第15話 【3等 R】九堂司の秘密 2
「はい、じゃあ今から活動の時間を始めます」
昼食も取り、ちょうどうつらうつらと眠気が襲ってきたころ、黒沼先生が教壇で声を張り上げた。
今日は月に一度の活動の時間。二時間分の授業の時間を取って、課外活動を行ったりサッカーをしたりと、なんでもありな時間。恐らく全教科の中で一番楽しくて、一番楽な授業。
「今日の活動はバスケだから、みんな服着替えてね~」
先生がそう言うと、俺たちは真っ先に隣の空き教室へ向かった。体育の時間になると、男たちが活力を増す。どいつもこいつも獣どもめ、と思いながら、俺もカバンを持って空き教室へ向かった。女子生徒はこの教室で着替える。
「ちょっと男子~、覗かないでよね~!」
「隣の教室から覗けるか!」
司はそう言うと、空き教室のドアを閉めた。
「大人の夜の授業実施中、って書いて貼っとくか」
「馬鹿なことをするな、司」
いそいそと大人、まで書いた司を見やる。
「じゃあこれでいいわ、これで」
教室を出て、司は大人、と書いた紙を扉に貼った。
「やっぱもう少し足しとこっと」
司は大人の下に、(意味深)と書いた。どうしてこう、つくづく、男子高校生っていうのは馬鹿ばっかなんだろう。本当にこんなやつが委員長と付き合っているんだろうか。
「日本語ってすごいよな。これだけで真意が伝わるんだから」
「馬鹿なことしてないで着替えろよ」
司は教室に入り、着替え始めた。
「俺の腹筋見てくんね?」
司は上裸になり、ポーズを取った。
「ちょっと、誰か掛け声!」
司はポーズを決め始める。
「仕上がってるよ!」
「よ! 上腕二頭筋キれてるね!」
「肩にでっかいメロン、乗せてんのかーい!」
「筋肉の集合住宅!」
適当な掛け声が男子たちから発せられる。
「なんでボディビルの掛け声みたいになってんだよ」
冷えた言葉をあびせるものの、男たちは止まらない。どうしようもないやつらだ。とはいうものの、実際、司の肉体美は確かにすごい。健康的に日焼けした肉体に、程よく筋肉がついている。実際、モデルと言われても何ら違和感はない肉体をしている。腹筋が割れているというそれだけで、男子高校生界ではかなり大きな顔を出来る。
「ちょっとあっちの教室行って来るわ」
司は女子生徒が着替えている教室を目指し始めた。
「じゃあな、司。次シャバで会う時を楽しみにしてるよ」
「誰か止めろよ」
司は普通に、服を着替え始めた。服を着替え終えた俺たちは、体育館へと向かった。
「はい、じゃあ今日はバスケットボールをしま~す」
男女体育館に集まり、黒沼先生は俺たちの前で話し始めた。
「先生……俺、バスケが、したいです……!」
「はい、今からするんだよ~」
司の軽口を先生は軽くいなす。
「え~、今から二時間、バスケをします。特にそれ以上のルールはないので、皆で適当にグループ組んで決めてね~」
そう言うと先生は倉庫にボールを取りに行った。
「よ~し、磯野、サッカーしようぜ!」
「バスケだっつってんだろ。お前がやりたいって言ってたんだろ」
支離滅裂なことを言う司を置いて、俺たちはグループ分けをし始めた。女子と男子で集まって話し合いをする。
「男女別れてやる?」
「ん~、別にいんじゃない、一緒で」
そう答えたのは、クラスの一軍女子、牧瀬有菜。俺たちのクラスで絶対的な権力を持つ、女王。朝井君が怯えていたであろう女子集団のトップだ。誰も、この女に意見することはかなわない。あの司でさえ。
「男女別れてないバスケとか活動くらいじゃん? ならやるしかないでしょ」
牧瀬は力こぶを作る。
ごく個人的なことを言わせてもらうと、牧瀬はあまり俺の好みじゃない。昼食時にいつも徒党を組んで食事し、心地の良いとは言えない、いじりをしているのだ。個人的に、一軍女子あらため、個体で行動できない一群女子、と失礼な呼び方をさせていただいている。
「お~、じゃあグループ分けしようか」
司の一言で、俺たちはグループ分けし始めた。四グループを作り、早速バスケをすることになった。先生が持ってきたボールを取りに行き、ゼッケンをつける。
「よ~し、始めんぜ! ジャンプボール!」
早速試合が始まった。基本的にいつでも司会進行を務めている司は、初めに審判を申し出た。司がボールを上げ、バスケが始まる。




