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なろうラジオ大賞3投稿作品

ハットトリックは涙と共に

作者: くにたか あきな

 後半のアディショナルタイム、品川FCの選手がペナルティーエリア内で倒された瞬間に主審は迷わずPKスポットを指さした。

 サッカーJ1リーグ最終節、勝てば初のリーグ優勝が決まるホームチームの品川FCは、行田ゼリーフライヤーズを相手に2-2のスコアで終盤を迎えていた。歓声と悲鳴が混じり合うスタジアムの中、この日2得点を決めている剣持勇樹は主審からボールを受け取りPKスポットにセットした。

剣持は助走をとり主審の笛を聞くと、ゴールキーパーとの駆け引きもせずに思い切りボールを蹴り上げる。左上隅のゴールネットが大きく波打つ、ピッチに両手の拳を打ち付けて悔しがる相手ゴールキーパー、スタジアムに鳴り響く主審の長い笛、歓喜の声に包まれるスタジアム、芝の上に倒れこむ相手選手たち、この瞬間品川FCのリーグ初優勝が決まった。剣持はチームメイトからハットトリックを祝福される。しかし、剣持の顔に喜びの笑顔は無く、ただ目に涙を浮かべていた。

 この日、行田ゼリーフライヤーズのJ2降格が決まった。引き分けで終わればJ1残留できていた。剣持は優勝の喜びで降格の悲しみを隠そうと試みた。

 行田ゼリーフライヤーズの本拠地で生まれ育った剣持少年は自然な流れでファンになり、選手として入団してからもチームの象徴として活躍していた。しかし、長年の資金不足のためにチームは主力選手を放出せざるを得なくなり、2年前に剣持は品川FCへ移籍した。相手チームの選手として立ちはだかる剣持はプロとして責任と覚悟を持って試合に臨んだ。成長した姿をチーム関係者やサポーターに見せることが彼にできる恩返しだからだ。

 喜びを隠しきれないチームメイトの輪から離れた剣持は相手選手やスタッフに労いの言葉をかける。そして、スタジアムに駆け付けた行田ゼリーフライヤーズのサポーターが陣取るスタンドへ挨拶に向かう。

 俯いたままの剣持の頭上にパラパラと小さな拍手が送られる。拍手の波は次第にスタジアムを包み込む。ようやく顔を上げた剣持は行田ゼリーフライヤーズのサポーターが掲げる横断幕に目を奪われた。

「ドイツでも駆け抜けろ!いつまでも俺たちの剣持勇樹」

 スタジアム全体から歓声と拍手が沸き上がる。周囲を見回した剣持は、メインスタンドに来シーズンドイツのチームへ移籍する剣持を送り出すサポーター達によるメッセージが大きく作り上げられていた。冬空に万雷の拍手が長く鳴り響いた。


ここまでお付き合いいただきありがとうございます。

なろうラジオ内の「タイトルは面白そう」ではサッカー以外の内容も多かったですが、「ハットトリック」というテーマではサッカー以外の展開が思いつきませんでした。

発想力が求められるテーマですね。

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