ミンミンゼミが大きな声で鳴いている。
前回から数日の間隔を空けて、またやって来てしまった、ここに。
「一回限りじゃなかったのか」
あの一回限りかと思ったが、どうやらそうでもないらしい。
目の前には駄菓子屋、ヤマモト。後ろは鬱蒼と茂った森で、人気のない田舎。間違いない、夢の中だ。
ここに来る条件も、ここがどこなのかも分からない。ただ一つ分かっていることは、この駄菓子屋のガチャガチャは誰かの秘密を教えてくれる、ということだけ。
ポケットをまさぐってみると、やはり三百円が入っていた。恐らくだが、この三百円を使い切ると、夢から覚める。
「ちょっと探索してみるか……?」
駄菓子屋にはおばあちゃんがいた。ということは、他にも人がいるのかもしれない。折角の機会だ、ここがどこで、今は何年何月なのか、調べてみようか。
「……」
後ろを振り向く。森には正直入りたくないな。こんな軽装で森に入るもんじゃあない。
それに、俺は全く土地勘がない。スマホも持ってない状態で遭難でもしようものなら二度と出て来れない。まだ何も分からない時点でこんな高難易度ダンジョンに挑むのはナンセンスだ。
もしここで俺が命を落としたら二度と目を覚まさない可能性がある。昏睡状態になってバッドエンドだけは避けたい。
「となれば」
少し歩いてみようか。俺は道なりに沿って、歩き出した。
ミーンミンミンミンミンミンミンミーン。
「暑いなぁ……」
前回来た時と同じ服装。人の姿は見えない。
左右を見渡してみると、大きな田園があった。
「本格的に田舎だな……」
近隣に駅があるような街で育った俺からして、ここはもはや未知の世界だ。新幹線で遠出するときに一瞬見たことがある、くらいの認識しかない。
そして――
「滅茶苦茶虫いるな……」
田舎というのは、やはり虫が多いのだろうか。トンボや蝶々、バッタやイナゴが沢山、そこら中を飛んでいる。やはり異世界転生しているんじゃないだろうか。
俺の住んでいる所では虫なんてほとんど見かけない。スマートシティが乱立する高度な情報社会の今では、外で虫と出会うことも少なくなっている。家でゴキブリとこんにちはすることだけは頻繁にあるが。
「倒したらレベルアップとかしないよな……」
ここは日本ではなく、日本によく似た異世界、という可能性もある。
こんなに虫だらけの街が果たしてあるだろうか。
「…………」
少し気になってしまった。
「ステータスオープン!」
俺は空に向かって、大声で叫んでみた。
「…………」
何も起こらない。
「ファイアボルト!」
呪文を詠唱してみるも、やはり何も起こらない。
「気のせいか」
まぁ、順当に日本なんだろう。夢の中の世界なのだから、日本でも異世界でもどちらでも良いような気もするが。
「ぶーーーーん!」
「……っ!」
変な音がした。俺は咄嗟に後方を振り返った。
「ぶーーーん!」
麦わら帽子をかぶり、体中に汗をかいた小さな少年が、虫籠を持って走っていた。
「トンボさいっぱいだぁ!」
虫籠に虫をいっぱいに詰め、背丈よりもずっと長い虫取り網を振り回しながら、少年が走る。
「……」
俺は奇異なものでも見るかのような目で、少年を見てしまった。
「……?」
少年と目が合う。
「……?」
少年が俺ににか、と笑いかけてきた。俺も思わず、笑い返す。
「ばいば~い」
少年が俺に手を振った。俺も手を振り替えす。懐かしいな、この感じ。何をも恐れない、知らない人と会えば屈託に、自由に会話を交わしていた子供時代。
俺は少し嬉しい気分になった。
「ぶーーーん」
少年は虫取り網を振り回しながら、先へ進んでいった。
ピピピピ、ピピピピ、ピピピピ。
「うわっ!」
手首から音が鳴った。




