発足編 B面終 咲良とものづくり支部
連日の猛稽古が終わり、たらふくちゃんこを平らげた超常現象現象解決部の面々はそれぞれが帰路につく。
しかし部長咲良は再び部室に戻ると、部長専用席の引き出しを開け、新たらしく発足したこの部に生徒会から捻出された部費が入った封筒をシャカシャカと音を立てて中身を確認するとニタリと笑った。
(フフフ。部長たる者、配慮が大事とちゃんと心得ているのよ)
不敵な笑みで、あろうことかその大切な部費をこっそりと懐に入れた咲良はとある場所へと悠然と向かうのであった。
咲良が向かった先は萬屋すーさんが勝手に作った支部が入る施設、ものづくり学校であった。
どうやら咲良は猛稽古にかまけて、まだ一度も足を踏み入れたことのない支部とやらに出向いたようだ。
そんな支部には今日も萬屋のメンバーが日替わりで詰めており、当日はヒーさんとタァクが暇そうにミシンに向かって何かを製作する女性をぼんやりと見詰めていた。
「よくもまぁ飽きもせずにそんな細かな作業してられんなぁ」
そろそろ酒が恋しくなり始めていたヒーさんは無心にミシンを操る女性に話しかけ、その女性は一息つくように顔を上げてそんなヒーさんに笑顔で答えた。
「だってこれがあたしがやりたいことだもん。楽しいわよ、物を作るって」
「あー無理むり! 俺にはそんな細々とした作業!」
「ハハ。ヒーさんは大雑把だからね。けどホントに感心するね、千惠子のその集中力にはさ」
かつては小学校であったその建物、ものづくり学校の入り口を潜ると、すぐに左正面にW〜Iと大きく看板を確認。その看板の脇に実に控えめに超常現象解決部の貼り紙があることに気付くと、その明かりが灯る部屋の扉の前に立ち、意を決してノックした。
まさかこの時間に来訪者が来るとは思ってもみなかった室内の3人は返事をすると、畏まった姿勢で扉を開く咲良に視線を向けた。
「おぉ! ついに鍛冶ガールが支部にも来てくれたのか!」
「やぁ、久しぶりだね咲良ちゃん!!」
「ヒーさん! それにタァクさんもお久しぶりです!!」
咲良は顔馴染みの萬屋の面々と気軽に挨拶を交わすと、始めて見る女性と目が合い、それが誰なのかヒーさんとタァクに質問。
タァクは立ち上がると紹介を始めた。
「彼女はこの部屋を借りている五十嵐千惠子! 俺達はみんな同級生でさ、この部屋を間借りして支部にしてるんだわ! 千惠子、紹介するよ、鍛冶ガールのリーダー咲良ちゃんだよ!」
「はじめましてぇ、一ノ門咲良です!」
「へぇーあなたがぁ……なるほどね、すーさんやヒーさんが熱を上げるのが何となく分かった気がする。改めて五十嵐千惠子よ、よろしくね!」
立ち上がった千惠子は意外と身長が高く、清潔感があり、白い頬を綻ばせて咲良と握手した。
咲良は初対面であるにも関わらず、昔から知っているかのような錯覚に陥ったが、タァクの述懐にてなるほどとスッキリしたか。
「鍛冶ガールのみんなに見てほしかったんだわ! 似てない!? ほら栞菜ちゃんとパートナーを組んでたあの狐の神様(※)に!」
「本当だぁぁぁ! 千恵さんにそっくり! それで初対面なのに違和感があったのか! というか千恵さんじゃないんですか!? あっ、これお土産です!」
「おっ!? わりーなぁ! 気を使うなって!」
部費を浪費して用意したお土産をヒーさんに渡し、グイグイと千惠子に迫る咲良の、その相変わらずの猪突猛進ぶりを見て土産を受け取りながらゲラゲラと笑ったヒーさんは説明を加えた。
「正真正銘、俺らの同級生だぜ! ここでほら、衣類なんかを作ってんだよ」
それを聞いた咲良は始めて部屋の隅々に視線を向けると、なるほど理路整然と被服にまつわるあらゆる道具と材料、はたまた資料やデザインなどがてんこ盛りであった。
そんな咲良に柔らかな笑顔を見せた千惠子は、自分の理想を語り始めた。
「私はね、お客様から頂いた仕事を100%手作りで仕上げる、オーダーメイド。つまり世界でたった一つの、その人の一点物を作る仕事をしているの! 衣服でも小物でもなんでもござれ! 丹精込めて作り上げた物を手渡した時のお客様の喜ぶ顔が何より大好きなの!」
そんな手間暇を掛けて様々な物を作り出す職人がいることに感動した咲良は、同時に早く栞菜にも会わせてみたいと熱望したに違いない。
「えーじゃあ、あの看板の意味はなんなんですか?」
「あぁ、あれね。W〜IつまりWI。誰かと私、必ず何かの糸で繋がってる。真ん中のうねりはそんな繋がりを意味してるの。気にいってるんだよね!」
絶妙なネーミングセンスで丁寧に逸品を仕立てる職人・千惠子との出会いは、その後も鍛冶ガールらのゆく先々で大いに彼女らを助けることとなる。
だが、この時の咲良は知る由もないわけだが。
「千惠子さん、今度是非とも会ってもらいたいメンバーがいるんです!」
「そうなの? 私も鍛冶ガールのみんなと早く会ってみたい! いつもすーさんやヒーさんが楽しそうに話すんだもん」
その後も咲良はタァクとヒーさん、千惠子を含めてお土産のお菓子をつまみながら、様々な話に華を咲かせた。
ムチ昇龍との猛稽古やら、超常現象解決部のメンバーらの話でその場は尽きることのない笑いが溢れる。
「それじゃあ今後とも御協力のほどを!!」
「あぁ! タァク、そろそろ俺達も町に繰り出そうぜ!?」
「俺はこれからマージャンの約束があるから! 咲良ちゃん、いつでもおいでー!」
「まぁた飲みに行く気ー? たまにはあたしが相手になってあげるわよ。咲良ちゃん、またおいで!」
時を忘れて語り合った咲良達。
今をときめくその若々しくも軽やかな身のこなしで支部を後にし、外を出て改めてものづくり学校を見上げていた。
「出会いがある度に一人じゃないって気付けるんだよね! よかったぁ今日来てみて!!」
そんな独り言を述べ終わると、暗がりからコツコツと歩み寄る音と共に、馴染みのある声が咲良の耳に入ってきた。
「咲良? あんた何やってんのさ。こんなところに一人で寂しく。そうか! ついに茜ちゃん達に見放されてぼっちになっちゃったってわけか! ウフフフフフ」
「お姉ちゃん!? なんでお姉ちゃんがここにー!?」
ビシッとスーツを着込んだ咲良の姉・吉乃はものづくり学校を振り向くと、自身の職場がこの中にあるのだと端的に述べ、逆に咲良が何故ここにいるのかと改めて問いただした。
「へぇーなるほどねぇW〜Iね! あたしのこのカバンも千惠子さんにオーダーして作ってもらった物なのよね。スッゴク使い勝手がよくて丈夫だし、ホントいい仕事するのよねー千惠子さんて!」
なんと身近にたった今知り合ったばかりのこだわりの裁縫職人が作りし物を持っている人物がいようとは。
咲良は益々なにか不思議な力に引き寄せられているような感覚に浸ると、姉と肩を並べて帰路につくのであった。
「仕事順調ー??」
「それがさぁあたしが担当してる物件でなかなかクラウドファンディングの資金が集まらなくってさぁ……」
「なにそれー? 雲? 必殺技?!」
ブツブツと愚痴を溢しながらも、その意味さえ知らぬまだ子供であり、可愛い妹でもある咲良の頭をポンポン叩く吉乃。
聞いたことのない世界の話を興味津々に聞く咲良ではあったが、ちゃんこを平らげたにも関わらず夕飯が何か気になり出しつつ、いつもとは違った帰り道を噛み締めながら歩くのであった。
そしてそれぞれの想いを込めて、妖怪・千秋楽との死闘が幕を開ける。
結果は皆さんがご存知の通りであり、そんな物語の可憐にして今をときめく美少女のプライベートのワンシーンなのであった。
鍛冶ガールNext!! 超常現象解決部 発足編 B面 完
またどこかで彼女達の物語は始まる!
これにて発足編、完全終了!
お付き合い頂いた方々に深く感謝すると共に、次回作ま何卒萬しくお願い申し上げます!
ありがとうございました!