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発足編33 町は一つになりにけり

 咲良の指し示した方角には突然姿を消し、ついには意識不明で運ばれてきた千秋楽を心配する数々の妖怪達が不安そうに一塊となってこちらを見ていた。

 そして咲良は前々から考えていたことを明かした。



「ねぇ、千秋楽! 妖怪大相撲なんて作っちゃったらどうかな?」


 急な咲良の提案に、他の鍛冶ガールらはまたもや咲良が珍奇な発言をし始めたぞとしかめっ面で互いを見合ったが、その提案に賛成したのは他でもない嘉坪山であったか。


「おぉそれはいい考えぞ! 千秋楽、俺も天界大相撲で横綱にまで上り詰め、前人未到の十場所連続優勝の記録を打ち立ててな、ついに殿堂入りを果たしたのだ。それでな、俺はもうやりたいことはやり尽くしたと心からそう思い、実は引退を決意したのだ」



 あれだけの強さを誇る嘉坪山の口から引退の二文字が出たことに居合わす者達は一様に驚きを隠せなかったが、嘉坪山はなおも今後の生き方について話を続けた。


「それでな、俺は()()となって後進の育成に励むつもりだ! それにこれまでの長く険しい稽古の傍らで(つちか)ってきた旨いちゃんこレシピを元にちゃんこ屋も開店する予定だ!」


 相撲部屋の親方とちゃんこ屋の店主。

 今流行りの二刀流で今後は天界で貢献していくと清々しく語る嘉坪山。

 死後の世界のはずのその天界にもこの世と等しい人生があるものなのかとまだうら若き少女達には理解し難かったが、咲良はなお一層千秋楽の分厚い肩を叩いて同調した。



「そうだよ! 千秋楽も引退するんだったら千秋部屋を作ってあそこにいる妖怪達を手始めに育てあげてさ。ゆくゆくは妖怪大相撲を開催したら凄いことになるじゃん! それに嘉坪山と同じようにちゃんこ屋も開こうよ! 千秋楽もやっぱり稽古・ちゃんこ・昼寝の三原則やってきたんでしょ!?」


 千秋楽はなおも不安げにこちらを見詰める妖怪達がいつの間にか自分の人生の一部と化していることに気付き、お先真っ暗であった自分の道が明るく照らし出されたような気がした。


 だが問題はまだ山積であったか。



「それはおいどんもやってみたいでごわす。だが何処でやればよいものやらとんと検討もつかぬ……いまさら魔界に戻ったところでこの信念を理解してくれる者がいるかどうかも……」


 図体の割に細かいことをネチネチとネチ弁する千秋楽に、叱りつけるように言葉を吐いたのはウジウジ大嫌いの栞菜であった。


「こまっかいことをネチネチと! それでも男なの!? 場所?! そんなの()()でいいじゃないのっ」


 その栞菜の言葉に急にビー玉のような瞳を輝かせた鍛冶ガールらはこぞってその言葉に賛同し始めた。



「そうですよぉ! このお城はまだ何にも使われてないんですもの!」

「そう! なんたってこの城は私達鍛冶ガールの()()()()ってことになってんだから!」

「それは名案ですわ! 妖怪大相撲。きっと後々に盛況となるは間違いなしですわ」

「どう? 千秋楽。あなたがその気なら私達鍛冶ガールが全面的に協力するけれど!」



 千秋楽は昨日の敵は今日の友とばかりにうら若き今をときめく美少女らが急に天使に見えたに違いなく、追い打ちをかけるかのように増援も駆け付けた。

 それはムチ昇龍改め萬屋のムッチとすーさんであった。


「だったらちゃんこ屋は俺の監修ってことにしてくれよな!」

「ムチ昇龍! じゃなかった、もう普通のムッチだよね」

「ムチ昇龍殿、協力してくれるか?」


 どでかい萬のマーク入のポロシャツに腰パン姿のムッチは先程まで熱戦を繰り広げていた力士とは思えぬほどファンキーであったが、胸を叩いて懇願する嘉坪山に答えた。


「だって相撲部屋とかはよく分からないけど、飲食店をオープンさせるなら調理師の資格が必要なんだぞ? 前にも言った通り俺はその資格持ちだぜ! まっかされよう!!」


「クラ、クラウド……なんだったかなぁ…… いっつもお姉ちゃんが仕事で連呼しまくってるやつ!」

「あぁ資金調達のことね。そうね何かと物入りになるわよね」


 話は高速でまとまり、なんとこの三条城の雄大なる敷地に妖怪大相撲の土俵とちゃんこ屋が建設されることとなった。


「んー名前は……ちゃんこ・嘉坪(かつぼ)で決まりね!」

「おぉ我が名を使ってくれるか!? なれば天界で開く俺の店の名はちゃんこ・千秋(せんしゅう)にするか!」


 またたく間に話は進み、観客に感動と躍動を生んだ千秋楽の新たなる門出。

 千秋楽や妖怪らも町の土木作業員やらの職を紹介してもらい、資金は順調に集まり、町は一つとなって動きはじめるのであった。


 そんな町中が一致団結する姿を遥か上空から(うらや)しそうに見詰める嘉坪山。そして龍神の2人。


「心配だったらいつでも様子を見に来てもいいんだぞ、嘉坪山!」

「そんなことが許されるのですか、龍神様。俺はとっくにこの世を去った者……それに今を生きる人々が驚きはしませんか?」

「驚きはするだろうな。けどこの町には妖怪も天狗も実際にいるからなぁ……それに俺達龍神が本性を現したって観客は何とも思ってなかったぜ?」


「た、確かに……不思議な町になったものですね……」

「鍛冶ガールがいるところに不思議な現象は起きる。それでいいのだ…………」




 新世界は常にアップデートされていく。

 その中心にはいつも今をときめく美少女集団。

 鍛冶ガールがおり、世界を明るく照らし続けるのであった。



 つづく


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