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発足編30 大将咲良、出陣!

 姫子、四季彩、茜、まことと立て続けにその力を得たムチ昇龍と熱戦を繰り広げて来ていた千秋楽は、足軽の思惑通りに疲れを見せ始めていた。

 いや、そのはずであった。

 しかし茜からまことへとバトンタッチした頃から明らかになお一層の進化を遂げ、大将咲良を前に相対することになった栞菜はこんなことを考えていた。



(無理! 無茶! 今にも吹っ飛ばされそうなんですけどぉぉぉ)


 こんなことになるのであればもう少し早く出番が来て欲しかったと悔やんだが、それは後悔先に立たず、覆水盆(ふくすいぼん)に返らずという(ことわざ)で先人が示した通りであったか。

 それでも迫りくる黒炎を宿した妖怪をなんとか抑え、反撃の機会を伺うあたりはタダでは負けぬと栞菜の意地ともいえる性格がよく表れていた。


 素早く横にスライドし、うまいこと距離を取ったムチ昇龍は栞菜との合技(ごうぎ)に全神経を集中させた。

 覚醒した千秋楽はもはやムチ昇龍をムチ昇龍と見てはおらず、積年のライバルにして唯一の友とも言える嘉坪山としか認識しておらず、一つ覚えの突進を開始。

 対する栞菜は足軽教諭と示し合わせたかのようにタイミングを見計らって大技に打って出た。

 


「そこよ! いけぇぇぇーー必殺・蹴手繰(けたぐ)りっ」

「どっせぇぇぇぇーーーいっっっ」


 ムチ昇龍は千秋楽の突進の軌道を読み、少し身体を引きながらも器用に相手の内側から外側へと象の足のように図太い千秋楽の足を()り、バランスを崩したところで腕を手繰(たぐ)って前に倒そうとした。



「またまた大技じゃ!」

「蹴手繰りとはまた珍しい掛け手が出たぞい」


 童心長老衆は徳利(とっくり)とお猪口(ちょこ)を投げ出すように前のめりに蹴手繰りが決まったかと目を剥いたが、やはりすんなりとは決まらなかった。


 片足が崩されたにも関わらず奇妙にもう一方の足でけんけんしながらも千秋楽は残った。

 しかしまぁよくもこれだけの技を習得し、あまつさえ本番に鮮やかに発揮できるとは。

 相撲にうるさい連中もそうでない人々もこの勝負が並の一番(いちばん)でないことを肌で感じたであろうか。



「さぁ貴様の技に耐えてみせたぞ! そろそろ()()を発揮したらどうだ、嘉坪山ぁ……」


 こいつ何言ってんだと栞菜とムチ昇龍が疑問を呈したところで、この勝敗の行方はとっくに分からなくなっていた軍師・足軽は、最後の要である咲良と交代を宣言しゆく。



「ダメだ。もう一ノ門さんに賭けるしかない! 一ノ門さん、頼みますよぉ」

「はぁーい! よっしゃムチ昇龍再起動(リブート)!! どいて栞菜っ」


 隅に追いやられるように主座(しゅざ)に就いていた栞菜を引っ込めた咲良は、一気に開放した己の力をムチ昇龍に注入。

 マワシはメラメラと燃え(たぎ)る炎のような真っ赤な色に染まり、ムチ昇龍もまた炎の闘神にでもなったかのようにどす黒い炎をまとう千秋楽と同等の霊力を宿したか。



「おぉ! やっぱ咲良は他のメンバーとは一味違うなぁ」

「当たり前ですよ。シンクロ率であれば中浦さんや鍛冶町さんに及ばないにしても、彼女の攻撃的な霊力とムチ昇龍の闘魂は凄く相性がいいみたいなのです! だからこその大将! 一ノ門さんとムチ昇龍でも敵わないとしたら()()です…………」


 それを聞いた他のメンバーらはこぞって咲良とムチ昇龍の応援に回り、改めて場を(しつら)え直すかのように宮天狗が中央に、東に千秋楽、西にムチ昇龍と並び、再び戦いの火蓋が切られた。



「それ発気よいっ!!」


「ムチ昇龍! 始めっから全力でいくよ! いけぇーー火炎張り手ぇぇぇ!!!」


 その言葉に呼応するムチ昇龍は、その双眸(そうぼう)を燃え盛る炎に変えて、張り手を連打。

 その一つひとつは猛烈な火の玉となって千秋楽を襲う。


「どりゃー!! 命が続く限り火炎張り手を出し切ってやんぜぇぇぇ」


 まさに命を燃やした気合い(みなぎ)るムチ昇龍の張り手の応酬に、さしもの千秋楽も防御一辺倒。両手を十文字にして堪えるしかなかった。



「ぐぬぬぬぬ……一つひとつが重い! やるのぉ()()()()……おいどんも全力で答えるでなぁ。ふあぁぁぁぁ!!」


 土俵際まで押されていた千秋楽は十文字の防御を突如として解除すると流星の如く攻め寄せる火炎張り手に逆に飛び込んでいく。


「おらぁ! どすこーい! どすこーいっ」


 咲良とムチ昇龍の必殺技にして鍛冶ガール内最大の火力を誇る火炎張り手の、その火球をなんと千秋楽は丸太のように太い腕で方々に弾き、いなしながらムチ昇龍へと迫る。

 


「な、なにぃぃ!? ヤバいっすよ! 足軽先生!」

「打つ手なし……火炎張り手が効かない今、勝機はゼロ…………」


 早々に諦めかける足軽教諭を鼓舞するようにまこと達は咲良とムチ昇龍を叱咤激励(しったげきれい)したか。



「が、頑張ってぇぇムチ昇龍ぅぅ〜」

「負けるんじゃないわよ! 咲良っ」

「部長ぉぉぉ!」

「あんた気合いしか取り柄ないんだからもっと全力だしなさいよっ!」

「ムチ昇龍! 咲良!!」


 しかしその応援も虚しく、遂に千秋楽はムチ昇龍の懐まで到達。

 両者は互いにマワシを引き合うとこれまた真っ黒な炎と真っ赤な炎のせめぎ合いとなり、辺り一面を灼熱地獄へと変えた。


「ぐぉぉぉ嘉坪山ぁぁ」

「ふんぬ! 俺はムチ昇龍だっつーのぉ!」



 この一戦最大の山場を迎え、観客の守りに付いていたはずの伴峰と海鏡は咲良の両脇に控えていた。


「どうすんだ? このままでも()()()()()()勝てるかもだけどよ」

「それはダメだ。もう()()()は出番を待ち構えている……それが証拠に千秋楽は覚醒しているのだからな」



 そんな謎の会話に聞き耳を立てたり応援したりと忙しい鍛冶ガールらは、咲良と龍神らが密かに進めていたこの勝負の肝であるものがいったい何なのか急かした。



「うん。頃合いだね。頼んだわよ、伴峰! 海鏡!!」

「おっしゃやるぞ、海鏡!」

「……うん…………」



 2人の龍神がその絶大にして壮大な力を開放、巨大な龍へと变化(へんげ)したその時。

 はるか上空からムチ昇龍の炎のさらに上級の大きな霊力を秘めた炎の柱が舞い降りて来るのであった。



 つづく

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