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発足編32 勝敗の先にあるものとは

 相変わらずのどす黒い炎の妖気をまとった千秋楽は、ムチ昇龍とは比べようもない巨大な霊力を帯びた嘉坪山に己の全てを賭けて挑む。

 対するムチ昇龍に乗り移った嘉坪山もまた、死してなお相撲道に邁進(まいしん)してきていただけあってズシリと重い四股(しこ)を踏んで迎え撃つ。



「のりゃーー!! くらえぃ炎熱猛進撃(えんねつもうしんげき)ぃぃぃ」


 嘉坪山が予想していたスピードを遥かに上回る突進で迫りくる千秋楽。しかし慌てず腰を落とした嘉坪山は足に力を入れて千秋楽の巨体を受け止める。


(さすがは鍛冶ガールが鍛えし現世の力士(せんし)! 俺が力を込めても持ちこたえそうだ! それに咲良殿の力が加わればいつもの力が出せる!)



「なんと! あの千秋楽の炎熱猛進撃を受け止めおった!」

「しかも一歩も引かぬぞ!」

「やるのぉ()()()嘉坪山!」


 どうやら長老衆クラスの年齢になると嘉坪山のその名と不遇の人生を知る者もいるようで老体の叱咤激励(しだたげきれい)に刺激されるように観客らは嘉坪山と鍛冶ガールの応援に必死となる。



 嘉坪山は素早く千秋楽の突進技を()い潜ると距離を取りニヤリと笑い、同様に挨拶代わりの己の技を簡単にいなされた千秋楽もまたニタリとほくそ笑んだか。


 待ちわびた一戦を堪能(たんのう)するかのような両者。千秋楽は再び唯一名付けた己の必殺技を繰り出した。

 しかし天界大相撲なる土俵で磨き上げた嘉坪山の千里眼(せんりがん)は、その動きがスロー再生のように見えていた。


「くらえぃ!!」

「あまいっ! それ八艘飛(はっそうと)びだ!!」


 茜とムチ昇龍のコラボ技を遥かに上回る洗練(せんれん)されたその八艘飛びは、見事に千秋楽の突進を回避し、観客らの歓声にその場は一斉に沸き立ったが、千秋楽はまたもやニタリと笑うと即座に嘉坪山を捕捉(ほそく)、再び猛追してゆく。



「かかったなぁ嘉坪山ぁ! 今のはただの突進! これが本命の炎熱猛進撃でごわぁーーす!!」


 なんと一発目は八艘飛びにかわされることを予期していた千秋楽は、二度目に全てを賭けるつもりで着地したばかりの嘉坪山目掛けて最大出力の炎熱猛進撃をみまうつもりだったのだ。

 対する嘉坪山は咲良と深くシンクロすると、爛々(らんらん)と燃え盛る霊気を噴出。

 阿修羅の如く迫り来る千秋楽に渾身の一撃を放った。



「いけぇーー!! 嘉坪山ぁぁ!」

「おう! はぁぁぁぁ、くらえ(しん)火炎張(かえんは)り手ぇぇぇ」


 まるで小隕石のような火球の連打が逆に千秋楽を襲う。

 千秋楽も始めこそその隕石群を弾き飛ばしつつ前進したが、止めどなく打ち出される嘉坪山の真・火炎張り手に徐々に押され始めたか。


「ぐぬぬぬぬ……この程度で負けはせんぞぉぉ!」

「はぁぁぁ!」


 真っ赤な炎とどす黒い炎は土俵上で激しく衝突し合い、その度に火花が飛び散り、辺り一面を灼熱地獄へと変えたが、観客、さらには鍛冶ガールら関係者達は必死になって火炎張り手を放つ嘉坪山と、間断(かんだん)なく自身の力を注ぎ続ける咲良に声を枯らせて声援を送った。



「咲良頑張るのよっ」

「咲良、お前の気合いはこんなもんかよぉぉ」

「あと少し、あと少しですよぉ! 嘉坪山ぁぁ」

「部長! 頑張ってぇぇぇ」

「吹き飛ばしちゃえ! 嘉坪山ーー!!」

「頑張れ嘉坪山……頑張るのよ咲良!」



「いくぞ、咲良殿! ふのぉぉぉぉー!」

「オッケー! はぁぁぁぁ!」


「ぐぐぐ……ぐわーーー!!」


 ついに千秋楽は咲良と嘉坪山の真・火炎張り手に押し切られ土俵外へ、昭栄大橋に激しく激突。

 辺り一面に土煙が巻き起こり、プスプスと焦げ付いた臭いが充満した。

 それまで正義の力士と鍛冶ガールの応援に熱を入れていた観客は静まり返り、無音の時が過ぎたか。

 土俵に残った嘉坪山は偉丈夫(いじょうふ)よろしく土俵外は千秋楽を見詰め続けるのであった。



「かつぼぉやまぁ〜!」


 行司・天狗は高らかに軍配を西にかざすと嘉坪山の勝利宣言をし、この長い長い戦いがようやく終わったのだと美少女達は肩をなで下ろし、数々の名シーンを生んだムチ昇龍、千秋楽、そして嘉坪山、さらには鍛冶ガールらに惜しみない拍手と大歓声を送り続けるのであった。


「やったぁ! カッコいい!!」

「鍛冶ガールーー!!」


 集まった子供達は激戦を制した嘉坪山と麗しき美少女らに熱烈なる声援を送り続けるのであった。


(あら? 観に来ていたのね。応援、感謝いたしますわ!)

  


 四季彩はそんな子供らに女神のような笑顔を振りまいた。

 その後、意識を失った千秋楽を三条城へと運んだ鍛冶ガール。

 それは町のイベントは午後3時で終わりを迎え、集まった数万にも及ぶ客を速やかにはけさせるためであり、千秋楽と今後について話し合う場を設けるためでもあった。


 萬屋連中は祝勝会と称してまだ酒を煽るつもりで会場を抑えに本寺小路へと繰り出し、誘われた長老衆も行司を務め上げた宮天狗と語らい、ぞろぞろと小路へと消えていった。




「むむ……ここは……」


 妖怪とはいえ鍛冶ガール全員を相手取り戦い抜いた千秋楽は小一時間ほど後に意識を回復させ、視界に広がる大きく広い空を見詰めながらも取り組みがどうなったのか回想し、周りに鍛冶ガールと嘉坪山がいることに気付くとムクッと起き上がった。



「なかなか気合いのこもった技だったぞ、千秋楽」


 試合後、ムッチの精神と体調を考慮して即座に融合を解いた嘉坪山は半透明ではあったが、確かにそこに存在し、全力を出し切ったライバルへと温かい笑顔と優しい口調とで千秋楽の前にしゃがみ込んだ。

 千秋楽はすんなりと負けを認め、(うつ)ろな目で手付かずのままの城の敷地を見渡していた。

 茫然自失(ぼうぜんじしつ)となった千秋楽の今後を憂いた嘉坪山はこれからどうするのかと聞かずにはいられなかったか。   



「わからん……だが一つだけ言えることは、おいどんはこの三条の地を離れなくてはならないということだけ……」


 嘉坪山の心配事は見事に的中していた。

 それは己と出会う前と同様に目的も信念もない昔のような荒くれ者に戻ってしまうということであった。


「それに相撲ももう(しま)いじゃ。どれだけ努力しても勝てぬものは勝てぬが道理……」



 それを聞いた鍛冶ガールらはただ相撲で勝ち、町に迷惑をかける妖怪を追い出せば終わりではないことに初めて気付いた。

 最初からその事までも想定していたのは唯一咲良だけだったに違いない。


 ツカツカと消沈(しょうちん)する千秋楽に近付いた咲良は、彼が稽古相手に、いやいつの間にか千秋楽の周りに集まって来ていた妖怪達を指差して静かに語り出すのであった。



 つづく


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