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第10話 【1等 SR】黒沼恵梨香の秘密 1



 ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ。

 耳元で不快な音が鳴っていた。


「はっ!」


 耳元で大きな音が響いている。


「…………」


 妙な汗をかいている。俺はスマホのアラームを消した。


「黒沼先生がコスプレイヤー……」


 夢の世界で見た秘密を、起きた今でも覚えている。


「司が委員長と……」


 付き合っている。

 果たしてこれは夢の中だけの話なのか、現実のことなのか。


「あ」


 俺はポケットの中をまさぐってみる。


「ない……」


 当たり前だが、ガチャガチャで当たった紙はなかった。


「なんだったんだ、一体……」


 俺は上の空ながら、いつものようにスマホを眺めていた。


「…………」


 ぼーっと、していた。


 あの秘密ガチャというのは、何の商品が出るか分からない、という意味での秘密ガチャではなかった。

 何が当たるのか分からないのではなく、誰かの秘密が当たるガチャなのだ。文字通りの、秘密ガチャ。


「不思議な夢もあるもんだな……」


 俺は不思議な感覚を残したまま、ベッドから起き上がった。

 だが、案外ああいうこともあるのかもしれない。明晰夢も予知夢も、ある種の特殊能力みたいなものだ。


 高い精度で意思疎通テレパシーが可能な双子もいると聞く。人間にはそういう特殊能力が元々備わっているものなのかもしれない。


 未だに誰が何のために作ったのかも解明されていない地上絵や、どうやって作ったのかも分からない古代の遺跡があるくらいなのだから、先生や同級生の変な夢を見ることだってあるだろう。

 可能ならば、もう少しいやらしい夢を見たかったものだが。


「お~い、舞奈~」


 今日は土曜日だ。布団から起き上がった俺は、舞奈を呼びに行った。

 俺は平日だろうが休日だろうが、同じ時間に起きるようにしている。休日でもアラームを欠かさず、同じ時間に起きているのだ。毎日同じ時間に寝て、同じ時間に寝る。これが健康の秘訣なのだ。

 というより、平日に同じ時間に起きていると、どれだけ寝たくとも、休日も勝手に同じ時間に起きてしまう。もはやこれも習慣、あらため呪いみたいなものなのかもしれない。


「舞奈~、朝だぞ~」

「ん~、あと三時間~」


 舞奈は布団を足の間に挟み、抱き枕の要領で寝ていた。まぁ、今日は休日だから舞奈を寝かせておくのもいいだろう。

 舞奈は朝から部屋でノリノリの音楽をかけていることもあるが、こういう静かな休日も悪くない。俺はリビングに向かった。


『さっきの格闘技のおばちゃんに蹴ってもらった方が良かったんちゃう?』


 俺はコーヒーを入れ、パンを作り、バラエティ番組を見ていた。若者に人気のある、潜入捜査官スクープという番組だ。

 コーヒーを飲みながらパンを食べ、ソーセージと醤油のきいた目玉焼きを食べる。咀嚼をしながらバラエティ番組を見るというこの優雅な休日が、俺のひっそりとした楽しみなのだ。


 静かなリビングでくつろぎながらテレビを見るこの姿は、さしずめ都会のマダムといったところだろう。テレビ番組では東京のことばかり放送されるので、東京に住んだこともないのに東京の地区について詳しくなってしまう。

 両親はブラック企業に勤めているため、休日の今日も会社に行っている。社畜の両親に幸あれ。


「お兄ちゃ~ん」


 舞奈が扉を開け、リビングに入ってきた。目をこすりながら、重たい瞼を半分開き、俺を見る。


「遅かったな」

「お兄ちゃん、ご飯」

「悪いなのび奈、このご飯は一人用なんだ」


 俺はソーセージをフォークで刺し、口に放り込んだ。


「は? 別にお兄のご飯食べるとか言ってねぇし。何言ってんの? 馬鹿? 舞の作れ、って言ってんの」


 舞奈は次々に罵倒を浴びせてくる。舞奈はいつも、朝の機嫌が悪い。

 眠たいんだか体がだるいんだか知らんが、俺にぶつけないでほしい。全国の駄目な女子高生図鑑、とかいうものがあったらまずナンバーワンに選ばれている逸材だろう。


「お兄ご飯~~~~!」


 俺が舞奈を放置して新聞を読んでいると、舞奈がぐずりだした。母さんもきっと、こんな感じのぐずりを受けてきたんだろう。舞奈のぐずりを受けながらブラック企業の社畜をこなしていたとは、恐れ入る。


「お腹空いた~!」


 舞奈はむすっとした顔で、すとん、と座った。


「はいはい、作ればいいんだろ、作れば」


 俺はキッチンに立った。


「何食べたい? パンケーキ? 目玉焼き? それとも~」

「お兄と同じのでいいから早く作ってよ~」

「はいはい」


 俺はブラックコーヒー、目玉焼き、ソーセージにパンを簡単に作り、舞奈の前に置いた。


「コーヒーにミルク欲しい!」

「俺と同じのでいいって言っただろ」


 俺は砂糖とミルクを舞奈に渡した。全く、妹という属性は全世界こんな感じなんだろうか。


 妹萌えだなんて言葉があるだなんて信じられないね。最も、萌えだなんて言葉は古のオタクが絶滅すると共に死語になってしまっているのだが。


「美味しい」


 舞奈はパンを食べ、笑顔になった。


「お兄、舞今日買い物行きたい」

「行って来いよ」

「一緒に行こ?」

「え~」


 どうせまた荷物持ちをさせられるんだろう。俺が舞奈と一緒に買い物に行って何のメリットがあるのか教えて欲しい。


「面倒くさいから行かない」

「服いっぱい買いたいから来て。来てくれなかったら学校でお兄の悪い噂流すよ」

「お前は漫画の悪役キャラか」


 少女漫画だったら間違いなく当て馬だな。妹のわがままに付き合うのも兄の使命か。俺は舞奈と買い物に行くことにした。




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