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発足編 B面4 茜と部活

 超常現象解決部の発足から鍛冶ガールとそれに付随する関係者らは日常生活を投げ売って目下の目標である妖怪・千秋楽打倒を達成すべく南高のシンボル大桜の下で稽古に励む。


 が、やはり全てを投げ売ってとはいかない。


 この日は萬屋すーさんと咲良はマルシェの打ち合わせで参加しておらず、まことも生徒会に出向し、海鏡も他出していたこともあってか連日の猛稽古でバテ気味のムチ昇龍に早めのちゃんこと就寝を約束し、それぞれは空いた時間を有効活用する。


 特に陸上部との掛け持ちを余儀なくされた茜にとってそれは千載一遇のチャンス、相撲勝負も近いがその先には陸上大会も控えている。



「じゃあ私はこのまま陸上部に行くから!」


 片付けも程々に茜は解決部とはまた違った情熱を燃やして、目と鼻の先で練習に励む競技者達の中に消えて行った。


「茜さんも大変ですねぇ」

「そうですわね。こんな時こそ(わたくし)()()()がせめて片付けくらいこなさなくては!」


 仲間思いで張り切る四季彩にキレのあるツッコミを入れたのは解決部唯一の男性にして何をするのかその役割さえ不明な軍司であった。



「おいおい()()()()! 帰宅部じゃねーだろ。あんたは解決部の部員だろー」

「あら! そうでしたわ! 私も解決部に所属する立派な活動者でしたわね、軍司()()!!」


『アハハハハ』


 解決部の発足によりこの男、小滝(こたき)軍司もまた剣道部との掛け持ちをこなす立場にある。

 茜同様に春の県予選が近いが、茜のように真っ先に剣道部へと向かおうとしない。

 年下の姫子と、年下ではないにしてもこの時代の()()()()である四季彩らにあれこれと日常をレクチャーし、先輩呼ばわりされるのが彼の癒やしであった。



(先輩! んーー!! なんていい響きなんだっ。しかもこんなに可愛い姫子ちゃんと会長さんに勝るとも劣らない美貌(びぼう)の持ち主のシッキーから慕われるなんて……解決部サイコー!!)



 (よこしな)な男子学生、いや男子学生とは得てしてこういったものか、とにかくいつまでも後輩らとデレデレするそんな軍司を見て怒気(どき)を含んだ鋭い視線を送る剣道着姿の者が1名。


「小滝ーー!! そっちが終わったのならば何故すぐに道場にこないっ」 

「ひっ……ぶ、部長…………」


 その威勢のよい声に、連日しつこい足軽教諭の嘆願(たんがん)を回避することが日課になりつつある栞菜が即反応した。

 いや迷惑千万なる足軽を体よく振り払うには絶好のチャンスとみたに違いないが。


「うるさいわね! あんた誰よ! 部外者は立ち入り禁止よっ」


 立ち入りも何もここはグラウンドの片隅であり、在校生ならばこそ(たたず)むことが許されるはずだが。


「これは失礼! 俺は剣道部の部長! 五十嵐栞菜、あんた誰はないだろ! 同じクラスの隣の席の俺を忘れるとはよもや恋愛などに(うつつ)を抜かしているのではなかろうな!? そして小滝! 貴様それでも()()か! さぁ道場へ行くぞっ。今日は全員から一本取るまで帰さぬから覚悟しておけぃ」



 荒れ狂う剣道部の部長はそう言って軍司の襟元(えりもと)を掴むと校内に消えていった。


「凄い迫力です……」

「軍司先輩も剣に生きる武士なのですね…………」


 栞菜はズリ落ちたメガネを一度上げると、腰に垂らした大福帳を取り上げ、ペラペラとページをめくると今度はつらつらと喋り始めた。


「剣道部。南高運動部で最も()()と烙印を押された軟弱部。部長は一見強そうな物腰ではあるが腕は小学生()。つまりは全国制覇を目標にする()()()()()くんにとっては参加する意義もなしといったところね。だったら古城館(こじょうかん)※に練習に行ったほうがどれだけ有意義だか」


「えーー?! あれだけ武士道精神の塊みたいな人なのにですかぁ〜??」

「人は見かけによらないとはこのことですわね。さぁ片付けを済ませてムチ昇龍関のちゃんこの相伴(しょうばん)にあずかりますわよ、姫子さん!」


「そうそう片付けしましょう! それに歴史研究クラブ、今日こそ連れて行ってもらいますよ、五十嵐さん!」

「シャラーップ! おだまり草教師! しつこいにも程があるわよっ」



 これがいつもの解決部の風景であった。

 それに加えて四季彩はアスパラガスの話を永遠と語り聞かせ、姫子は顆粒がスポーツドリンクになる奇跡をぶりっ子よろしく話すのだから片付けは遅々(ちち)として進まないのであった。



 そして遠目でそんな栞菜達を興味津々で見るは陸上部、茜の同胞らであった。

 彼女らは久しぶりに部活にやって来た茜に謎の部の活動を細部に渡って質問し、やっと着替えて柔軟体操を始めた茜の練習メニューもまた遅々として進まない。



「こらーそこぉ! 何をサボってんだ! ほら早くダッシュしてこい!」

「えーだってー。せっかく茜が来たから色々と解決部のことを聞こうと思ったのに……」


 ここにまた解決部の顧問と陸上部の顧問を掛け持つ男が一人。

 それは伴場教諭であり、厳しく陸上部の部員らに監視の目を向けていたのだが、話がこと解決部へと流れると相好(そうごう)を崩し、ベラベラと部員らの質問に答える回答者へと早変わりした。




「そうだなぁ解決部はなぁ……一言でいえばグレートでファンタスティックでエクスプロージョンなんだなぁこれが!! なぁ茜ぇ!! ガハハハハ」


 柔軟を終えた茜は肩慣らしと120mに設定したバーを睨むと助走。

 軸足で強く大地を蹴り上げるとドルフィンのようなキレイな放物線を描いてバーを飛び越え、バサッとマットに大の字に着地し、心の中で呟くのであった。



(どこへ行っても落ち着いて高飛びなんか出来たものじゃない……はぁ、もう帰ろうかな)



 抜群のプロポーションを包み込む練習着の崩れを直しつつ、テクテクと更衣室へと向かう茜なのであった。




「めーんっっっ!!」


 ドドン、ドタンバン。

 ここは汗臭い剣道部の道場。

 であるが数名の部員らは腰砕けにゼェゼェと息を荒らげて仁王立ちする一人のフル装備の男を見上げていた。


「これで終わりかよ!? てんで相手にならねーんだよテメーらじゃ! 部長! さぁもう一本!!」

「こ、小滝……お前は立派な剣士だ……もう何も教えることは……な……い…………」 

「はぁ〜!? 別にひとっつも教えてもらってねーよ! ほら立てザコ共ぉぉぉ」



 猛勇を振るう軍司と残念至極な茜のそんな一日のくだりであった。



 ※前作、鍛冶ガールを参照



 次回、B面 栞菜と歴史研究クラブ


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