第16話 【3等 R】九堂司の秘密 3
「ピーーーー!」
バスケが、始まった。司に聞きたいことがあったので、俺も同じく審判を申し出た。
「速攻!」
男たちは速攻でパスを回し始めた。
「ミスディレクション!」
アニメに影響されたのか何か、声をかけながらパスを回している。
「馬鹿だなぁ、あいつらは」
司はバスケの試合の流れを見ながら、呟いていた。
「バスケって頻繁にルール変わるから覚えられないんだよなぁ」
「スポーツって結構頻繁にルール変わるよな」
「そういえば後ろの板とかも最初ついてなかったらしいからな」
「敵チームのファンが妨害するから、とかいう奴だな」
元々バックボードがついていない籠にボールを入れるスポーツだったが、相手チームを応援するファンが籠にボールが入るのを阻止するため、バックボードが付いた、というのは聞いたことがある。
バックボードが付くことでまた新たなバスケの魅せ方が出来るようになったとも言われているらしいが、ルールを変えないといけない背景には、いつも無数の非常識な人間がいるのかもしれない。
ピーーーー。
司が笛を鳴らす。
「点数入ったな。めくっといて」
「らじゃ」
俺は得点表をめくる。
「そういえばさあ」
「ん?」
黒沼先生同様、司への質問を切り出した。
「司って、委員長と付き合ってる?」
「…………」
司は真顔で、こちらを見た。
「……え?」
「……え?」
得点表を中心に、俺たちの間に静かな時間が流れる。
「司、得点!」
「あ、あぁ」
ピーーーー、と司は笛を吹いた。
得点表に得点を入れる。
「お前、なんで、どうして……⁉」
「マジ……か」
この動揺を見るに、どうやら真実らしい。
「なんで知ってんだよ!」
司は小声で俺に問いかける。
「いや……なんとなく、そんな気がしたって言うか……」
「くっそ! お前妙なところで勘が鋭いよな」
呆気にとられ、真顔になる司を初めて見た。
「そうだよ、俺は紗友里と付き合ってるよ」
「紗友里……⁉」
まさか司の口からそんな言葉が出るとは。
「だからお前、委員長の前でだけ仲裁役みたいなことしてんだな!」
「言うな言うな! 恥ずかしい!」
あたりを見渡し、委員長の姿を見つける。どうやら司を見ていたようで、目が合う。
「あたりを見渡すな! 俺だけを見ろ!」
「少女漫画ならヒロインが一発で落ちそうなセリフ」
「そんなつもりはない!」
司は顔を赤くしている。こいつが慌てているのを見るのは正直おもしろい。いつも余裕しゃくしゃくそうな顔をしているこいつの面の皮を剥がせた気分になる。
「誰か他の人にも言ったか⁉」
「いや、誰にも。だからこうやって二人になれる場所を探してたんだよ」
「エッチだな、その言い方」
「なんでだよ!」
司は笑う。
「俺から告白したんだ。いつも真面目で、でもそれでいて可愛げと儚さがある紗友里が妙に気になってさ……。紗友里も俺のこと、気に入ってくれてたらしい」
「アリとキリギリスくらい違うと思ったけどな。なんにせよ、黙っとくよ」
「ああ、紗友里もそういうの恥ずかしいらしくて、秘密で付き合ってんだ。頼むよ」
司は手を合わせて俺に頼み込んだ。
「お前の秘密、墓場まで持って行くよ」
黒沼先生と同じことを言う。
「それは重すぎる。成人式くらいにしといてくれ」
俺は指で丸を作った。
「にしても、悟にはバレてたかぁ……。さすが、悟という名前だけあるな」
「褒めてんのか馬鹿にしてんのか」
俺たちは試合に再び集中し始めた。
まさか、と思っていた司と委員長との交際も、本当だった。どうやらいよいよ、夢で見たあの秘密ガチャは本当だった、ということになる。
これで俺も予知能力ホルダーということになるんだろうか。このまま能力を使い続けると、能力を悪用する組織に狙われたりするんじゃないだろうか。
こんなしょぼい能力で悪の組織と戦える気がしない。
「よし、恭也パス!」
「任せろ!」
試合は滞りなく続けられる。新妻さんも同じチームにいるのだが、中々ボールを持つ機会がなく、コートの端の方で手持ち無沙汰にしている。
いかにも、新妻さんらしい。
「リバウンド!」
ゴール近くでシュートが外れ、リングに当たったボールが跳ねた。ボールの奪い合いが始まる。
「取ったぁ!」
どうやら攻められていた方のチームが取ったらしい。ボールを取った男子生徒は、力に任せ相手陣にボールを投げた。
「いっけえええぇぇ!」
相手のゴールを狙って投げられたボールはやや高度を落とし、相手陣営に落ちる軌道を取る。
「あ……ぁ……」
そして狙ったかのように、その落下地点には新妻さんがいた。手持ち無沙汰にしていた新妻さんに、ボールが渡るチャンスが来る。
「ぇ……ぁ……」
新妻さんは小さな声を上げながら、ボールを迎え入れる態勢を取った。落ちてくるボールを見ながら両手を出し、
「うっ……!」
力いっぱい投げられたバスケットボールは、新妻さんの顔面に直撃した。取り損ねた。
「え……」
「嘘……」
「おいおいおいおい」
新妻さんがその場に倒れこみ、顔を押さえる。
「マジかよ」
俺は咄嗟に、新妻さんに駆け寄った。
「ち、ちが、お、俺、全然そんなつもりなんかじゃなくて……」
ボールを投げた本人は青ざめた顔で立ちすくんでいた。
周りの生徒たちも、新妻さんに集まってくる。
「大丈夫?」
「う、うん……」
新妻さんは俺を見上げた。それと同時に、新妻さんの顎から血がしたたる。
「きゃああぁぁっ!」
新妻さんの体操服に赤いシミが出来る。バスケの試合も中断された。