超常現象解決部! 発足編4
各クラスを出発した美少女達は校長室目指して歩いていたが、最初に辿り着いたのは咲良と茜、そして軍司であった。
コンコンコンとノックすると、枯れ声で入室を許可する声が届く。
恐る恐る入ると、驚くことに自分達の担任教師の姿まであった。
「あれー? なんで足軽先生までいるのー??」
ワナワナと弱々しくも、それに答えるようにボソボソと呟く足軽教諭。
「いやぁ……何でなんでしょうかぁ……ハハハ」
冴えない風貌にずり落ちたメガネを上げる様は、まさにうだつの上がらないという言葉がピッタリであった。
しかし他にも見慣れぬ教師が2人。茜と軍司はそれが誰なのか興味津々であったか、それとなく観察したりしていた。
そんな3人を取り敢えず重厚なソファーに座らせ、まことらが来るまでの間に6人を集めた訳を説明し始めたのは、総欅の立派な机に両手を置き、必須アイテムの肘掛け付きレザーチェアーに腰を落ち着けていた、しわがれ声の校長だ。
「こちらの二人、伴場先生は三年の、そして海野先生は新一年生の受け持ちです。つまり、鍜冶町さん五十嵐さん、それに中浦さんと四季彩さんの担任ということです」
要は咲良達の担任教師3人というわけか、新年度から赴任してきたことも相俟って、咲良達には馴染みのない教師達であったが、長身の伴場教諭はニタニタ笑いながら茜を見ていた。
もう一方の物静かな感じの海野教諭も上下スーツでビシッときめ、タイトスカートから伸びる脚は絶妙な肉付きであった。
そして不気味に口で笑い、銀縁メガネで視線は隠していた。
後の話しは残りの4人が来てからということで、謎の沈黙が続き、キョロキョロと珍しい校長室を見渡す咲良と、折り目正しく着座する茜。
そして伴場教諭に言い知れぬ敵対心を感じる軍司は拳を握り、何故か脂汗をかいていた。
そんな頃、まことと栞菜は。
「ん? あれ四季彩と姫ちゃんじゃない!?」
「本当だ。何してるのかしら」
教室を出て校長室に向かう道すがら、多くの女子生徒に挨拶をされ、声を掛けられる度に立ち止まって笑顔で対応する生徒会長まこと。
校長室へ向かうというミッションは遅々として進まず、苛立ち始めた栞菜が発見した四季彩と姫子は何故か水槽を楽しそうに観察していた。
こらこら君達は校長室に行く手はずでしょと首根っこを掴んだ栞菜は、迷子の果てに自分達の目的すら忘却の彼方へと忘れ去ったかのように楽しんでいた天文娘2人を引き連れ、この際だからまことはおいて行こうと決意した。
「ちょっ、待ってよ栞菜ってばぁ!」
全校生徒の憧れの存在である生徒会長の慌てた言動を無視し、栞菜は突き進む。
「そうでした……校長室へ行くんでした。エヘヘ」
「私としたことが! 金魚を観ていると時の流れを忘れてしまいましたわ!!」
「はいはい、行くわよ」
ぶりっ子と天然の天文コンビを軽くあしらいつつも、栞菜は目的地へと着くと一呼吸。
コンコンコンとノックすると、追い付いてきたまことを全面に押し出して入室。
遂に鍛冶ガールの6名+軍司は目的地にて顔を合わせたことになる。
「ヤッホー!」
「遅いよ!」
「何やってたんだよ!」
謎の無言プレイを受け続けていた咲良達は遅れて来た面々に開口一番そう文句を垂れ流したが、やはり担任までいることに不信感を抱いたのはまことであり、栞菜であった。
「遅くなりすみません!」
指定されたソファーに落ち着き、全員は一斉に校長とその脇に控える担任らを順繰りと見た。
やっと本題に入れるとばかりに身を乗り出した校長は、彼女らを見詰めながら口を開いた。
「かねてからの要望通り、部の発足を認めましょう!」
突然の発表の意味さえ分からない面々は、怪訝そうに顔を見合わせて首を傾げた。
しかし瞳を輝かせ、立ち上がったのは咲良だ。
「やったね! じゃんじゃん募集しちゃおうよ!」
1人だけ喜びはしゃぐ咲良を尻目に、冷静を装うまことは何のことかと校長に訊ねる。
校長は全会一致の要望であると思っていたが故に、驚きの表情で各担任を見渡すと一つ咳払いをして補足し始めた。
「おほん。私はてっきり全員で部の発足を申請したのかと思っていたが……巷で起こる怪奇現象や超常現象を解決するのが鍛冶ガールの役目とか。その受け皿となる部をどうしても作らせて欲しいとの要望だったんだがな」
咲良を除く面々はいつの間にそんな申請を出していたのかと一人喜びはしゃぐ咲良を問い詰めたが、短めの髪をくしゃくしゃしながら咲良は陳謝した。
「エッヘへ。みんなに言うの忘れてた! だってさぁお相撲さんもあれっきり見つからないし、無闇に調査したって空振ってばかだったっしょ?」
調査とはつい先日の昼下がり、一ノ木戸商店街を練り歩いたことを言っているようだ。
しかし調査と言っても三人ずつに別れ、道路を挟んで反対側を上から下へと散歩しただけではなかったか。
しかも途中にあるカフェでお茶したり、書店を一周したりと町ブラしたに等しい結果であった。
以上のことを代わりばんこにツッコんだメンバーであったが、確かに一度出現し、商店街を荒らし回った力士姿の巨大な妖怪だか神様だかは、それっきり杳として行方知れずのままであった。
彼女らの使命は世界平和一択であり、困っている人を助ける存在であり続けることである。
従って誰かが困難に陥っているのならば手助けする義務があり、その為の部であると咲良は熱弁を振るった。
「解決部があれば絶対その類いの困ったさんがきっと向こうから来るよ、絶対!」
町の便利屋さんじゃないのだからと最初は思ったが、なる程それはそれなりに名案ではないかと妙に納得したメンバーらは、校長の鶴の一声によって新たに設けられた部室へと誘われることとなった。
「後の事は伴場先生と海野先生に万事任せているから、質問や今後の方針なんかは部室で話し合うといい」
校長はそれっきり、己の任務を終えたとばかりに黒光りする鞄に多彩な書類をしまい始めた。
校長も色々と忙しいのか、部屋を出る間際に電気を消して退室するようにとエコノミストな面を見せつつ、そそくさと出ていった。
「んじゃあ我らが部室へ行くか!」
強面の伴場教諭は存外砕けた口調でメンバーを見渡すと先陣を切って歩き出す。
最後に残った唯一何も知らされていなかった足軽教諭を促すように校長室を空にした海野教諭は、一度室内をぐるりと見回してから電気のスイッチを切り、厳重に施錠していくのであった。
ワイワイガヤガヤと校内を歩く今をときめく鍛冶ガールらは、三人の顧問+マネージャー?となった軍司と共に、まだ見ぬ部室へと歩を進めるのであった。
つづく